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#03-02 順調に航海中。でも傍から見たら……




 大陸を目指して海に乗り出してから三日が過ぎた。未だに陸地は見えない。


 しおりの地図は概略図的なもので縮尺は当てにしてなかったから、想定外とは思ってない。筏の旅は割と快適だし、食べ物にも飲み物にも困らないから気持ち的に余裕があるしね。


 ただ暇なのがね~。こればっかりはどうにも……


 暇つぶし用にと思って、無人島で釣り道具を作っておいて良かった。かなりテキトーな作りなんだけど、まあまあ釣れる。探知魔法を魚群探知機代わりにしてるのも良いんだと思う。


 でもちょっと運動不足かな? 筋トレでもしようかな? それとも泳ぐ?


 ああ、泳ぐのはいいかもね。筏を最小サイズにして、ビート板がわりに掴まって魔力を込めながら――って、これじゃあ水中スクーターじゃん。面白そうだけど運動不足解消にはならない。


 ま、釣りに飽きたらやってみよう。







 四日目の朝。トランクの中で目覚めた私は、いつものように顔を洗い軽い朝食を食べて着替える。


 ちなみに着ている物はローブ以外日本から持ち込んだ物だから、寝る前(零時前)にスロットに戻しておけば翌日には元通りになるから洗濯がいらない。いつも清潔。下着と寝間着代わりのTシャツはローテーションで使っている。


 着替えたら外に出る前に、スロットから鉢植えを取り出して魔法でたっぷり水をあげる。


 鉢植えと言ってもバカにしちゃあいけない。直径一メートルはあるかなり大きいもので、植えているのは無人島で採ってきたピロール、トマト、レモン、グレープフルーツ、マンゴー、アボカドの六種類。トマトは好きだし料理に結構使うから、ピロールはワインづくりに必要だからそれぞれ二本(鉢)あるから、合計八個。並べると壮観だ。


 いやー、アボカドを見つけた時はちょっと感激した。他の野菜と一緒にサイコロ大に切ってマヨネーズであえるだけで美味しいし、サンドイッチの具材にもいい。


 ただ、しおりに載ってなかったから、もしかしたらこっちの世界では食材と認識されてないのかもしれない。まあ美味しそうには見えない実だし、好みが別れる食材みたいだからね。そういえば久利栖は食感がちょっと好きじゃないって言ってたっけ。


 何気にしおりに載ってないこっちのものを食べるのは初めてだったから、最初はちゃんとパッチテストをして、おっかなびっくり食べた。地球のアボカドと同じ物とは限らないからね。そこは慎重に。


 じゃあ食べなきゃいいのでは? などという私の中の正論ちゃんの囁きは見事にスルーされました。だって好きだから!


 ――なお、正論ちゃんは比較的スルーされる傾向が多い、ちょっと不憫な子です。


 ちなみにこれらの果実も無人島でたくさん収穫してある。やろうと思えば特殊スロットで増やすこともできるから、鉢植え栽培は実験も兼ねた趣味だ。


 無人島の植生を見て、こっちの植物はもしかすると気候よりも魔力による影響の方が大きいんじゃないか? って思ったんだよね。


 詳しくないからあくまでイメージだけど、葡萄は割と寒い地域、逆にマンゴーとかレモンはあったかい地域でたくさん採れる感じがするのに、あの無人島ではそれらが普通に入り混じって育ってた。


 で、他の地域を知らないからこれもまたイメージなんだけど、あの無人島は魔物とのエンカウント率がやたら高かった。いくらやっつけても次から湧いて来たしね。お陰で素材が山盛り。


 魔物が多い=魔力が濃い。これと島の植生に因果関係があるとしたら? っていう推測を立てた。魔力で植物の生育が早まる。それと気候が多少合わなくても、魔力を与えればちゃんと育つのではないか? ってね。ちょっと安直なのは認める。


 そんなわけで水をあげると同時に、無駄に沢山ある魔力をじゃぶじゃぶ注いでいる。心なしか葉っぱのつやが良いような気がするような……、しないような?


 まあ気長にね。特に成果を発表するわけでもなし。


 これから先、舞依たちと合流するまでは暫く一人旅が続くわけだけど、何か日課を作って生活にリズムを付けるのも良いんじゃないかって思ったんだよね。で、どうせなら少しずつ変化や発見があったら面白いんじゃないかと。


 それで家庭菜園。――この場合は菜園じゃなくて果樹園か。


 あと実験とかとは関係なく、見渡す限り海ばっかりの船(筏)旅で木の緑と匂いはホッと落ち着ける効果が、私にはあるみたい。そういう意味でも始めて良かった。


 ――よし。朝の日課はお終い。出発するとしますか。







 綿菓子みたいな雲がいくつか浮かぶ空を見て、ふわぁ~っと大きな欠伸を一つ。マナーの先生に見つかったら、確実に雷が落ちるね。これぞまさに青天の霹靂。――なんて。


 今日も今日とていいお天気で、船旅と釣りには絶好の日和だ。


 筏は屋根を展開してその下には椅子を配置。私はそこで釣り糸を垂らしつつ、筏に魔力を注いでいる。魔力の供給は手で触れれば勝手に引き出されて楽だけど、必ずしもその必要は無い。今は足の裏から放出している。


 椅子は無人島で作っておいたものの一つで、魔物の骨から錬金術でフレームを作り、それに革を張っている。魔物の骨と革で作った椅子なんて言うとどこの蛮族だって感じだけど、見た目は映画の撮影で監督が座ってる(イメージの)アレです。


 座り心地はなかなか。どうせトランクの中にそのまま収納しちゃうから、折り畳みや分解の機能は無い。――構造を考えるのが面倒臭かったとも言う。


 おっ、竿が動いた。なにが釣れるかな~……って、これは結構引きが強いね!


 身体強化の出力を上げる。幸い体が持ってかれる程じゃあない。


 実は糸を通して電撃の魔法を浴びせれば一瞬でカタが付くんだけど、それじゃあ面白くないからね。


 あっちへこっちへと暴れる魚と格闘し、どうにか釣り上げたのは――


「SAVA……じゃなくて、サバね」


 プロテインは釣れません(笑)。


 四〇センチ弱はあるかな。なかなか立派な鯖だ。


 獲ったど~ってことでスマホでパシャリ。なかなかの大物だったからね。毎回撮影はしていない。


 鯖は日本じゃ青魚って言われてるのは誰でも知ってると思う。確かに背中側が青っぽいけど、異世界鯖の青さはそんなもんじゃあない。もう群青ぐんじょうって感じ。お腹側は水色がかった銀色で、グラデーションがとても綺麗な魚だ。


 しおり情報によるとこっちの世界でもたくさん採れて、港町では沢山食べられてるメジャーな食材とのこと。ついでに痛みやすい所も同じ。違うのは色合いだけかな。


 という訳でさっさと頭を落として、ついでに内臓も取って海にポイ。後はトランクに入れて時間を止めておけばOK。


 サバと言えば……、鯖寿司、〆鯖、鯖の塩焼き、サバの味噌煮。なれ鮨っていうのも鯖だっけ? あれは食べたことないんだよね。


 なんてことを考えてたら鯖味噌が食べたくなってきた。とてもご飯が進むアレ。


 鯖を味噌味で煮込むだけでいいのかな? そんな単純なわけないか。確か生姜は入ってたよね。和食だからお酒も使いそう。あと味醂も。


 うーん、秀から預かった調味料に味噌と味醂はあるけど、生姜とお酒がない。――お酒は白ワインで代用すればいける? う~ん、鯖味噌っぽいもの(・・・・・)でも作ってみようかな。


 よし、今日は料理の日だ!


 …………


 とは、行かないみたいだね。定期的に使ってる探知魔法に大きな反応がある。


 魔物ではない。大きな物体の中に小さな魔力反応が多数。たぶん大型の船だと思う。


 さてさて。ここで問題です。


 現在、私は順調に航海を続けています。今は釣りをしながらのんびり進んでるけど、本気で魔力を注げばそこそこスピードも出せるしね。


 でも他人から私の様子を見たら?


 たぶん筏で漂流してるようにしか見えないんだろうなぁ~。








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