#11-07 空を飛ぶスキーとボードと自転車
実験は上々だね。素材の特性についても大体分かったし、本命を作るとしよう。ああ、そのサンダル? 必要無いから遊んでていいよ。
お? 久利栖の次は秀がチャレンジするみたいだね。まあ秀は調子の乗ったりしないし、器用でそつがないから久利栖みたいなカッコ悪いところをそうそう晒したりはしないだろう。いや、でもこの欠陥品ならワンチャンあるかも?
――なんて思って思ってたら、サンダルで浮き上がる秀の手を鈴音が握って補助をしてた。久利栖の醜態(って程でもないけど)を見て心配になったのかな? いや、たまにはいちゃつきたくなったのか。ま、生温かく見守りましょう。
なんだかんだでみんなちょっとは退屈してたのかな。秀の次は鈴音がチャレンジするつもりみたいだし、殿下たちもなんかソワソワしてるから、もしかしたら使ってみる気かも? 舞依は――うん、その試作品はちょっと止めておいた方が良いと思う。
さて、私は作業を進めよう。
まずは玩具の完成品を作る。やっぱりサンダル型はバランスが悪すぎるから、スノボサイズのボード型と、スキー型を作ろう。あとストックもあるといいかな。補助輪的な役割になるというか、バランスを取り易くなると思う。
でもな、これだと舞依が遊べる玩具が無い。バランス感覚というか運動神経が全般的にちょっと残念なので……。サーフボードサイズなら私と二人乗りできるけど、皆が自由に飛んでるのに自分だけ二人乗りって、ちょっとつまらないよね?
ボードとかスケートみたいなので空を滑るように飛ぶのは、ファンタジーやSFでは割とポピュラーだからすぐに思いついたけど、他に空を飛ぶものっていうと……、魔法の箒?
いや、でもアレも安定感はないよね。それに作るとすれば箒自体が浮く構造になるから、跨って乗るのは大変そう――っていうか、痛そう。むしろ乗るんじゃなくて箒から座席を吊るすリフト方式の方が、バランス的には優れてると思う。カッコ悪いけど(笑)。
ボードを大きくして、魔法の絨毯ならぬ魔法の板(畳?)にするっていう手もあるけど、なんとな~く某タヌキ型ロボットのタイムマシンっぽくなりそうで、これまたあまりカッコ良くない。
う~ん……
あ、そうだ。空飛ぶバイクみたいなのを作ろう。SFっぽく前後に一つずつローターが付いてる感じのヤツ。まあ、バイクというよりは自転車っぽくなりそうけどね。
フレームは毎度おなじみ魔物の骨を使ってと。可動する必要は無いけどハンドルと、ペダル――じゃなくてフットレストも作って。サドル部分のクッションは後付けでいいかな。で、ローターに相当する魔法発動体を取り付ける。
安定性を考えてサドルの位置はローターよりも低い位置にした。それからハンドルからも魔力を流せるようにしたから、大分制御しやすくなってるはず。やっぱり慣れもあって、手からの方が魔力を扱いやすいからね。
折角だから風よけのカウルも取り付けておこう。あとサドルの後ろにタンデム用のサドルも付けてと。
――なんかボードとはまるきり別モノになっちゃったけど、まあ良し。
で、ココまではただの玩具。実は本当に作っておきたいのは別なんだよね。
作業中…… 作業中……
よし、完成っ! 本命の方はサイズ自動調整とかオートで起動する魔法とその条件設定とかいろいろ仕込んだから、ちょっと時間がかかった。とはいえ、これでも完璧ではないだろうし、実験と調整が必要だろう。ま、暇つぶしを兼ねて試行錯誤してみよう。
と、いう訳だから、皆で甲板に出て遊んでみよう!
甲板は季節と高度の所為もあってかなり寒かった。――けど、そこは魔法で何とでもなる。便利だね。
ちなみに巡行時の高度はだいたい二〇〇〇メートルくらいで、そんなに高くはない。山越えをする時なんかは、地形に合わせて自然に高度が上がる。ただそれも上限があって、この世界最高峰クラスの山は越えられない。浮岩の性質でそうなるらしい。興味深いね。
それはさておき。
船長さんに許可を取って甲板の一部を借り、飛び出し(落下)防止の為に魔法でシールドを張ってと。
「ボード型にスキー型にストックも作ったから、好きなものをどうぞ」
完成した玩具を甲板に並べてみる。
「おおー! せやなぁ……、普段やったらボードを使うんやけど、レティーシア殿下はどっちにするん?」
「ええと……。これはどのようにして使うものなのでしょうか?」
「ああ、そっからか。ほんなら一つずつ借りてみよか。俺がレクチャーしたるさかい」
「はい、よろしくお願いします!」
うーん、久利栖が妙にたのものしい感じで、ちょっと気色悪――もとい、いつもと違い過ぎてオモシロイ。まあ、仲が良いようで何よりだ。
ちなみにエリザベート殿下は試したそうな雰囲気は感じられるんだけど、侍女さんに止められて見学です。厳命って感じだったからね。ま、隣国に到着するまでに怪我でもしたら大変だからね。
「鈴音と秀はやっぱりスキー型だよね?」
「そうね、慣れてる方が良さそうだし」
「僕はどっちでもいいけど、鈴音と滑りたいからそうしておくよ」
ほほ~。こっちも仲が良いようで何よりですね。鈴音さ~ん、ちょっと頬が赤いですよ?(ニヨニヨ)
「も、もうっ、そのイラッとする表情を止めなさい!」
照れ隠しなのか、鈴音は自分の分のスキー板とストックを持って行ってしまった。じゃ、後のフォローは秀に任せた。
「使用感はさっきのサンダルと変わらないと思うけど、魔力の流入量にリミッターを付けたから、加減を間違って板が吹っ飛んでく……みたいなことにはならないはずだよ。まあバランスを崩してコケることはあるだろうけど」
「了解。気を付けて遊ぶよ」
うん。では、ごゆっくり~。
ところで一応、クルミ用サイズも作ってみたけどやってみる? やる? スキー型を使いたいんだ。ふむふむ、横方向に滑るのが合わない感じがすると。なるほどね。
クルミに使い方を教えていると、私たちから少し離れた場所で、早速秀と久利栖が浮き上がって宙を滑り始めた。二人ともやるねー。あはは、鈴音と殿下が目をキラキラさせて見てるよ。
クルミはこれでオッケー。何度も言うようだけど、魔力の加減には気を付けるようにね。
「じゃあ、舞依にはこっちね」
ジャーン! と力作を披露する。
「これって……空飛ぶバイク?」
「っていうか、自転車かな? あっちの玩具よりも安定してるし、これなら舞依でも多分遊べると思うよ」
「うっ……。私だってスキーでボーゲンくらいならできるんだから……」
ちょっと拗ねた感じで口を尖らせる舞依が可愛い。ほっぺを擽っちゃおう。コショコショ。
「それは知ってるよ。でも苦手意識があると、ああいう感じには出来ないと思うからさ」
私が指さした方では、秀と久利栖がそれぞれ無駄にカッコ良くターンをキメながら、宙を滑り上がっている。いや、鈴音と殿下が喜んでるからいいけど、二人ともパートナーにレクチャーするのを忘れてない?
「うん、そうだね」「でしょ?」
舞依と顔を見合わせて笑い合う。
さて、じゃあ私たちも遊ぼう!




