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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十二章 呪われた大陸>
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#12-03 謎の(あるかもしれない)珊瑚礁




 今日も今日とて飛行船は空を行く。


 既に大陸を離れ海に出てから丸一日ほど経過している。大陸近海では見られた漁船の姿も既に無く、この辺りは一般的な交易ルートからも外れる為にそういった船の姿もない。とても静かな海だ。


 飛行船のスペックをフル活用すれば、呪われた大陸にはマッハで――文字通りの意味でね――到着するんだけど、ある理由からあまりスピードは出していない。


「あっ、皆こっちに来てー。あれなんていいんじゃないかな?」


 ゴンドラの左右に分かれて周囲を監視していた皆を呼ぶ。ちなみに私がいたのは船首側。もちろん舞依と、オマケのクルミも一緒。ちなみにクルミも大きくなってゴンドラの縁から顔を出している。一応、監視の役に立ってくれようとはしてたのかな?


 飛行船の進行方向に島が見える。そこそこの大きさの島に、小さな島が弓状に――もう二~三個島があれば円形って言える感じかな――連なっている。


「あの形状からすると珊瑚礁かな? あれだけの大きさがあれば獲物もいるだろうし、良さそうだね」


「手付かずの珊瑚礁なんて、ちょっと素敵ね。完全に繋がってはいないけど、いわゆるラグーンよね? ついでに海水浴と洒落込みましょうよ」


「いやいや鈴音さん、甘いで。“絶海の珊瑚礁ラグーン”なんて、いかにも殺人事件が起きそうなタイトルやないか(キリッ)」


「あの……久利栖くん。怜那は映画版の方は結構好きですから、そうやって意識させてしまうと……」


「ちょ、止めなさいよ久利栖。洒落にならないから」


「ええと……、なぜ珊瑚礁だと事件が起こるのでしょうか?」


「外界から切り離された珊瑚礁っちゅう綺麗なシチュエーションが、人の理性を狂わせ、惨劇を引き寄せてしまうん――」


 ピシューン フォン パキーン


「あイタッ!」


「いい加減なことを言うのは止めなさい! 違うわ、レティーシア殿下。物語フィクションの話ですから。こっちの世界にもありませんか? こう……嵐や風吹で孤立した山奥の家だとか、大陸から遠く離れた孤島とか、そういった隔離された状況で事件が起きる話って」


「そういうもの……、なのですか」


 あんまりピンときてない感じだね。娯楽があんまり発展して無い感じだから、ミステリー小説とかも無いのかな?


 いや、そもそも魔法っていういわばオカルト要素が普通にある世界だと、ミステリーは成立しないのか。それに閉鎖された状況(クローズドサークル)なんて、中で何か事件が起きるよりも、外から魔物に襲われる方がありそうだもんね。


 つまりファンタジーと探偵は相容れないのか。もしくは、ファンタジー要素を加味した探偵像でなければ物語が成立しないと。ふむ、興味深い。


「まあ、私たちの故郷ではそういう物語のジャンルがあって、その人気シリーズのサブタイトルがさっき久利栖の言ったような感じなんです」


「な、なるほど……」


「まあ、物語のセオリー的なものですよ。……で、他に目ぼしい島も見当たらないし、どうかな? もっと大きい島の方が良いなら、探索を続行するよ。その方がデカイ獲物もいるとは思うし」


 上陸する目的としては、強い魔物がいた方が良いとも言えるからね。


 ちなみに私はココに一票。環礁とラグーンっていうのに興味を引かれる。久利栖の言ったような意味ではなく、単純に景色が綺麗そうって意味で。舞依と一緒にラグーンの向こうに沈む夕日を眺める――うん、イイね!


 相談の結果、珊瑚礁に上陸することになった。消極的な全会一致? 探索を続行しても大きな島が見つかるとも限らないし、あの珊瑚礁も一番大きな島はそこそこの大きさがあるし、それなりの魔物は居るだろうって感じかな。


 では、進路を珊瑚礁へ。







 珊瑚礁の一番大きな島の上空で飛行船を気球へチェンジ、そのままゆっくりと降下。私たちは数日ぶりに陸地に降り立った。


 近くに来て分かったんだけど、珊瑚礁の繋がっていない部分は浅瀬になっている。もしかすると潮が引けば完全に繋がった環礁になるのかもね。


 魔物の気配は結構ある。大きさ的には最大でも騎獣の馬くらいかな? この島の平均的な強さの個体でも、王都の農村エリアにいた魔物と比較すればかなり魔力量が多い。


 でも私が最初に上陸した無人島よりはかなりレベルが低いね。島が狭いから? いや、でも最初の無人島も別に広くはなかったよね。なんでだろう、瘴気が少ないからかな?


 ――あ、そうだ、瘴気が少ないんだ。魔物がこれだけいるなら、もっと瘴気を感じられてもいいハズなんだけど、おかしいなー?


「怜那、どうかした? 気になる事でもあるの?」


「うーん、気になると言えば気になるけど問題になるようなことでもないし……、うん、取り敢えず保留! それにしてもさすがにあったかいね。温度調整の付与が無かったら、Tシャツ一枚になりたいところだよ」


「それを言うなら水着じゃない? こんなにきれいな海なんだもの」


「本当ですね。素敵な海です」


 この辺りは地球に当て嵌めて考えると、たぶん沖縄よりもさらに南。赤道はまだ先かな。


 だからとても温かい。ってか、結構暑い。装備的に優秀だから私たちは(なんちゃって)騎士服をそのまま着てるんだけど、体感はともかく見た目的にはかなり暑苦しい。


 ざっと見渡した景色の印象を一言で表現するなら、ザ・南国。白い砂浜に、斜めに伸びた椰子の木。綺麗に澄んだ海はエメラルドグリーンで、ボートを浮かべたら水底に影が映りそう。


 一方、陸地の方に目を向けると緑が濃い。少し歩けば鬱蒼と茂っていて、イメージ的には森っていうよりジャングルかな。幹の太い大木はほとんど無くて、密度が濃いって感じ? 砂浜に近い位置には、花を咲かせる植物も沢山あって色彩豊かだ。


「あ、一応言っておくけど、海に入る時はライフジャケットを絶対に忘れないでね。ここの浜辺って浅瀬が広いけど、いきなり深くなるから」


「沈降型の珊瑚礁の特徴かな。まあ、ライフジャケットは皆常に身に付けているし、大丈夫そうだね」


 ちなみにライフジャケットは最初に作った時から改良を加えて、エリザベート殿下にプレゼントした特製コルセットと同じ機能になっている。そう言えば、殿下は早速愛用してくれているようだった。送った側としては嬉しい限り。


「逆を言えばダイビングもできるってことよね? 強い魔物がいないようなら、用事が済んだ後で潜ってみるのもいいんじゃない?」


「折角の機会だし、それもいいね」


 ダイビングか。確かにちょっと潜ってみたくはある。別の意味で、だけど。


 ラグーン内、それも深い位置に魔力反応が沢山あるんだよね。反応そのものは強くないしこちらに敵意も感じないから、今のところ危険性は無いと思う。


 ただ魔力の感じが奇妙なんだよね。魔物の反応じゃないし、かといって人間――ヒト族の反応とも違う。ヒトとエルフや獣人では魔力の特徴が違うんだけど、それよりも差が大きい。この反応は人類の範疇なのかな? うーん……、謎だ。


 思い返してみると、ノウアイラの神様は色んな種族の言語を挙げてたけど、私がこれまでに出逢った種族はそう多くない。比較できるサンプルが少なすぎる。まだまだ経験不足だね。もっと世界を知らないと。


 ともあれ。そういう理由だから、みんなダイビングに関してはちょっと保留ね。やる時は慎重にバックアップ要員もスタンバイした状態でやりましょう!


「……なんや、急に珊瑚礁が怪しげに見えて来たわな」


「だからそういうんじゃないって。何かはいるけどヤバいものじゃあないし……、たぶん。なんにしても海の深いところに居るしこっちに特に反応も見せないから、放置しておけば問題は無いと思う」


「……なるほど、じゃあ基本的にラグーン方面はあまり刺激しない方向で行こう」


 秀の言葉に一同が頷く。


「よし。じゃあ予定通り怜那さんはモノづくり、僕らはレティーシア殿下と先ずは戦闘の連携訓練をしよう」


「オッケー」「承知しました」「分かったわ」「了解や」


 では、行動を開始しま――


「あ、あのっ!」


 と思ったらレティーシア殿下に止められてしまった。大きな声で呼び止めるなんて、一緒に旅を始めてから初めてのことだね。なんでしょうか、殿下?


「その、これからは私の事をレティと呼んでください。敬語も不要ですから」


 戦闘で声を掛け合ったりする際、いちいち“レティーシア殿下”と呼ぶのは面倒だろうし、指示を出す時に敬語も使っていられないだろうと。


 あと自分一人だけ“殿下”と肩書で呼ばれるのは寂しい。――寂しい? 仲間外れみたいだと、なるほど。あはは、そういう普通の女の子みたいなことも考えるんですね――じゃなくて、考えるんだね(・・)


「じゃあこれからはレティって呼ぶね。改めてよろしく!」


「はいっ、よろしくお願いします!」








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