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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十二章 呪われた大陸>
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#12-26 領主の城




 ちょっと心配だった浮島の瘴気は、普通――よりもちょい濃いめ程度でレティを含む私たちなら特に問題にならないレベルだった。恐らく暗雲が瘴気を溜め込むのと同時に、外に漏らさない蓋の役目も果たしているんだと思う。普通よりも若干濃いってことは、時々雲の中に入っちゃうっていう推測も当たってたってことかな。


 瘴気よりも問題なのは気温と空気の薄さの方かな。とは言っても魔法でどうにでもなるしね。ちなみに空気の薄さの方は、ライフジャケットに付けた呼吸確保の機能でも対処可能。優れモノなのです。(←自画自賛)


 周囲を警戒兼観察しつつ正面玄関へ。建物にしろ道の石畳にしろ、殆どのものが見事なまでにバラバラだね。考えてみれば地盤が分解しつつ、大地から空に浮き上がったんだから、その時の振動たるや震度いくつなんて表現を軽く跳び越えたものだったことだろう。


 なんとなく無言のまま歩みを進め、程なくして正門前に到着する。


 見上げる程の高さのある両開きの門は、木と金属のフレームで出来ていて、彫刻や装飾の施された立派なものだった。


 秀と久利栖が左右に立ち、アイコンタクトを取ってから力を込めて引っ張ると、扉は雰囲気たっぷりに軋む音を立てつつ開いた。


 エントランスホールに足を踏み入れた私たちは、何故か全員が同時に大きく息を吐いて思わず笑ってしまった。


「アレやな。異界よりもダンジョンぽいもんやから、ちょっと緊張してもうたわ」


「周囲の様子も含めてボスの居城みたいな感じだからね」


「今回ばかりは同意するわ。それにここって恐らく領主……的な人の城でしょう? ボスの居城っていう表現も間違いじゃないわよね」


 ふむふむ、なるほど。鈴音のはゲーム的な意味でのボスじゃあないけどね。


「あー……、私は別の方をちょっと心配してたんだけどね。大丈夫そうで良かったよ」


「別の方って?」


「暴走と浮島が出来たタイミングによっては、ココに取り残された人が居たかもしれないでしょ? 神様が時間を巻き戻す感じで城を再生したんだとしたら……」


 城の中に遺体が――場合によってはなりたて(・・・・)の――あるかもしれないって、ちょっと思ってたんだよね。


 ひゅっと声にならない悲鳴を呑み込んだ舞依とレティが、左右からしがみ付いて来た。両手に花状態。――狙ってたわけじゃあないですよ?


 ちなみに鈴音はうすら寒そうな表情で秀に寄り添い、クルミはキョロキョロしつつ後ずさりして私の足元にくっ付いて来た。そしてポツンと独り身な久利栖が、ビミョ~恨めしそうにこっちを見ている。


 いや、そんな目をされてもね。レティが私にくっ付いたのは、中に入ってきた時の位置関係的にそうなっただけだろうし。ま、一番近くに居たのが久利栖だったとしても、今はまだ一歩か二歩、近づくくらいかな?


 それはさておき。


 エントランスホールをざっと見渡してみた感じ、綺麗さっぱり片付いている。差し当たり掃除の必要も無さそうだし、空き家特有の空気が淀んだ感じも無い。この分なら巻き込まれた人が居たのだとしても、遺体は神様が処理してくれたんじゃないかな。


 ま、あくまで予想だから、扉を開けたらバッタリ御対面――なんてこともあるかもしれない。心構えはしておこう。


「さて、どうやら危険は無さそうだし、手分けをして調べてみよう。具体的には例の正体不明の反応について」


 それに関しては皆同じ意見だった。なにせこの島は私たちクランの拠点にする予定だからね。害がなさそうでも、正体を見極めない事にはなんとなく落ち着かないしね。


 で、もしかしたら資料の類も纏めて復元されているかもしれないから、屋内ではそれらを探す。同時に現物も採集してくると。


「資料があれば良いけれど……」


「可能性は低くないんじゃないかな。ほら、絵画や花瓶なんかも復元されてる。流石に生花は無いけど、復元されてるのは建物だけじゃないってことだからね」


 というわけで、早速探索を開始。屋内は女性陣が、屋外は男性陣が担当することになった。なおクルミは男性陣にくっ付いていくことに。理由は簡単、資料探しには戦力にならないから。


「正体不明のナニカの反応は分かる? 何なら私も屋外班に入るけど?」


「それには及ばないよ。僕らでも分かるから」


「せやで。まあ他に人やら魔物やらがおったらどうか分からんけど、ココにはおらんからな」


 そういう事ならそっちは任せた。行ってらっしゃーい。


 二人と一匹を見送った私たちは、早速城内の探索に取り掛か――りたいところだけど、なにせ広いからね、何か取っ掛かりみたいなものが欲しい。美術館とかショッピングモールみたいに案内板でもあれば良いのにね。流石にそこまでは神様もサービスしてくれてない。


 皆で相談して、先ずは領主の執務室を探してみることにした。この浮島――というかこの町では何が行われていて、この城はどういう役割だったのかを知るには、それが近道だからね。


 え? 領主がグータラでろくに仕事をしてなかったらって? ま、まあね。そういう可能性も無きにしも非ずです。あ、ほら、レティの目が泳いでるし。やっぱり居るんだねー。仕事をしないで、税金で贅沢三昧をする駄目領主っていうのも。


 さておき。仮に領主がダメダメだったとしても、少なくとも報告書は上がってくるでしょ? たぶんね。


 というわけで、私たちはエントランスホールを抜けて登り階段を探して、中央棟の上の階へ移動しつつ執務室を探すことに。


「この部屋は……、何かしら? 床に魔法陣みたいなのがあるけど……」


 階段はすぐに見つかった。ついでにそのすぐ傍に一メートル四方くらいの小さな部屋があるのも見つかった。ちょっと興味を引かれて覗いてみると、小部屋の床には魔法陣が描かれていて、壁面には何かが箇条書きされているプレートがあった。


「エレベーターみたいな部屋ですね」


「えれべーたー……とは、なんでしょうか?」


 舞依の呟きにレティが反応する。ちなみにこっちの世界にも、大きな屋敷とか城にはエレベーターに類するものはある。但し基本人間用ではなく荷物用――というか配膳用かな? 厨房から料理を運ぶために使われる、昇降機というのがある。裏方が使う物だから、もちろん屋敷の主人やその家族が使うことは無い。


 エレベーターというのはそれと同じ物で、主に人が利用するものなんですよ――と、舞依が説明しているのを聞きつつ、魔法陣の内容を読み取る。ふむふむ、なるほど。プレートの方は――これは、城内の位置が書いてあるのかな?


「エレベーターっていうのは間違ってはいないかも。これは転移陣だね。屋敷に何箇所かあるココと同じような部屋に瞬時に移動できるみたい」


「ふーん、エレベーターの上位互換ね。便利そうだけど……、使えるの?」


「魔法陣に損傷は無いし、軽く魔力を流した感じ正常に動作してるみたいだけど……、実際に使うのは他の場所の魔法陣も調べて、物を使ってテストしてからの方が良いと思う。モノがモノだけに、誤動作が怖いからね」


「……変なところにいきなり飛ばされたらイヤよね。分かった、これは後回しにしましょう」


 了解。では当初の予定通り上の階へ。


 執務室は案外簡単に見つかった。領主が使う部屋なんだから、転移部屋のあるフロアに決まってるだろうという推測の元、最上階である五階を調べ始めたら明らかに他とは異なる重厚な扉があり、そこがビンゴだったってわけ。


 中はいくつかの部屋で構成されてて、領主の部屋(一部が応接スペースになってる)、側近(秘書?)が執務をする部屋、書庫、休憩や食事をとる部屋などがあった。ちなみにシャワー室やサウナ室(笑)は無かったけど、お手洗いはありました。


 資料もたくさん見つかった。――のは良いんだけど、ここで問題が発生。


「……これ、何語?」








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