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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十二章 呪われた大陸>
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#12-25 空に浮かぶ島




「いやいやいや! 怜那さん、こんなん岩ちゃうて。もはや島やん。淡路島くらいの広さはありそうやで?」


「へー、淡路島ってこのくらいなんだ。行ったこと無いんだよね。流石はエセ関西人!」


「エセ言うなし! っちゅうても目測やから、そんくらいのイメージっちゅう話やけど」


「淡路島くらいかは僕も分からないけど、確かにこのサイズとなるとれっきとした島だね。普通に人がちゃんと生活できる離島って感じだ」


「うん。……ああ、レティ、念の為に確認だけど、この浮岩のことは何か聞いてたりする?」


「……い、いいえ。こんな規模の浮岩があるなんて、初めて知りました」


 うん、まあそうだろうと思った。この世界の普通の飛行船では、ここまで来るのは多分不可能だからね。というわけで、私たちが貰っていくことに何も問題は無い。


 では早速、探索と洒落込みましょう! まずは飛行船で上空から――


「ちょい待ち、怜那さん! 嫌な予感がせえへんか? 晴れることの無い雲の中に浮かぶ、天空の島っちゅうことは、や。近づいたら妙なロボが襲ってくるかもしれへんで?」


「またそういうネタを……」


 そんなわけないでしょ。アレは別に超古代文明の遺産ってわけじゃないんだから。空に浮いてはいるけど、ただの無人島だって。


 まあもっと自然豊かな感じだったら、神聖魔導王国の人が生き残っててその末裔がいるとか、独自の生態系が構築されてて固有種の動物やら魔物やらがいるとか、そういうのもあるかもしれないけど、この様子じゃあね。


「怜那、微妙に不安になるようなこと言わないで?」


「えっ、そう!?」


「防衛用の無人ロボより、生きた人間の方が怖いわよ……」


 あー、まあ確かにそれはそうか。


「と、言いますか、あの……、山の上に、お屋敷のようなものが見えませんか?」


 レティが微妙に震える指でテーブルマウンテンの上を指し示す。


 飛行船がだいぶ近づいたことで、浮島の細かい部分も確認できるようになってきた。確かにテーブルマウンテンの上に、結構立派なお屋敷が一軒だけぽつんと立っている。ちなみにその周辺には廃墟(遺跡)が点在してるから、かつては山頂部分に集落か何かがあったんだろう。


「ま、まま、まさか、ホンマに生き残りが?」


「いや、それは流石に無いよ。村が残ってるならまだしも屋敷が一軒だけではね。千年もの間、世代を重ねられないんじゃないかな?」


「せやけどファンタジー世界やで? その上マッドな魔法王国や。記憶と自我を残したまま自分をアンデッド化する魔法とか、あるかもしれへんやん」


「ちょっ、止めなさいよ! 想像しちゃったじゃない」


「そういえばこの国では、人間を魔物化する実験もしていたと言ってましたよね、レティ?」


「は、はい。ただ、状況証拠などからそうだったかもと言われているだけで……」


「ちょっ、待った待った! なんで皆、怪談みたいな話を始めちゃってるのよ」


 話が妙な方向に流れてるから慌てて待ったをかける。怖いから探索を止めようなんてことになったら大変だ。


「でも怜那、あのお屋敷は……」


 うん、確かに不自然過ぎるけどね。


「神様が言ってたじゃない、手伝ってくれるって。それがアレなんじゃないかな? 取り敢えず居住スペースとして、一番大きな屋敷を一つ再生しておいてくれたってところじゃない?」


「あ、ああ……、うん、そう仰ってたけど……」


 ほら、アレだけ妙に真新しいじゃない? 誰かが管理してるのだとしても、あんな感じにはならないって。


 と、いう訳だから、行くよー。ほら、ビクビクしてないで。


 え? まずは慎重に飛行船で接近? はいはい、了解です。っていうか、もう探知は済んでるから、人間がいないのは分かってるんだけど。――まあ、魔物のような植物のような奇妙な反応は沢山あるんだけど。


「もう怜那ってば。どうしてそう、不安になるようなことを付け加えるのよ」


「あっはっは。でも後から知らされるよりはいいでしょ?」


「それはそうだけど……。とにかく慎重に、ね?」


「うん、任せて!」


 差し当たっての目標は山頂のお屋敷っていうのは全員の意見が一致した。なのでテーブルマウンテンの周辺をぐるっと回るような感じで旋回しつつ接近していく。


 ちなみに飛行船の高度制限にこの浮島は引っ掛からなかった。つまり島サイズでも浮岩は浮岩。ある意味障害物扱いってことかな。だからこのまま着陸も出来る。クルミは一安心だね。


 高度を下げつつ観察して分かったことがいくつか。テーブルマウンテンは元々の地形がそうだったのかもしれないけど、それに手が加えられてたみたい。崖の一部に城壁の跡らしきものが残っている。他にも平野部には家――というか集落や、道の跡らしきものが見て取れた。


「平野部とテーブルマウンテンに少し凹んだ箇所が見受けられるけど、あれはもとは溜池……というか人造湖だったんじゃないかな?」


「集落の近くだしその可能性はあるわね。でも乾燥した地域だったのよね? あの程度のサイズだとすぐに干上がらないかしら?」


「この国は魔道具技術の発達した国でしたから。特に水を生み出す魔道具に関しては種類も量も沢山あったそうです」


「なるほど、溜池を満たすくらいのものはあったってことね」


「はい。都市計画専用の大規模魔道具があったそうですから」


「砂漠に集落を作るくらいは訳ないっちゅうことやな。毎度のことながら、妙なところで地球より発達しとるなぁ」


「魔法っていう、ある種の不正(チート)があるからね。それは言っても仕方がないさ」


「ま、なんにしても、元は集落……っていうか全部合わせるともう町かな? が、あったところがそのまま浮かんだみたいだね」


「……そうだと思うけど、一体何があったのかな?」


「舞依?」


「だって、大陸のほぼ中央でしょ? 単に町を作るなら、山脈のすぐ内側でいいでしょう?」


「うん、確かに。ってことは、何かしらの目的のために作られた町ってことか」


「鉱物資源の採掘……、などでしょうか?」


「いやいや、レティ。ココはやっぱり、マッドな魔法実験やろ。周辺に何も無いなら、やりたい放題や」


「仮に巨大な魔法生物が暴走しても、民間人に被害は出ないからね。僕も何かしらの研究・実験施設だったに一票」


「私も魔法関連の研究施設だったに一票。……だけど、こんな場所じゃあ、二人の好きそうな事故バイオハザードにはならないんじゃない?」


「せやな」「確かに」


「……じゃないわよ! 三人とも不謹慎な発言は止めなさい」


「ごめんなさい」「えろうすんまへん」「申し訳ない」


「もう……、ゲーム思考はほどほどにしなさい。それで? 周辺に危険は無いのよね?」


 では改めまして、探知魔法を展開して精査。――うん、人の反応も魔物の反応も全く無い。正体不明の微弱な反応についても、テーブルマウンテンの山頂部分には殆ど無く、屋敷の中には皆無だ。


 私の報告を聞いた皆の視線が秀に向く。


「その正体不明の反応は少し気になるけど、それも込みで調べてみないとね。取り敢えず屋敷の中を探索してみようか。怜那さん、適当な場所に飛行船を降ろしてくれるかな」


「了解。ちょうど屋敷の前に空きスペースがあるからそこに着陸するよ」


 屋敷の前には広いスペースがあって、そこには遺跡や瓦礫の類も殆ど見当たらない。屋敷の正面だし庭園でもあったのかな? 今は草や灌木がまばらに生えてるだけの寂しい有様だけどね。


 飛行船は無事着陸。それぞれ浮島への第一歩を踏み出す。飛行船はトランクに戻してっと。


 それにしても大きい屋敷だね。王都にある拠点も十分大きいと思ったけど、あれはギリ民家と言えるサイズ。でもこれはもはやお城と言ってもいいレベルだ。


 まあ城とは言っても、いわゆるシン〇レラ城的な尖塔が立ち並ぶ感じのものじゃあない。ええとつまり、キャッスルじゃなくてパレスの方ってことね。正面から見たイメージは国会議事堂が近いかな。中央と左右に大きな建物(塔)があって、一段低い建物がそれらを繋いでいる。


 もしかしたら私があんなこと(・・・・・)を言っちゃったから、議場とか庁舎とかに使えるような建物を用意してくれたのかも? だとしたら有難いことだね。


 今度、お礼のお供えをしておきましょう。――やっぱりお酒かな?







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