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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十一章 コルプニッツ王国>
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#11-14 意外な展開




 割と長い空の旅をようやく終えて、私たちはコルプニッツ王国の王都へ到着した。いやー、やっぱりちょっと運動不足かな。時間が空いたらちょっと体を動かしておこう。なにせ私たちは護衛だからね。


 というわけで護衛らしく騎士服を着こなし、ピリッとした雰囲気を漂わせつつ、殿下たちの周囲を固めて発着場に降り立つ。


 ちなみに飛行船への乗降は、浮岩に流入する魔力を減らして高度を数十メートル程度まで下げたうえで、乗降用のボート的なものを下ろすのが一般的。ボートじゃなくて船底の一部を分離して下ろせる構造の飛行船もある。


 それとは別に、専用の乗降タワー的な建物がある場合もある。コルプニッツ王国の王都はこっちのパターンだった。なおメルヴィンチ王国は王城の一部に乗降設備が増改築されてた。


 ――と、ここで新しいトランクの機能が解放された。ま、たぶん想像は付くよね。飛行船モードです。気球モードが既にあるから飛行船もあるんだ、っていう驚きはあったね。


 気球とは似て非なる機能で使う場面は結構限られそう。というか気球と飛行船を合わせると、長所と欠点をそれぞれ補い合うような形になる。おそらく二つのモードがセットで飛行機能ってことなんだと思う。


 ま、詳細についてはまた今度。今は護衛任務中だからね。


 お出迎えの人達とエリザベート殿下が挨拶を交わしていると、その奥からざわめきが近づいて来た。


 結構大きな魔力の気配。エリザベート殿下よりは小さく、レティーシア殿下よりは大きい。


「怜那さん(ひそひそ)」


「大丈夫、敵意は無い。っていうか、なんか浮ついてる?(ひそひそ)」


 居ても立っても居られなくて走り出しちゃった、みたいな? 大きな魔力を追いかけるように数名の反応がある。状況的に偉い人が飛び出しちゃって、側近がその後を慌ててついて来たってところかな。


 ってことは、この大きな魔力の持ち主はもしや――


「よく来たな、リズ!」


「殿下? もう……、段取りを無視するのはおやめ下さいと、いつも言われているではありませんか」


「まあ固いことを言うな。久しいな、リズ、会いたかった」


「はい。わたくしもです、殿下」


 見つめ合って微笑む二人にほっこりする。


 政略結婚ではあっても、ちゃんと気持ちはあるってことね。王太子の方がエリザベート殿下に入れ込んでる感じなのかな? なんにしても、一安心ってところだね。




 王太子殿下が登場するサプライズはあったものの、それ以外は段取り通りに進行し(←当たり前)、私たちは両殿下ともども離宮へと移動した。


 エリザベート殿下は正式に婚姻したら、王宮内にある王太子妃の部屋へと移動することになるんだとか。現段階ではまだお客さん扱いってことなのかな? で、レティーシア殿下と私たちは、エリザベート殿下のお客さん的な立場だ。


 いくつかの式典やら夜会やらに出席したらさっさとトンズラ――ゲフンゲフン、もとい、早々に旅立つ予定だから、敢えてそういう形式にしたんだとか。国賓ってことにしちゃうと、アレコレ面倒な手続きが必要になるらしい。面倒な話だね。


「それにしても第三のパターンやったとは……。こいつは一本取られたわな」


 応接間に落ち着くと、開口一番久利栖がそう言って、私たちは思わず苦笑してしまった。ま、確かに予想していた二つのパターンは大ハズレだったからね~。


 王太子殿下――名前はリッドという――はスパダリ系ではなく、穏やかで大らかなタイプでもなく、なんとワイルド系だった。


 まあ変に服を着崩したり、フサフサした羽飾りの襟のコートを着てたり、髪の毛をライオンの鬣みたいに立ててたりみたいなことは無い。その辺はちゃんと王太子としての体裁は整えてるってことだろう。


 ただなんて言うのかな? 纏うオーラ? 口調? 所作? まあとにかくそういう諸々に隠しきれないワイルドさが現れてる。ただ歩くだけでも、颯爽って感じじゃなくて、戦場をブーツで闊歩してるって感じだからね。


「あとはアレだ。顔が濃い!」


「「「「ぶふっ!」」」」「「……っ!」」


 おっと、大ウケだね。ってことは皆思ってたんだ? 殿下方はどうにか堪えたみたいだけど、肩が震えてますよー。あと侍女さんが笑いを堪える為に、口とお腹を押さえて蹲ってしまった。申し訳ない。


 ちなみに雑談を始めた時点で遮音結界(改良版)を張っています。不敬な発言と取られてもマズいからね。


 ま、それはさておき。


 いや、もうね。パーツの一つ一つがデカくて自己主張が激しいし彫りも深い。バランスっていう意味では整ってるしイケメンではあるんだけど、例えば王子様然とした秀とはベクトルが真逆だ。


 一度見ただけでも凄く印象に残るだろうから、ある意味では王族に向いている顔なのかも?


 エリザベート殿下と並ぶと美女と野獣――になるかと思いきや、案外収まりが良い。互いが持ってない要素を補い合ってる感じがする。


 聞けば二人は一年ほど互いの国に留学のようなものをしていて、その間に親交を深めていたんだとか。その当時から果断速攻、猪突猛進、力こそパワーなリッド王太子を、エリザベート殿下が諫めるという関係だったらしい。


「それって……」「僕らもよく見る光景だね」「せやな」「キュウ」


 な、なにゆえこっちを見るのかな?


「ええっ! 私は別にワイルド系じゃないよ!?」


 ねえ舞依? って舞依、どうしたの? 殿下と見つめ合って。


 コクリ スッ ガシッ!


 ちょっ、無言で分かり合って固く握手って、なにやってるのよ、もー!


 ああっ! ほら、皆も笑わないっ!







 それからエリザベート殿下は、歓迎の式典やらお披露目の夜会やら王妃様のお茶会やらに出席し、毎日忙しくしていた。レティーシア殿下もそれらに出席し、私たちも護衛として同席した。


 基本は同席するだけの私たちは大した苦労でもない。これでもそれなりに場数は踏んでいるからね。何事も経験しておくもんだと改めて実感。もちろんちゃんと護衛の任も果たしています。


 っていうか、お茶会は基本的に女性のみの参加で、護衛であろうと男子禁制の場合が多い。あ、ゲストとしてちょっと男性が顔を出すことは割とあるけど。会場となった家の主人とか嫡男とかね。つまり護衛としての出番は私たち女性陣の方が多い。何かちょっと不公平を感じなくもない。ちょっとだけだけど。


 そういった予定の合間に、王太子殿下に許可を得て精霊樹詣でをしておいた。というか、触れて来た。流石にコッソリ触れてくるのはちょっとね。見つからないようにやるのは簡単とは言え、一応殿下の護衛という立場なので。


 さて、ここでちょっと問題が発生。問題っていうか予定外? 予想外? の事態が発生してしまった。


 とあるお茶会でのこと。美容と健康の話をしていた時の流れで、温泉の話題が出た。そこでレティーシア殿下が飛行船での会話を思い出して“秘湯”ってワードをポロッと零した。


 どうやらこっちの国(世界)には秘湯っていう言葉が無かったらしい。思い返してみれば、飛行船でも両殿下は話の流れでどういう場所なのか理解している風だった。考えてみれば基本壁の外ではまともに生活できないこの世界では、知る人ぞ知る秘境の温泉なんて有り得ないもんね。


 そんな訳でレティーシア殿下もよく分かっておらず、ヘルプを受けて私がこれこれこういう感じの場所なんですよーと説明する羽目になった。


 これになぜかお茶会のご婦人方が激しく食いついた。


 想像するに、基本貴族の中でも上の方の立場のご婦人方は、日々神経を尖らせてストレスが溜まっているんだろうね。その割に変化に乏しく退屈でもあるんだと思う。


 ――私だったら絶対一ひと月ももたないね! え? 一週間の間違いだろうって? いや、流石に一週間くらいなら我慢できる――かも? うん、そのくらいの忍耐力はあると信じたい。


 ともあれ。そんな感じでストレスを蓄積させている御夫人方は、煩わしい世間からは隔絶された騒音や喧騒とは無縁の温泉に独り浸かって、ただぼんやりと景色を見て癒されたいと、そんな風に思ったのではなかろうか。分かる話ではあるよね。


 で、その話が一体どういう経路を辿ったのか、リッド王太子殿下の耳に入ってしまった。エリザベート殿下も行きたそうにしてたって話も込みで。あのワイルド系暴走殿下に。


 …………


 結果はお分かりであろう。急遽秘湯探索に行くことになってしまったのだ。


「なんちゅうか、妙な事になりおったなぁ」


「その割に王太子殿下の側近や護衛は、普通に対応してるのよね。この程度の暴走は日常茶飯事なのかしら? 王太子殿下とエリザベート殿下の護衛は、コルプニッツ王国側が用意してくれるのよね?」


「そう聞いているね。だからまあ基本的に、僕らのやることがレティーシア殿下の護衛だという事に変わりは無いさ」


「でもな~。私たちだけで楽しいピクニックって感じじゃあなくなっちゃったよね」


「怜那。ここは前向きに、かつて王家直轄だった温泉地に行くという事だから、ある意味運が良かったって考えよ?」


「うん、それはまあ。……っていうか私ら以外の目があると、ちゃんと護衛っぽく振る舞わないといけないでしょ? 私たちも温泉に入れるの? そこが気になってるんだよー」


「「「「あ~……」」」」








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