#12-23 報酬について考えてみる
「私も、ですか?」「キュッ!」
自分も良いんだろうかと恐縮するレティと、当然とばかりに胸を張るクルミ。うん、クルミはもうちょっと謙虚さを学ぼうね。――いや、この図々しさというか残念さこそがカーバンクルクオリティ、かも?
ま、レティはあんまり役に立ってなかったと思ってるみたいだし、個人の戦力としては私たちと大きな差があるのも事実だ。でもそれ以外の面では今回の旅に大きく貢献してくれた。主に知識の面でね。
特に私たちは神聖魔導王国に関する情報をほとんど持ってなかったから、レティの話はとても興味深く、この旅は退屈しなかった。
――誰ですか? それは依頼とは無関係じゃないか、なんていう人は? 手を挙げなさい。先生が成敗してあげます。
確かに旅の主目的は依頼の達成だったけど、それだけじゃあつまらないからね。せっかく呪われた大陸――というか、かつて高度に発達した文明が滅んだ地っていう浪漫あふれる場所に来たんだから、アレコレ想像したくなるってモノでしょ? それにはベースになる知識がないとね。
だからレティはこの旅には欠かせない存在だったのです。ついでに約一名のモチベーションが上がるという効果もあったけど――ま、これはどーでもいいか。
ともあれ。依頼を一緒に達成したんだし神様もいいって仰ってるんだから、遠慮なく貰っておけばいいんじゃないかな。
「うーん、僕は報酬については何も考えていなかったんだよね。鈴音は?」
「私もよ。たぶん依頼は怜那が受けたものって思い込んでたんじゃないかしら? 私たちはそれに協力するって感じで」
「ああ、確かにあの時はそういう話の流れだったよね」
場合によっては私だけでも依頼を受けるって言って、皆も一緒に来てくれるっていう感じだったよね。
ちなみに私も報酬については考えて無かった。というか現状、特に不満な事や不便なことが思いつかない。あるとしても、それは自分たちで解決できることで、報酬としてもらうようなものでもないしね。
依頼を受けた時点では、主に食の面でちょっとした不満はあったんだけどね。でも卵、醤油に関しては解決済み。――そういえば、醤油造りはどうなってるかな? 順調にいってると良いけど。
ほかにも拠点のある王都ではお米とか新鮮な海の幸とかが手に入りにくいっていうのもあったんだけど、それに関しては飛行船が使えるようになったことで万事解決。欲しい時は産地までひとっ飛びしてゲットしてくればいい。
「こういう時、何も思いつかなかったら現金とか貴金属を頂いておくのが普通なんだと思うけど……」
「あって困るものではないけど、僕らには必要無いかな。だから前回みたいに何か情報を貰うのが良いんだろうけど……」
「情報……。ねぇ、怜那? あのことについて聞いてみる?」
あー、祝福についてか。もっと言えば、祝福を受ければ女性同士でも子供ができるのかについて。
――いや、でもな。古い文献を調べれば、そのくらい分かりそうな気もするんだよね。例の大図書館とやらには、観光がてら一度は行ってみたいし。
っていうか、いっそ神様に直接祝福をお願いするのはどうだろう?
一応私の中では、育ててる精霊樹が成長すればいずれ精霊が生まれるだろうし、そうすれば私か舞依か、もしくは誰か適性のある人をスカウトして巫女を立てて祝福を――みたいな予定を立ててた。まあ、結構な長期計画だ。
魔力量的に私たちの寿命は日本に居た頃より確実に伸びてるから、結婚を急ぐ必要は余り無いんだけど、あんまり舞依を待たせすぎるのもね。舞依は笑って「別にいいよ」って言ってくれると思うけど、そこはそれ。甲斐性的な意味で。
ま、なんにしても、巫女(神官)さんを介さずに祝福を頂けるのか確認してみない事にはね。
「今すぐではなく然るべき時に……の話ですが、神様から直接祝福をいただくことは可能でしょうか?」
「えっ?」
舞依が驚いて目をパチクリさせる。たぶん考えていたことと別のことを私が訊ねたからだろうね。皆もザワッとして、鈴音と秀が、それから久利栖とレティがそれぞれ互いをチラ見していた。――クルミはなんか腕を組んで悩んでる。真剣に報酬について考えてるっぽい。
『そんなことでよいのか? 多少のお布施は必要であろうが、神殿に依頼すればよかろう?』
「あの、現代の神殿は異種族や同性での結婚は認めていないと聞いていますが……」
『……おお、そうか。管理する土地が無くなってからというもの、下界と関わることが極端に減ったものじゃから、忘れておったよ』
さ、左様ですか。どうもこの世界の神様は、結構うっかりさんが多いような気も――って、さすがにそれは不敬か。
『かつては異種族だろうと同性だろうと、心から望む者には祝福を与えておったものだがの。ともあれ、祝福でよいのであれば、お安い御用じゃ』
「タイミングをお知らせするのはどうすればよいのでしょうか?」
『いずこかの精霊樹に直接手を触れるだけでよい』
それだけで良いなら大丈夫かな。鈴音たちが何やらビミョ~な視線を送ってくるのは、またこっそり精霊樹に触れるとでも思ってるのかな? 大丈夫大丈夫。神殿にも王室にも伝手が出来たし、そのくらいの許可は取れるよ。――たぶん。あと、私たちの精霊樹もあるしね。
という訳だから、これで良いかな?
舞依にアイコンタクトを取ると、少し照れ臭そうにしつつ頷いてくれた。
「では、私たちの報酬はそれでお願いします」「お願いいたします」
『うむ、分かった。では、その時を楽しみにしておるよ』
目を細めて「ふぉふぉふぉ」と笑うお爺ちゃん神様。なんかちょっと照れます。
――コホン。ま、それはそれとして。
いろいろ考えた結果、他の皆――あ、クルミは除いてね――も私たちと同じく、祝福を報酬として頂くこととなった。まあ私たちは根無し草みたいなもので、教会に祝福をして貰えるか分からないしね。レティはレティで種族的な問題があるし。
秀と鈴音は別に祝福が無くても問題ないよね? って訊いたところ、他に特に思い浮かぶものも無いし、神様直々に祝福して貰えるというなら、良い記念になるんじゃないか――ってことらしい。二人がそれでいいなら、私がとやかく言う事じゃないか。
久利栖とレティはね。ちょっと外堀を埋めるような感じで気にはなるけど。うーん……、ま、いいか。敢えて使わないっていう選択肢もあるわけだしね。
ところでクルミはどうするの? 両手を腰に当てて、フンスと鼻息。なるほど、既に決まってると。じゃあ神様にお願いしてきなさいな。
『ほお、なるほどのう。ふむ……、一気には無理じゃが、その一歩手前までならよかろう。それで構わぬか?』
む~ん…… コクリ
クルミがちょっと悩んだ末に頷くと神様が手を翳し、神気が包み込んだ。
しばらくぼんやりと光っていたのが消えると、クルミは……、クルミは……、あれ? 何も変わってないよね? なにをして貰ったの?
ダンダンダン ビシッ
あはは、そんな地団駄を踏まないでって。えーっと、額をよく見ろってこと? 特に変化は――あ、宝石(魔法発動体)の周りに紋章みたいな模様が出来てる。おー、なんかカッコいいじゃない。
「アレやな。イベントなんかで出現する特殊モンスターっちゅう感じや」
そうそう、そんな感じね。
なお、どういう変化なのかは神様が詳しく解説して下さった。それによると、クルミは種族的に一段階進化する、その一歩手前の状態になったらしい。あとは何かのきっかけがあれば、エルダーカーバンクルへと進化するんだそうな。
クルミは既にカーバンクルとしては有り得ない程高い魔力を持ち、逆に抱えている瘴気の量は魔物としては少なすぎるんだとか。この状態を維持して進化を果たせば、魔物ではなく精霊に近い存在――霊獣と呼ばれる存在になるだろうとのこと。
「クルミが霊獣……、ねぇ……」
思わずみんなでクルミを覗き込んでしまう。
ドヤァと胸を張る――というかふんぞり返ってるクルミからは、そんな神秘的な雰囲気は微塵も感じない。偉そう――ではあるのかな? 威厳は無いけどね(笑)。
「まあ、種族的に霊獣に進化したからって、クルミはクルミかな」
「ふふっ、そうね」「でしょうねぇ」「かもね」「せやなぁ~」「そうですね」
おお、満場一致! あはは、そんな不貞腐れないで。みんなキミのキャラが気に入ってるってことでもあるんだしさ。




