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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第二章 もう一つの始まり>
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#02-07 仲間って大切ですよね




 今日も一日の活動を終え、いつもの四人部屋へ帰ってきました。


 最初は少し不安だった共同生活も、一週間が経過し、お互いにある程度の暗黙の了解とルールが定まり、そろそろ慣れてきたというところでしょうか。


「いやー、今日のバトルはヤバかったな。まさかあそこから突進して来るとは思わんかったわ」


「気を抜き過ぎよ、久利栖。ちょっとやそっとのことで怪我をする身体じゃないし、舞依が治癒魔法を使えるようにもなったけど、注意深く、慎重に、は忘れないように」


 鈴音さんの苦言に、久利栖くんが神妙な表情でペコリと頭を下げます。


「……せやな。ほんま申し訳ない。回避盾が直撃食らってどうすんねん、っちゅー話やもんな」


「まあ僕も前衛だからフォローできるけど、気を付けるに越したことは無いね。それはそれとして、初めて大きなダメージを食らったわけだけど、どんな感じだった? ええと……、例えば怪我の程度とか痛みとか、あと回復にかけた魔力とか時間とか」


 私たちは基本的に安全を第一に、基本的には遠距離からの狙撃による奇襲で魔物をおびき寄せて、全員の集中攻撃で斃していました。その結果として、軽い打撲やかすり傷程度で済んでいました。


 今日も同様に戦闘を行っていたのですが、いつもよりも若干大きく強い個体で、これまでなら斃せるだけの攻撃を加えたところで久利栖くんが油断してしまい、魔物の突撃を受けてしまったのです。


 避けていれば魔物はそのまま逃走してしまい、戦闘が無駄になってしまったでしょうから、結果的にはそう責めるようなことでもないかもしれません。


 ただそれはあくまでも結果論ですから、反省すべき点はきちんと反省し、次に活かすべきでしょう。


「怪我はたぶん骨折……っちゅうか、ちょっとヒビが入ったくらいやと思う。これまで骨折したことなんてあらへんからよう分からんけど、骨がズレたりとかそういう感じでは無かったように思うわ。痛みに関しては、舞依さんが直ぐに治癒してくれたから本当に一瞬やった。……もしかするとやけど、治癒魔法には麻酔的な効果もあるんちゃうかな?」


「そう……ですね。恐らく私の治癒魔法には、あちらの世界での治療のイメージも影響していると思います。苦痛の軽減が効果の一部に組み込まれていても、不思議ではないと思います」


「そういう意味ではこの世界の魔法って便利というか、融通が利くというか……。割といい加減よね?」


「ははっ。まあそこは応用が利く、と言い換えておこうよ。特に多少なりとも科学的知識がある僕らにとってはね。それで魔力の消費については?」


「今回程度の怪我でしたら、戦闘中に数十回治癒することになっても問題無いと思います。あくまでも体感ですし、教科書には怪我の程度が上がれば魔力の消費量が跳ね上がるという記述もあったので、目安にしかなりませんけれど……」


「そっか……。数値が分からないから一度くらい限界を見極めたい気もするけど、それはまあ後回しだね」


 数値という言葉で、以前怜那と久利栖くんがゲームの対戦プレイをしていた時の事を思い出しました。確かにゲームの画面のように、体力や魔力がゲージや数値として表示されていると分かり易くて良いですね。


 ちなみに怜那はゲームも好きでしたけれど、どちらかと言えば直接体を動かす方を好んでいたので、それほど時間を割いていませんでした。従って、あまり得意ではありません。ただ妙に相手の裏をかくのが上手く予想外の事をするので、対戦で技術以上の強さを発揮するようです。


 そういえば銃や爆弾で戦う物騒なゲームで対戦をして、久利栖くんが「うがぁーっ!」と何度も叫んでいましたね。フフッとちょっとニヒルな笑みを浮かべる怜那がカッコ良かったです。


「それにしても、怜那さんは大丈夫なんやろうか?」


「え? 何よ久利栖、急にそんな事言って」


 ……はぁ~。


 驚きました。口に出していたのかと、心臓がドキッと大きく跳ねました。


「いや、仲間は大切やなーと、今日心底思てん。……いやあ、戦闘の事だけやなくてな?」


 しみじみとした口調に、思ったよりも真面目な話なのだということに気付きます。何を今さら、という風だった鈴音さんも表情を引き締めました。


「俺もそうやけど、冒険の世界に行ってヒーローよろしく活躍することに憧れとる奴は多い思う。なんなら男子は九割がたそうやと言ってもええ。女子にだって少なくない数おるはずや」


「僕にもそういうところはあったから、男子については全く否定できないね。でも女子もそうなのかな?」


「せやで。そうやなかったらニチアサの魔法少女が、あんなにシリーズ化しとるはずない」


 確信している表情で久利栖くんが断言しました。


 日曜日の朝というと……、ああ、あの可愛いドレス姿で怪物と戦うアニメーションですね。私も小さい頃に、シリーズの幾つかを見た覚えがあります。


 当時は少し体が弱かったこともあって、確かに強いヒロインに憧れがありましたね。


「説得力があるような、無いような……。っていうか、あのシリーズって魔法少女なの?」


「厳密にはちゃうけど、カテゴリーとしては近いもんやな。って、そこはええねん。……で、や。なんや凄い能力を貰うて順風満帆っちゅうのを想像するわけやけど、生活するんは戦いだけやあらへん、当然やけどな。飯も食わんといかんし、装備のメンテもあるし、洗濯もせなあかん。やることは山ほどや」


 一人暮らしをすると親のありがたみが分かる、なんて良く聞く話ですけれど、本当にそれは実感します。今は宿暮らしで、掃除と炊事の半分くらいは人任せですけれど、細々とやるべきことがあります。


「戦闘にしても、単に魔物と戦うだけでは終わらん。後処理があるしな。戦い続けるのは無理やから休憩もしたいけど、安全なポイントを確保せなあかん。飯を食うにも、用を足すにも警戒が必要や」


 久利栖くんが列挙する内容に、私たちは揃って溜息を吐きます。


 変な話ですが、魔物と戦っている時はそれだけに集中しているので、生き物を殺すことに対する抵抗感はあるものの、割り切ることはできます。ですがそれ以外(・・・・)の部分には、どうしても慣れることができません。


 自分の育ちが良いという自覚はありますけれど、それとこれとは別問題だと思います。


 考えてみるとそういう面では、女子だけでグループを再編していた方々の気持ちも分からなくはありません。一方で女子だけでは少々安全面で不安もありますから、難しい選択ですね。


「そういう諸々の事をこなしていくには、やっぱ仲間っちゅうんが重要やとつくづく実感しとるんよ、ここ最近な。……神様の話やと、怜那さんはボッチなんやろ?」


 ちょっと引っ掛かる表現ですね。その言い方だと、まるで怜那が友達の居ない寂しい人のように聞こえますから。


 とは言え、怜那が現在一人なのは事実です。


 確かに心配――です?








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