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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十二章 呪われた大陸>
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#12-28 乾いた地を潤すもの




 島流しにされた不毛の砂漠地帯に、ちゃんと生活できるような都市を築き上げたんだから、優秀な人材が数多く揃ってたんだろう。特に魔法の研究者はエルフだったみたいだから――報告書の言語からの推測――寿命も長いし、頼りになる存在だったに違いない。


 優秀な人材がいるならもっと普通の手段で土壌の改良をすればよかったのでは――とは、舞依とレティの常識的な意見ね。対して鈴音は、それだと時間がかかり過ぎるだろうから、使えるものは何でも使って取り組もうとするのは悪くないんじゃないか――っていう合理的な意見だった。


 堅実な方法で長い時間をかけて取り組むか。多少のリスクは込みで手っ取り早くいくか。どっちの考え方もアリだよね。私? 私は――この件に関しては、ちょっと違う見方かな?


「違うってどういう風に?」


「たぶん手段自体が目的だった研究者がいたんじゃないかな?」


「は?」「どういう事でしょう?」「……あぁ~」


 つまりさ、領主さんが土壌改良に乗り出そうって考えて相談したら、そういう研究やら実験やらをしていた人がいたんじゃないかな? こういうこともあろうかと、ってね。


 もしかしたら順番すら逆で、研究をしてた人がたまたま土壌改良にも役立つ可能性を見出して、実験も兼ねた提案を領主に持ち掛けたのかも。


 実用性があるのか? なんの意味があるのか? そんなことは全部後回し。好奇心と探求心の赴くままに、ただ研究に突き進む。うん、何か共感シンパシーを覚えるよね!


「……もう。怜那がそういう道に進まなくて良かったわ」


 えー? なんで頬に手を当てて溜息なんかついちゃうの、舞依。もしかしたら稀代のマッドサイエンティストとして歴史に名を残したかもしれないよ?


「あなた、自分で狂気マッドって言っちゃってるじゃないのよ」


 おっとしまった、つい……。


 ま、そういう冗談はさておき。


 土壌改良の実証実験は結果的に頓挫した――らしい。ハッキリと断言できないのは、結果が出る前に資料が途絶えてしまっているから。領主の手記も同時期に無くなってしまってるし、恐らく大災厄が始まってしまったんだろう。


 なお、大災厄に関する具体的な記述――例えば暴走の推移だとか被害状況だとか避難計画だとか――も見当たらない。資料が無いことから、事態が急速に動いたってことは分かる。彼らがどうなったのかは考えても仕方がない。神聖魔導王国は国ごと滅びたんだから、まあそういう事だろう。


「それにしても……、苦労して荒野に街を築いたっていうのに、その歴史は一〇〇年にも満たなかったのか。やるせないわね……」


 確かにね。千年以上も前の事だけど、ご冥福をお祈りしよう。どうぞ安らかに。跡地は私たちが有効活用しますので。


 ……落ち着いたら、舞依と一緒に居住地跡を巡って鎮魂の魔法を掛けて来ようかな?


 そんな感じで資料を読み進めていると秀たち屋外探索組が帰って来たので、私たちはエントランスホールまで出迎えに行った。


「お帰りなさい。何か収穫はあったの?」


「いろいろあったよ。そっちはどうかな。資料は見つかったのかい?」


「ええ。じゃあ報告会をしましょうか」


 じゃあ、せっかくだから発見した領主の執務室へご案内~。応接スペースでお茶でもしながらやりましょ。




「……という感じで、ざっと見て回ったところ、ここの住人の遺体らしきものは何処にも見当たらなかった。大災厄の時に魔物に……とも考えられるけど、全く跡形もないっていうのはちょっとおかしいと思う。この屋敷と同じく、神様が何かしてくれたと考えるべきかな」


 秀たちはまず、テーブルマウンテン山頂部にある建物の残骸を重点的に調べてみたらしい。バラバラの瓦礫の山かと思いきや、想像していたよりもいろいろ遺っていたとのこと。例えば魔道具らしきものとか本とかね。


「今回は見ただけで特に回収はしてこなかったけど、ちゃんと発掘すれば当時の生活について分かることもあるかもしれない。まあそれは考古学や歴史学の専門家を招いて調査して貰うべきかな」


「資料としては貴重かもしれないけれど……、ここに呼ぶの?」


「今後の展開次第では、ね」


 秀が肩を竦めて両方の手の平を上に向けて軽く笑う。


 まあ場所が場所だけに難し――くも無いのかな? なんか当時の魔道具ってところにレティが目を輝かせてるし。もしかしたらレティの伝手に声を掛ければ、学者さんたちが大挙して来るかも?


「人間や魔物が居ないのは分かっていたこととして、他の生き物は? 例えば小動物とか昆虫とか……」


 鈴音の問いかけに、探索組の二人+一匹が顔を見合わせ、それぞれ首を傾げた。


「僕はそれらしいものを見なかったけど……」


「右に同じくや。少なくとも犬猫サイズよりおっきな動物は、何処にもおらんかった」


「キュウキュウ(ウンウン)」


「小さな虫は探せば居るのかもしれないけど、全体的に生命を感じられなかったっていうのかな? 乾燥してて植物も少ないし、もしかしたら鳥もここまでは飛んで来ないのかもね」


「せやな。……あ、生き物ゆうたら例の正体不明の反応やけど、結局生き物やあらへんかったわ。たぶんなんかの魔物の魔法発動体やな」


 そう言うと久利栖は、自分の魔法鞄マジックバッグの中から何かを取り出してテーブルの上にバラバラと広げた。


 一見するとガラスっぽい小さな塊。透き通ってはいるけれど完全な透明ではなく、若干の濁りがある。色は水色とか緑色とか黄色とか結構カラフルだ。大きさ的にもサイズ的にもビー玉を歪にしたような感じを想像すると、だいたい合ってるんじゃないかな。


「あ」「それは……」「久利栖……」「……っ!」


「な、なんや、そんな目で見て。これがどうかしたん?」


 あはは。ビミョ~に非難混じりの視線を向けられてたじろいでるね。っていうか、魔法鞄の中に収納されてて、私も探知できなかったよ。盲点だったね。


「あー……、久利栖、それ一応生き物だから」


「はぁ?」「えっ?」「チチッ!?」


「信じられないかもしれないけどね。何を隠そう! それはみんな大好き、ファンタジー作品には付き物と言っていい、プニプニしてたりドロドロだったり弱かったり強かったり逃げ足が早かったりする、例のアレ……」


「「……スライム?」」


「大正解! 今回は特別に一〇〇〇ポイント進呈!」


 ファンタジー作品、特にゲームには必ずと言って出現する生物、スライム。まあ固有名称は作品によって違うけど、ゼリー状の生き物はスライムの仲間と言ってしまっていいだろう(※諸説あります)。


 で、この世界のスライムは、ゼリー状で透き通ってるプニプニタイプ。サイズは野球ボールとソフトボールの中間くらいと、割と小さい部類かな。


 この世界のスライムは乾燥した状況に長期間晒されると、体の水分を失っていき、最終的にはガラス玉のような固形物になる。その状態でも仮死状態で、一応生きてるらしい。実験の記録もあって、数十年単位で生き延びることは確認されてる、らしい。


「――とは言っても、さすがに千年もの間仮死状態だった個体が生き返ったという例は確認されていませんから、もしこれらが無事であれば新発見ですね」


「ほっほ~。で、どうやったら生き返るん?」


「水をかけたら戻るらしいよ?」


「インスタント食品!?」


「レ、レイナさん、その表現だとちょっと違います。充分な水分が周囲にある状況に一週間ほど置くと元に戻ります」


 あっはっは。まあ、ちょっとだけ違ったかも?


 ちなみにスライムは仮死状態になる際は大抵地中に潜る。つまり定期的に雨が降って、土に水が含まれるようになったら復活するってことね。








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