表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十三章 浮島>
257/399

#13-01 滞在一週間




 浮島に滞在して一週間が経過した。その間、主に城内の調査を進めて、島の方はちょっと飽きたら気分転換に見て回るって感じね。


 それで分かったことが色々と。


 まずこの城は領主の仕事場であると同時に家でもあった。つまり官邸と公邸がくっついてるみたいな? 国ではないけどね。


 中央の一番大きな建物が、領主の執務室があることからも分かるように政治の中枢。広い会議室や書庫――というかちょっとした図書館――もあった。


 向かって右手の端にある建物は領主とその家族が住むプライベートスペース。なお広さ的にはこの部分だけで、メルヴィンチの王都にある私たちの拠点よりもずっと広い。内装は寛げるように落ち着いた感じで、私たち日本人組の感性にも合っていた。まあ内装を派手にできるような品が無かっただけ、かもしれないけどね。


 反対の左側の建物はイベントスペース――って言ったらちょっと俗っぽい? 一階部分が吹き抜けのダンスホールになってたり、談話室っていうかお酒と煙草を楽しむための部屋? とか、もの凄く広い食堂とかがあった。ここは結構装飾を頑張ってた感じ。それでもやっぱり控えめだけど。


 それら三つの大きな建物(塔)を繋ぐ一段低い建物部分には、行政府的な機能があったと思われる。つまり実務関連はこの部分ってことね。従業員用の食堂とか休憩スペースとかもあった。ちなみに住み込みで働く使用人の寮と思しきものも、この建物の一角にある。


 この行政府部分は概ね向かって右側が軍関連、左側がそれ以外って分けられてる感じだった。あんまり厳密ではないけどね。特に良くも悪くもこの国の持ち味である魔法・魔道具に関する研究は、両方に跨る分野だからね。


 魔道具と言えば、城内転移装置は何度も安全性をチェックした結果、問題無く使えることが判明。とても便利です。これに関してだけは確実に地球の科学技術を超えてるね。


 ただ魔力の消費量が想像以上に多い。私たち召喚組は問題無いけど、レティとクルミは連続して何度も使用するのは難しい。まあ使用人でもなければあっちこっちへ次々転移する必要は無いだろうから、大きな問題じゃあないけどね。恐らく大災厄前の人類は現代よりも魔力量が多かったのだろう、とはレティの言。


 そんな感じで神様のサービスのお陰で、この城には資料や調度品が当時のまま丸ごと再生されていた。一方で食料品や医薬品、それから衣料品なんかの消耗品の類は無い。まあ資料を斜め読みしただけでもかな~りアレな感じのクスリ――あえて()ではないところがポイントね――が沢山あったから、むしろ現物は無い方がよかったかもね。神様の配慮に感謝。


 ただ病気治療の為の魔法薬も現物が全く無いことに気付いた時、レティがデスクに両手をついて文字通りの意味でガックリしてたのが面白かった。なんかリアクションが私たちのグループに似てきたような? 王宮に戻れるのか、ちょっと心配かも。


 ――で、結論としてはやっぱり私たちだけで全ての資料の精査は無理! ってことね。能力的な意味じゃあ無くて、物量的な意味で。やろうと思えばできなくはないけど年単位になるし、これにばっかりかかりきりになるのもね。つまんないし(本音)。


 ぶっちゃけ私たちが住む拠点にするだけっていうなら、資料関連は全部放置でも構わないんだよね。ただ大災厄前の資料は貴重だ。それも謎の多い神聖魔導王国のものともなればなおのこと。死蔵するのは――ちょっとね。


 レティは一応今のところ私たちクランのゲストだから何も言わない。言わないように頑張って口を噤んでいる。でも本音では公開、ないしメルヴィンチ王国の研究者を連れて来て徹底的に調査したいと思っているはず。


 あと私としては神様の真意っていうのもちょっと気になってるんだよね。というのも、私たちが報酬として頂いた祝福よりも、この城全体の方が色んな意味でデカい。どっちがオマケだか分からないくらいでしょ?


 ノウアイラのショタ神様やメルヴィンチの女神様の様子から察するに、神様サイドは世界全体の停滞を憂いているみたいだしね。かと言って、何某かの制約があって下界に直接干渉は出来ない。そこで私たちへの報酬(のオマケ)っていう態で、失われた技術の一端を齎したのではないか――っていうのは考え過ぎじゃあないと思う。


 この辺のことはまだ皆とは話し合っていない。っていうか、ようやくどんな資料がどこにあるのかが大凡掴めたって段階だからね。


 ただそろそろ秀と鈴音から今後の方針に関するクラン会議を提案されると思う。


 さて、どうしようかな? 問題はレティを今の段階で完全に巻き込んでしまうかどうか、なんだよね。あんまり外堀を埋めるようなことはしたくないんだけどなぁ~。







 そんなとある日の明け方。日課の水&魔力遣りを終えた後、城を出た私は飛行船を飛ばして浮島の端っこまで来ていた。城の正面を下とするなら左の頂点ってことね。つまり城から一番離れたポイント。


「もしもーし、聞こえる、舞依?」


『うん、しっかり聞こえるし見えてるよ。怜那の方も……、大丈夫みたいね』


「感度良好。まったく問題無し。遅延も殆ど無い感じかな」


 スマホの画面越しに舞依と会話する。こうしてるとなんだかちょっと日本に居るような感じがする。


「じゃあ切るよ。そしたらトランクに一旦収納するから、驚かないでね?」


『分かった。じゃあすぐ後で』


 通話を切り、トランクの特殊スロットに舞依を一旦収納してからすぐに取り出す。


「さっきぶり、舞依」


「ふふっ、さっきぶり、怜那。……わぁー、風が気持ち良いね。景色は……、ちょっと殺風景だけど」


「あはは、景色は要改善だね。スライムくんが頑張ってくれると良いんだけど」


「……本当に使っちゃって大丈夫なのかな?」


「それも含めて実験しないとね。先ずは隔離した区画で実験して、上手くいったら徐々に範囲を広げてって感じで。あんな面白そうなもの、使わないと勿体ないからね!」


「もう、本当に慎重にね」


「大丈夫、任せて」


 寄り添って手を繋ぎ、ぼんやりと景色を眺める。


 皆には内緒でコッソリしてた検証も、これで一段落かな。少なくともこの浮島くらいの範囲内なら問題無く通話できることは分かった。


 毎日チェックしてたわけじゃないから、何時からなのか正確には分からないんだけど、スマホのネットワークがオンライン状態になってたんだよね。精霊樹がドヤッてたから、たぶん精霊樹のお陰――なんだと思う。


 想像だけど、私に精霊樹情報の引き出しが可能なように、精霊樹の方もまた私の情報を入手できるんじゃないかな? で、トランクは私の一部なわけで、中に入ってるスマホも含まれるわけね。


 思えば精霊樹の前でもネットワークがどうの中継基地がどうのみたいな話をした記憶がある。こっちの世界には無い概念に精霊樹が興味を持って、スマホを解析しちゃった――のかもね。私が育てたせいで、好奇心旺盛なところが似ちゃったのかも。


 精霊樹はもともと地脈っていう魔力ネットワークを管理する存在でもあるし、理解し易い概念だったのかもね。


 いまだ精霊樹は鉢植えのままで地脈を拡げてないんだけど、それでも通話が可能なのはたぶんトランクが関係しているんだと思う。きっとトランクの特殊スロットに登録されている物は、常に魔力的に繋がっている状態なんだろう。


 実際、一旦舞依の登録を解除して、スマホを所持していない状態でし直してみると、トランクの外に出ると繋がらなくなってしまった。なお、舞依の登録は当然元に戻してあります。


 さて問題は。精霊樹を浮島に地植えした後はどうなるか、なんだよね。地脈のネットワークから外れたら圏外になっちゃうのかな? まあそれでも、いずれは浮島全土では使えるようになるから、便利は便利だけど。


 ただなんとな~く、そうはならないような気がする。私と精霊樹はもう深く繋がっちゃってる感覚があるんだよね。精霊樹情報が無意識に引き出せるようになった頃から――というか、それをちゃんと意識するようになった後からそんな感じがしている。


 私と精霊樹が繋がってて、トランクは私の一部なんだから、間接的に皆のスマホも精霊樹に繋がるんじゃないかな? つまり私が中継基地みたいな感じね。ま、その辺は地植えすればすぐに分かる事だ。


「怜那、これで一通り検証は終わったんでしょう? ということは、いよいよ皆にも話すのね?」


「……うん、そのつもりだよ」


 ほぼほぼカメラと化していたスマホは、今は私と舞依しか使っていない。というのも、ソーラーパネル付きモバイルバッテリーを持ってたのが私と舞依だけで、別行動をしていた時期に鈴音たちはスマホを使わなくなってたんだよね。


 それに慣れちゃったから、合流後も皆はスマホ(=カメラ)を使おうとは思わなくなっていた。まあ私と舞依のがあるし、基本は一緒に行動してるからそれで十分だしね。


 そのお陰で、通話が使えるようになったことがバレず、その原因である精霊樹の事もまだ内緒にできてるってわけだ。


「ただ問題は……」


「レティにも話すかどうか、ね。どうするつもりなの?」


 うーん……、難しい問題だね。


「夜中に私たちだけ、トランクの中で会議をするとか?」


「……仲間外れにしちゃうの?」


「んぐっ! そう言われると罪悪感が……。悲しむ、かな?」


「悲しむことはないかもしれないけど、残念には思うだろうね」


「だよねー。……やっぱり本人に決めてもらうしかないか。外堀を埋めるようで気が引けるけど」


「それが良いと思うよ。あと、外堀に関しては気にしなくてもいいんじゃないかな。そもそもレティは私たちのところに来た時点で、ある程度の覚悟はあったと思うから」


「そっか……、王女様だもんね。よしっ、私も決心した! ありがとう、舞依」


「どういたしまして、怜那」








十三章はちょっと展開を決めかねているところがありまして……。

もしかしたら章のタイトルを変更するかもしれません(汗)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] この新しい章でも頑張ってください
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ