#12-21 異界探索(ボス戦)
部屋に入ると同時に、舞依を除く全員で攻撃魔法を放つ。なお舞依は浄化魔法をチャージ中ね。
召喚装置本体は動けないんだし、触手が襲ってくるのは分かり切ってるんだから、わざわざ接近する必要は無い。一方的な遠距離攻撃で破壊してしまうのが最適解。女神様からの依頼は完全破壊だから、部品の回収は考えなくていいからね。
それぞれが得意とする属性の魔法が召喚装置に真っ直ぐ――いや、なんか久利栖の撃った魔法だけ妙にジグザグな軌跡を描いてるね。何やってんの?――向かって行く。と、同時に向こうも起動したらしく、触手が徐に動き始める。
でも触手による防御は間に合わない。第一波の攻撃は全部本体に直撃――するかと思ったんだけど。
「ビームが、曲がるっ!?」
「ビームではないけど……、アレは、なんだ? 防御魔法?」
全ての魔法が召喚装置の石柱部分の手前で逸れて、そのまま壁や天井に着弾、爆発した。召喚装置全体(天井側も含む)を包む円柱状に魔法が弾かれる感じだね。
でも単純な盾魔法じゃあない。それだったら探知できるし、意図的に隠蔽しなければ目視も出来る。何より普通に着弾はする。あんな風に逸れることは無い。
上下の召喚装置に魔力の反応はあるから、何かしらの魔法を発動させているんだとは思う。いや、魔力を使って装置が魔法ではない物理的な現象を発生させてるのかな?
魔法が逸れる……、物理的な現象……、召喚装置……
「あっ、もしかしてディストーション?」
「「「「「は?」」」」」「キュゥ?」
って、皆前々! 触手がウネウネと近寄って来てるって。防御なり迎撃なりしないと!
「はっ! 舞依はチャージを継続。怜那は盾を、透明で。他は盾の影から適宜迎撃。アンデッドは浄化するから、それ以外を優先的に!」
了解。盾モード(透明)にチェンジ。横幅は全員が隠れられるくらいで、縦方向は三メートルもあれば十分かな?
触手の先端にくっ付いてる目玉からは魔法――というか光線が飛んでくる。触手の長さに限界があるみたいだから、入り口付近にいる私たちに近接攻撃を仕掛けてくる様子は無い。先端が手の触手は待機してる――かと思いきや、そこらへんに落ちてる瓦礫を投げて来た。
なかなか激しい攻撃だね。チュンチュン、ガンガン、激しい音と衝撃が伝わってくる。とはいえ、盾モードのトランクで防御は完璧。今日もありがとう、神様。
なお先端がアンデッドの触手は、届かないっていうのにこっちに向かって這い寄るように宙に手を伸ばしている。表情もかの有名な“叫び”みたいな感じだし、数も多いからかなりキモチワルイ。
「ディストーションってギターの? 前に怜那はオーバードライブの方が好みって言ってなかったっけ?」
「え? あー……、うん。メーカーによっても違うから一概には言えないけどね。っていうか、本当にチラッと言っただけなのによく覚えてたね?」
「だって怜那の事だもの」
そう言ってはにかむ舞依が可愛いすぎる。戦闘中じゃなかったら、ギュッとしてチュッとするのに。くっ、タイミングが悪い!
「って、あんた達話を逸らしてる場合じゃないでしょっ。……って、逸らしてる、のよね?」
おっと失礼。でも舞依の可愛い(天然)ボケを拾うのは私の義務なので、どうかご容赦を。
では改めて。
「エフェクターの話じゃないよ。音の歪みじゃなくて、空間の歪みの方ね」
「えっ?」「なによソレ?」「はい?」「キュゥ?」
「空間歪曲! なるほど、異世界から召喚できるくらいなら、時空間を多少歪めるくらいは訳ない……のか?」
「防御方法までSFかいなっ! せやからジャンルが間違っとるって言うてるやろ」
あはは。ま、気持ちは分からなくは無いけど、機械にツッコんでもねぇ。
「よく分からないけど、まあいいわ。で、対処法はあるの?」
「うーん……、一種の防御魔法には違いないから、強い負荷を掛け続ければいずれ抜けるとは思うけど……。手っ取り早く最強の属性で攻撃するのが良いんじゃないかな」
「最強の属性?」「なんやそら?」
そう、大抵の防御に対し一定以上の効果を発揮する最強の攻撃方法。即ち――
「圧倒的な質量でぶっ叩く!」
「属性ちゃうねん!」「まあ、そうかもしれないけど……」
いやいや、相対性理論的には質量とエネルギーは本質的に同じなんだから、質量だって立派な属性の一つでしょ。
ちなみに接触した物体を転移させるとか、ベクトルを反転させるような防御に対しては弱い。魔法・異能バトルの際には留意するように。ココ、たぶんテストには出ません。
さておき。幸いここはかなり大きいスペースがあるから、十分ハンマーを振り回すことができる。身体強化に加えてハンマー本体を魔法で加速して、もの凄いスピードで振り下ろせばディストーションを抜いて本体に当てられるでしょ、たぶん。
「天井の方は?」
「大丈夫、防御を抜いてしまいさえすれば後は簡単だから(ニヤリ★)」
「……了解、任せるわ」
「それよりも問題は攻撃の余波かな。きっと大爆発になると思うから。なんなら攻撃の直前にトランクの中に入って貰う事もできるけど……」
「それはダメよ。本体を破壊しても触手は生きてるかもしれないじゃない。だとしたら怜那に攻撃が集中するわ」
ああ、そういう可能性もあるのか。余波で触手は全部吹き飛んじゃいそうだけど、本体から千切れても動く可能性はあるもんね。なにせ触手だし。
「じゃあ怜那は攻撃の準備に入って。舞依はチャージが終わり次第浄化魔法、続けて防御魔法の準備。それに合わせて他の皆も一旦攻撃は中断、防御魔法の準備に入って。攻撃のタイミングは怜那に任せるわ」
了解。というわけで普段は使わない量の魔力を巡らせて、身体強化を更に強化。トランク本体にも魔力をどんどん投入していく。
「浄化魔法、いきます!」
舞依を中心に浄化魔法が展開され、触手にくっついてたアンデッドが光の粒になって消えていく。と、同時に他の触手の動きも止まり、バタバタと地面に落ちて行った。
「おおっ、凄いやん。このままいける……、か?」
「そういう余計なフラグは良いから!」
「恐らくエネルギー源の瘴気を浄化されて一時的に機能停止したんだろうね。供給元を叩かない限り、復活するんじゃないかな?」
なんて言いつつも、皆はちゃんと魔法のチャージを始めている。ちなみにレティとクルミは防御魔法が苦手なので、今は待機中。
さてさて、こっちの準備もそろそろいいかな? トランクに付与している魔力もそろそろ限界っぽい。ビリビリと放電するみたいな光を放ってるし、なにやら「ヴヴヴ……」って妙な振動を始めてる。
「レ、レイナさん、この、魔力は……」「なんや、ヤバいんちゃうか!?」
「あっはっは! まあ、大丈夫でしょう……、たぶん。ってことで、いくよっ! せーのっ!」
ハンマーモードに切り替え、背後に構えた状態から一八〇度回転させる感じで一気に振り抜く。と同時に柄を伸ばし、本体も巨大化させていく。
ディストーションの抵抗は、ほんの一瞬感じた――かも? ってくらいだった。音速を遥かに超える凄まじいスピードで振られたハンマーはあっさり貫通、次の瞬間には舞台に激突し、大爆発を巻き起こした。
「「「きゃーっ!」」」「うわっ!」「なんじゃこりゃぁ~!」「キュキューッ!」
凄い爆風に、私も慌てて盾魔法を大きく展開する。大量の煙――というか巻き上がった瓦礫による埃かな――で状況がよく分からないけど、千切れ飛んだ触手が天井や壁にビタンビタンぶつかってるのがちょっと見えた。この分なら触手も軒並み壊れたんじゃないかな?
いやー、これはちょっと加減を間違っちゃったかもね。テヘペロ、なんて。
「怜那、やりすぎ」
「ハイ、ごめんなさい」
爆風がだいぶ収まってきたところで、小さく溜息を吐いた舞依に怒られちゃったので、素直に謝る。うん、今回は私のミスです。
とはいえ、どの程度で防御を抜いて破壊できるか分からなかった以上、多めに見積もって攻撃するのは仕方ないと思うんだよね。舞依もそれが分かってるから、軽く窘めるくらいだったんだろう。本気で怒った舞依はこんなもんじゃあ無いからね。ブルルッ。
「……で、状況はどうなってるのかしら? 取り敢えず反撃は来ないけど、天井側の装置とか触手とかは、完全に沈黙したの?」
「ああ、それなら見れば分かると思うよ」
風魔法を軽く操作して、埃を散らす。徐々に視界がクリアになっていき、そこに現れたのは――
「えっと……」「こ、これは……」「な、なるほど……?」「こんなんアリ? いや、ナイやろ?」
召喚装置全体を上下に押しつぶすように巨大化した、トランクの本体なのでした。
舞台の部分は完全に押しつぶされ、石柱も全て根元からポッキリと折れて倒れてしまっている。天井側の石柱は数本を残して床に落ち、残りの数本もチューブで辛うじて天井からぶら下がってるっていう状態だ。
触手に関しては、見た限り全てが千切れ飛んで壁際にある。のたうつように動いてるのもあるけど、攻撃してくるほどの余力は無さそうだ。
っていうか、何ですか、皆? そんなジト目で。いいじゃない、手っ取り早くぶっ壊せる方法があるんなら、使わない手はないでしょ?
まあ、その、異界探索のラストを飾るボス戦にしては、斃し方が雑だったような気はするけどね。
それはそれとして、だ。
「皆、まだ終わってないよ。神様からの依頼は完全な破壊だからね。ネジ一本たりとも原形を留めないくらいに粉々にするよ」
「……はぁ、そうね。魔法陣の欠片も読み取れないようにしないとね」
「よし、じゃあ各自大きな残骸から順に取り掛かろう。まだ生きてる装置もあるかもしれないから、一応注意は怠らずに」
「よっしゃ、やり放題やな!」




