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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十一章 コルプニッツ王国>
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#11-24 第三回クラン(+1)会議(前編)




 出発の前日。私たちはクラン会議を行っていた。主な議題は呪われた大陸へ向かうルートと手段について。会議といっても最終確認みたいな感じだね。


 ちなみにこの会議はレティーシア殿下抜きでやっている。トランクの機能を含めた私たちの情報を、どこまで明かすのかをまだ決めていないからだ。その辺をどうするのかっていうのも議題。ある意味こっちが本命ね。


 基本的な方針としては船舶(飛行船を含む)を借りる等、メルヴィンチ王国の力を借りることなく、自力で海を渡るのは決定している。送ってもらう分にはいいけど帰り道がネックなんだよね、やっぱり。


「それで怜那さん、移動手段は任せてしまっていいんだよね?」


「うん大丈夫、任せて。飛行船モードを使えるようになったからね。たぶん飛行船に乗った経験がトリガーだったんだと思うよ」


「この国に来るっていう選択は、結果的に正解だったってことかな」


「せやな。レティたんの護衛は引き受けなあかんゆう俺の主張に、間違いはなかったんや」


「それとこれとは話が別でしょ。あんたのソレは、ヨコシマな動機丸出しなだけじゃないの」


「何を仰る鈴音さ~ん。俺の想いは純粋かつ誠実なんや。粛々と、丁寧に、信頼を得る努力をしてるとこなんやで? この誠意に溢れる瞳を見てえな」


 カッと目を見開く久利栖。うーん、誠意はあんまり感じないかな。なんか眼力で鳥を落とそうとでもしてる感じだし。


「誠意ねぇ……」


「……ってか久利栖、なんか胡散臭い政治家が並べ立てそうな言葉ばっかだよ?」


「酷っ! なんぼなんでもそらないで!?」


 あらら。案外、本気でダメージを受けてる。それから秀? さりげなーく目を逸らさないの。


「今のところは殿下も嫌がってないからいいけど、本当に気を付けてよ? なにしろこれからは私たちだけの旅になるんだから」


 これまでは基本的にエリザベート殿下に同行する形だったから、私たち以外の護衛も居たし侍女さんもいた。コルプニッツ王国についてからは別行動も多かったけど、部屋付きのメイドさんや護衛(門番的な?)が居たからね。私たち以外の人目が無いっていうタイミングは、ほぼほぼ無かったと言っていい。


 でもこれらからは六人+一匹――ちゃんと言っておかないとクルミが拗ねるからね(笑)――の旅になる。レティーシア殿下には侍女が付いてないからね。これは余談だけど、侍女が必要になりそうなお茶会なんかでは舞依がその役を担った。完璧にね。


 侍女が付いてない理由は、私たちっていう機密を知る者は少ないに越したことは無いから。いや、私たちというより王国側がそう考えているってことね。私たちの情報が広まって下手に利用しようとするアホ貴族でも現れて、私たちの機嫌を損ねでもしたら事だ。それで国を出て行かれてしまったら国益を損なう。


 国益とはまた大きく出たなって? それが案外冗談でも大袈裟でもないんだよね。料理と醤油の開発だけでも既に大きな影響が出てるし、スロットの肥やしになってる素材を放出するだけでもきっと経済が大きく動く。戦力として大きいのは言うまでも無いしね。


 理由についてはさておき。なんにしてもこれからの旅では周囲の目っていう、一種のストッパー機能が無くなるわけだ。――うん、心配しかないね。


「久利栖、ホンットーに自重しなさいよ?」


「久利栖くん、日本の基準で考えては駄目ですよ? 相手はこの世界の王族なのですから」


「あー、確かにクラスメイトの女子と同じようにしちゃマズいよね……」


「……もうちょい信用してくれてもええんやないか? ちゃーんと出席したパーティーで観察を重ねて、こっちの世界でアリなアプローチのラインは研究済みやで!(キリッ)」


 そんなキメ顔で言われても。っていうか、真面目に護衛をしなさい。


「まあ種明かしをすると、男同士で話す時にそういう話題は結構出るんだよ。だからやっちゃダメなラインは大凡掴めてるし、心配はいらないんじゃないかな。……たぶんね」


「そこは断言せなアカンやろ?」


「うん? うーん……、ハハハハ」


「笑って誤魔化すんかい! もうええわ」


 久利栖がガックリ肩を落として、ついでにオチも付いた。ま、そういう事なら大丈夫かな。


「っていうか、秀もそんな話に参加してるの?(ジトーッ)」


「おっと藪蛇だったかな? じゃあ話を飛行船に戻そう」


 さすがは秀と言うべきか。不都合な話になりそうでもサラリと流してしまう。実に鮮やか。


「移動に関しては問題無いよ、飛行船モードはスピードも出せるしね。ジェット機よりも静かで快適な旅をお約束するよ。機内食は二人に任せた!」


「はーい」「任された」


「で、ここで一つ重要なお知らせね。トランクの新機能が先日解放されました! はい、拍手。パチパチパチー」


 シ~ン……


 ちょっと皆ノリが悪いなぁ~。っていうか何ですか、その訝し気な表情は? 新しい機能は多分旅を快適にするはずだから、もっと喜んで喜んで。


「また新しい移動手段が増えたの?」


「ううん、そういうんじゃなくて、収納するスロットを一辺一メートルの立方体の空間として固定することが出来るようになったの。要するにスロットを小さな部屋に変換できるようになったってこと」


「おん? 何やそれ。どんなデカいもんでも一つのスロットに入るわけやし、それやとむしろ機能を劣化させとるんちゃうか?」


「ちっちっち、そう慌てなさんな。この機能の重要な点は、スロットを任意に連結させることが出来るってとこなんだよ。ちなみに連結させると壁は消えて一つの空間になる。で、スロットの数は無限に増やせるから……」


「なるほど。トランクの内部に部屋……というか、家を作ることが出来るわけか」


「正解した秀に一〇ポイント! お手つきをした久利栖はマイナス一〇〇ポイント!」


「お手つきのペナルティ、えげつなっ!」


 ほら、スロットの中って重力はあるしなぜか立とうと思えば立てるけど、基本的には床も壁も無い奇妙な空間でしょ? 私は慣れちゃった――というか、たぶん自分の空間(・・・・・)って認識があるから問題無いけど、皆は割と落ち着かないんじゃない? ああ、やっぱりね。だろうと思った。


 空間を固定するとそんな不安定な感じが無くなって、外と同じ普通の三次元空間になる。まあデフォルトだと何にもない乳白色の部屋だけど、カーペットを敷いたり家具を設置したりすれば、結構快適に生活できるはず。


「そんな生活って……。怜那はトランクの中に引き籠るつもり?」


「性格的に引きこもり生活は無理かなぁ~。……じゃなくて、これから旅に出た後の話ね」


 これまでの例からすると飛行船モードも快適だとは思うけど、ず~っと宙に浮かぶゴンドラで寝起きしたりご飯を食べたりは多分疲れるよ。呪われた大陸に着いた後は尚更だね。女神様から聞いた感じだと気が滅入るような風景が続くだろうし、寝泊まりする時に毎回大きなテントを展開できるスペースが確保できるとも限らないからね。


 トランクの中に家を作っておけば、そういった問題は解消できる。全員分の個室も作っておけば、ちょっと一人で寛いだり本を読んだりしたい時とかに便利でしょ? 旅に出るとどうしてもプライベートスペースが確保しにくいからね。


「ぶっちゃけ私たちは良いんだよ。気心が知れてるし距離感も掴めてるから、たぶん長旅でずっとテント暮らしでもなんとかやっていけると思う。だけど……」


「レティーシア殿下、ね?」


「正解。舞依には特別に一〇〇〇ポイント~」


「贔屓のレベルが違い過ぎやっ!」







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