#11-05 旅立ちと飛行船
王からの依頼を受ける返事をして、打ち合わせを何回かしている内にあっと言う間に出発の日になった。エミリーちゃんにも挨拶してきた。土産話に期待しててね。
王都の拠点(屋敷)については、会頭さんに手配して貰った業者に庭の管理は任せておいた。建物の中の方は状態を維持する魔法を掛けておいたから、魔力がもつ間――たぶん半年くらいは掃除いらずだ。
というか、状態維持の魔法は魔法で封じられた空間内の物質の位置を固定するもので、封印が解けると魔法も解除されちゃうんだよね。つまり掃除いらずというより、掃除しに誰かに入られたらむしろ困る。なので厳重に封印しておいた。
そんな感じで準備を終えた私たちは、王女様たちに同行して王城の敷地内に春発着場から飛行船に乗り込み王都を出発した。
今回私たちはレティーシア殿下専属の護衛・侍女的な立場として同行しているので、急遽例の百合・薔薇騎士隊の制服を若干アレンジして支給されて、それを着ている。全く同じじゃないのは、一応騎士隊に所属してるんじゃないですよーっていうポーズね。気付く人がいるかは分からないけど。
女子は白と青を、男子の方は赤と黒を基調とした制服で、私たちの感覚だと軍服というには装飾がちょっと多くて華やかだ。ただ動きやすい作りになってて、ちゃんと実用性はある。ちなみに女子はスカートの下にショートパンツとタイツ(みたいなもの)を履いていて、スカートは簡単に脱ぎ捨てられる仕組みになっている。なかなか優れモノです。
制服についてはそんなもんでいいとして、肝心の飛行船の話に移ろう。
この世界の飛行船は、地球にあったような軽い気体の浮力を利用したタイプではなく、ゲームに出て来るような帆船のマストにプロペラが付いてるようなタイプでもない。呪われた大陸から運んで来た浮岩と呼ばれる、空に浮かぶ岩によって浮いている。
図書館で調べた――飛行船に乗れると聞いてちょっと行ってきた――ところによると、飛行船は基本的に浮岩に船体を取り付けた構造になっていて、基本的には一隻ごとにオーダーメイド。全く同じ船は二つとして無い。
これは何故かというと、確保できた浮岩の数と形を元に、バランスよく空に浮かべるような船を作るかららしい。大きな浮岩を割って使うことはあるみたいだけど、例えば大きさ的に二等分にしたからといって、宙に浮く力が二等分になるとは限らないのだとか。
つまり浮岩は岩全体に浮く力があるのではなく、岩を構成する何らかの物質に浮く力があるという事になる。で、それが何なのかはまだまだ研究中。何せ浮岩の発見自体が最近の事だからね。採取できる場所が場所だからサンプルも少ないし、研究よりも飛行船に回されちゃうからね。
おっと、話が逸れた。
まったく同じ船は基本的に無いけど、浮岩の数と配置にいくつかのパターンはあって、船の前後に一つずつ浮岩があるものと、いわゆるドローンみたいに四つ浮岩があるタイプが比較的多いらしい。
珍しいものだと、クルーザーくらいの大きさの浮岩の上部を平らに削ってそのまま船体の一部にしてしまったものとか、浮岩にドーナツ型にデッキを取り付けて――浮き輪をはめ込んだような形って言えば分かり易いかも――いるようなものもある。
動力は基本的に風力――というか、要するに帆船だ。大型の飛行船の場合はそれで足りない分の補助に、前方の空気を取り込んで加速して後方に吐き出す魔道具――SFで言うところのラムジェットエンジン的なものね――を搭載していることが多い。ちなみに最近開発された最新の技術なんだとか。
ちょっと話が逸れるけど、この推進用魔道具はこれだけでスピードを出そうとすると魔力をバカ食いするらしく、あくまでも補助的な使用に留まっている。その辺は要改良。ちなみに水中でも使用できるものも開発中とのこと。っていうか、プロペラとかスクリューが無いのにラムジェットがあるとは。異世界の技術大系はミステリーだ。
速さそのものはあんまり出ないけど、単純な速度じゃなくて空を飛ぶっていうのが大きいんだよね。やっぱり空は気持ちいいから――って、そんな話じゃあない。地形や街道の整備状況なんかを全部無視して真っ直ぐ進めるから、長距離の移動では大幅に時間を短縮できる。特に距離が伸びると、馬車だと騎獣の疲労とかを考慮しないといけないから飛行船の方に分がある。
それと乗ってみて分かったけど、馬車よりもずっと快適だ。馬車はガタガタ揺れるからね~。飛行船は割と安定していて、フヨフヨとした浮遊感もあんまり無い。クルミも普通にしているくらいだ。あと飛行機と違って、あの喧しいエンジン音が無い。この点は飛行船の方が優れてるね。
ちなみに魔物に襲われることは稀にある。ただ地上を旅する場合と比較して、圧倒的に少ない。空を飛ぶ魔物の絶対数が少ないっていうのもあるし、基本的に飛行船には近寄って来ないらしい。理由に関しては研究中。飛行船を大きな魔物と誤認するのではないか、っていう説が有力なんだとか。
ここまでは飛行船に関する概論。では、私たちが乗船しているメルヴィンチ王家所有の飛行船について。政府専用機に乗ってるようなものだから、改めて考えると凄いことだ。
王家所有だけあって飛行船としては最大級――なんだけど、ぶっちゃけそれほど大きくはない。メインの居住スペースは新幹線の車両を二つ横に並べたくらいかな。もちろんブリッジや船員用の仮眠室、厨房、倉庫なんかは別にあるけどね。
案外狭い――っていうか、船が小さいのは軽量化の為だから仕方がないんだろうね。大きな船体でも、浮岩の量を増やせば浮かせることはできる。ただ推力の問題でどんどん遅くなっちゃうんだよね。浮岩にも質量はあるし。
エリザベート殿下の説明によると、王家の飛行船が最大級の大きさで速度もちゃんと維持できているのは、かなり贅沢な浮岩の使い方をしているからとのこと。なんでも大量に確保した浮岩を直径五〇センチくらいの大きさに砕いて、力の強いもののみを選別して使っているそうだ。
だから一見しただけでは、どこに浮岩を使っているのか全く分からない。心臓部である浮岩が見えないのは、セキュリティー的にも優れてるから一石二鳥だね。コストを度外視すればだけど(汗)。
飛行船内の居住性は結構快適です。――もっともこれは、私たちが殿下たちと同じメインの居住スペースを使わせてもらってるからね。ちょっと探検して船員さんの仮眠スペースを覗いてみたら、三段ベッドが並べられてるだけだった。好待遇に感謝です。
ただ快適ではあるんだけど、やることが無い。暇つぶし用のゲームもかなり持ち込んできてるけど、テーブルゲームばっかりはやっぱり飽きる。
…………
え? なに、舞依? 嫌だなぁ変な事なんて考えてないよ。ただゲームが飽きて来たから、何か面白い事でも起きないかな~って――
「怜那、あんまり不吉なことは言わないで?」
「ちょっと舞依、不吉ってことは無いでしょ。私は“面白い事”って思っただけで、何も事件が起きて欲しいとか、ドラゴンが出て来ないかなとか、そんなことは全く思って無いから」
「いやいや、怜那さぁ~ん。それがすぐに思いつく時点で、ヤバいんとちゃうか?」
「……あっ、でもほら、飛行船は稀少だから、海賊ならぬ空賊には絶対出くわさないから。そこは安心だね!」
「「「「……(海だったら海賊に遭遇してたんだろうなぁ)」」」」




