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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十二章 呪われた大陸>
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#12-24 宿題は片付けたので……




 報酬も選んだし、これで女神様からの依頼は無事完了。これで心置きなく遊べるね。メルヴィンチ王国に帰る前の寄り道になっちゃうけど、レティにはもうちょっと付き合って貰おう。


 あ、そうだ。一応神様に確認しておこう。


「あのー、神様。この大陸の中央、暗雲の目の()にあるアレなんですが、持って行ってしまって構いませんか?」


『うん? おお、アレか。それは構わんがどうやって……、いやそなたなら雑作もないな。しかし、あのような物を持って行ってどうするのじゃ?』


 考えていることはあるけど、この場で言うのはレティがいるからちょっと……ね。まだ私たちの意思統一が出来てないどころか、舞依にすら話してないことだし。


 あんまりなんでもかんでも話しちゃうと、なし崩し的に巻き込んで、半ば強制的に協力させることになりかねない。まあ今回の依頼に同行を申し出てきた辺り、メルヴィンチ王家は私たちとの繋がりを切りたくないみたいだから、結局レティは巻き込まれることになりそうだけどね。


 そう考えると、帰国する前にレティ本人がどうしたいのか、一度ちゃんと聞いておいた方が良いのかも。


 なので、他の人には聞こえないようにこっそりと。


「実は国を作ろうかと思いまして(ヒソヒソ)」


 ちなみに遮音結界を使ったので、小声で話す必要はありません。なんとなく雰囲気で?


『ほう……。そなたは面白いことを考えるのう』


 いえいえ、それほどでも。


『そういう事であれば、儂も少し手伝おうかの。なに、遠慮は無用じゃ。今回の件、報酬が祝福だけというのは少なすぎだからの』


「ありがとうございます。では、遠慮なく」




 神様との話を終えて元居た場所――つまり朽ちた精霊樹の前に戻った私たちは、急いで気球で空に上がり、飛行船モードにチェンジして取り敢えず落ち着いた。


「さて、この後の予定だけれど、王都ここをもっと詳しく探索したいって人は……、居ないみたいだね」


 全員の顔を見回した秀が苦笑する。念の為に一応聞くだけ聞いてみたって感じなんだろうね。正直、あの粘つくような空気の中、廃墟になった街をうろつきたいとは思わないかな。


「レティもそれでええの? 調査してみたかったんやないか?」


「はい。興味はもちろんあるのですけれど……、落ち着いて調査は出来ないでしょうし、持ち出せる資料ものも殆ど無いでしょうから」


「……せやな」


 長期間瘴気に晒されたせいなのか、ありとあらゆるものが黒ずんでるんだよね。気球から廃墟の中を覗き込んだ時、一応原形を留めてる本らしきものも見かけたけど、中が読める状態かどうかは微妙だと思う。


 仮に読めたとして、有用な資料とは限らないし。精神をゴリゴリ削られつつ手間をかけるには、予想できるリターンが少なすぎるよね。


 という訳で、街の探索はボツってことで。


「となると、メルヴィンチ王国にまっすぐ帰ろうってなるのが普通だと思うんだけど……」


 秀がこっちをチラ見すると、それにつられて皆の視線も集まった。


「何かしたいことがあるんだよね?」


「うん、大して遠回りじゃ無いから寄り道して帰ろうよ。別にレティを城に送ってから出直しても構わないけど、折角だからもうちょっと一緒に遊びたいし。どうかな?」


「は、はいっ。私ももう少し一緒に居たいです」


 グッと両手を握ってやや前のめりなレティがピュアカワイイ。


 で、他の皆もオッケー? よし。では、飛行船発進します。進路はって? フフフ、それは付いてのお楽し――ウソウソ、ちゃんと言いますってば。行き先はこの大陸の中央、暗雲の目だよ。


「なんや、やっぱりでっかい浮岩をパクッて行く気っちゅうことやんな」


「あんなもの持て余すでしょうに……。分割して売りに出すに一票」


「ええと、市場が混乱しそうなので、売りに出すならできれば間隔を置いて頂けると……」


「いやいや、折角の大きい浮岩を分割するなんて勿体ない。僕は王都の屋敷を移築するに一票かな」


「あ、それでしたら王宮に使われずに放置されている離宮がいくつかあるので、その中から一つ選ぶのはどうでしょう?」


「レティ、そんなこと言うてしもてええんか? 怜那さんなら『言質を取った』言うて、ホントにブン取りに行きかねんで?」


「取り壊しが検討されている物もあるので大丈夫です。あと、たまに滞在させて頂ければ……」


「なるほど、浮岩離宮……というか、貸別荘かしら? それもいいわね。……で、怜那。正解は?」


「それは見てのお楽しみ。たぶん、皆が想像してるものとは大分違うと思うからね」


 ニヤリと意味深な感じの笑みを浮かべてみる。あはは、そんな引いたリアクションしないでってば。


「ねえ怜那」


 舞依が私の耳元に口を寄せて囁く。


「もしかして、精霊樹あれを植えるつもりなの?」


 うんうん、舞依はよく分かっていらっしゃる。正解者に一〇〇万ポイント!


 まあ植えるのに適した場所だったらの話だけどね。なにせ実物は私もまだ見てないんだし。







 大陸中央部を見て行きたいっていうレティの希望は往路で叶えたので、復路はなにも鬱陶しい()嵐の中を進む必要は無い。という訳で王都を出発した私たちは、暗雲の上を進んだ。


いやー、久しぶりのお天道様が眩しくて気持ちいいね。――まあ実際は、飛行船トランク本体の影になってるから、眩しくは無いけど。少なくとも綺麗な青空は見える。


 一方、上から見た暗雲は、やっぱり暗雲だった。表面にうっすら白い層はあるけど、少し奥の方になるともう黒ずんでる。つまり下から見ると光が届かないから暗雲なんじゃなくて、雲そのものが暗い色――瘴気を含んでるってことなんだろう。台風とは違うね。


 そんなある意味レアなグレーの雲海の上を飛行船で飛んで行くと、やがて雲海が凹んでいる“目”の部分に辿り着いた。


「えーっと……、あっ! あったあった。アレが目的の浮岩ね」


「「「「「…………」」」」」


 探知魔法で大凡は分かってたけど、実際目の当たりにするとその大きさにビックリだね!


 上から見た全体の形状は、大雑把に言うとやや歪な菱形。ただ角がかなり丸いから楕円と言ってもいいかも? 便宜的に頂点の位置を上下左右とすると、左の方が引き伸ばされてる感じね。


 地形は浮岩――というか浮島全体がゆる~い山になってる。山頂は対角線の交点よりやや上の方。ちなみに山頂はほぼ平らで周辺が切り立った崖に囲まれてる。つまりテーブルマウンテン状になってる。とは言っても標高自体はそう高く無いから、テーブルというよりはちゃぶ台かな? もしくはコタツ。なお、左下と右下のエリアは平野部が多い。


 レティの話ではこの辺りは乾燥地帯らしいから、岩と土ばかりの景色を予想してたんだけど、案外緑がある。流石に背の高い木は見当たらないけど。


 雲の上にあるっていうのに、一体どこから水が……。ああ、もしかしたら“目”の位置は案外流動的なのかな? 定期的に雲の中に突っ込むから、その時に浮島全体が適度に湿り気を帯びるのかも。うーん、興味深い。長期滞在できるなら、調べてみたいところだ。


 ところでみなさ~ん。口をポカンと開けてないで、そろそろ復活して下さいな。スケールが大きいだけで、アレだって浮岩の一種には違いないんだし。








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― 新着の感想 ―
[一言] 空の国って本当にクールなアイデアですね
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