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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十一章 コルプニッツ王国>
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#11-04 旅に出ることにはなったけど




 キッチンカーの試験営業も何回かやったし、商業区のメインストリートは何度も走ってるんだけど、未だに馬車とクルミの組み合わせに奇異な視線を向けられることが多い。


 というわけで、昼間のドライブは舞依も馬車の中に入って貰ってる。舞依を見世物にするのは嫌だからね。舞依は構わないって言うけど、私が嫌。心が狭い? そうですが、何か?


 そんな感じで注目を集めつつ、ミクワィア商会に到着。出迎えてくれた会頭ドルガポーさんに案内されて応接室へ。


 挨拶をしてお茶を頂きながら訊いたところによると、レティーシア殿下たちが来ることになったのは会頭さんとしても予想外で、たいそう慌てたらしい。それはまあ、なんというか、お疲れ様です。


 会頭さんは私たちがアポを取った段階で旅に出る準備が整ったことを察したらしく、何か伝えておくことはあるか念のために王家に連絡を取ったのだとか。そうしたら直接やって来ることになってしまったと。


 とんだ藪蛇――って言ったら流石に失礼か。あちらに何か用件があるなら、行き違いにならなくて良かった、ってことにしておきましょう。


 キッチンカーの営業に関する話なんかをしている内に、殿下たちが到着した。


「怜那さん、よろしく」「ほいほーい」


 秀の目配せを受けて、久利栖を魔法で拘束する。「な、なんやこれ」なんて言ってるけど、これは当然の措置だからね。私的には久利栖がレティーシア殿下にキメ顔で迫るところも見てて面白いんだけど、それだと話が進まなくなるからね~。


 ウンウン×(三人+一匹)


 ほらね。だから落ち着くまでそのまま縛られてなさい。







 殿下たちからの用件そのものは短時間で終わった。その後はお茶を頂きながらの雑談だったから、まあ普通のお茶会って感じだった。


 久利栖が張り切ってたね。殿下の方も嬉しそうに応じてた感じだったから、割といい感触――って久利栖は思っただろう。実際のところはどうなのかっていうと――


「まだハニートラップ疑惑はあるわけだけど……」


「でも殿下は割と素で嬉しそうな感じだったと、私は思ったけど……」


「そうなのよねぇ。まあ総合的に見て久利栖もお買い得物件なのは認めるけど……」


「まだそこまでの交流はないから、ねぇ?」


「うん……」「だよね」


 ――というのが、私たち女性陣の見立てです。つまり纏めると、ハニートラップ疑惑では無くてチョロイン(チョロいヒロイン)疑惑ってところかな。王族としてそれはどうなんだろうと突っ込みたくなるところだけど、善良な子ではありそう。


 ま、それはさておき。


「ほんで? 王家からの依頼はどうしよか」


 自宅に帰り、王家からの用件に関してはそれぞれで一旦考えることにして自由に凄し、夕食を終えて改めてクラン会議。


 久利栖がテーブルに両肘をついて手を組み合わせ、顔の下半分を隠すような妙に芝居がかったポーズで切り出した。


「基本的には想定してた依頼よね」


「そうだね。別の依頼と抱き合わせ(バーター)だったところは想定外だったけど」


 王家から依頼されたのは、まさかの予想通り。レティーシア殿下を私たちの旅に同行させて欲しいというものだった。で、さらに驚くべきことに、その理由に関しても久利栖の演説とほぼほぼ同じだった。


 ちなみに王家からの依頼なので、これはれっきとした報酬のあるお仕事。引き受けた時点で貰える支度金と成功報酬が提示されている。


 ここまでなら想定してたことだから即決で引き受けても良かったんだけど、もう一つ別の依頼――というか、寄り道が抱き合わせだったんだよね。


 なんでも近々、第一王女のエリザベート殿下が嫁ぎ先である西の隣国・コルプニッツ王国へと赴かれるとのこと。なお着いたら即結婚式ではなく、王太子妃教育――と言ってもまあ“おさらい”だろうけど――と生活に慣れる期間をおいてからとなる。


 で、そのエリザベート殿下にくっ付いて、レティーシア殿下も隣国へ遊学(・・)に向かう。――ってことにして、その後私たちの旅に同行する手順だ。遊学に行くこと自体は既に予定が組まれていたことだから、それを上手く利用したってことらしい。


 隣国でレティーシア殿下はエリザベート殿下と共に参加する必要のある公式行事がいくつかあるから、すぐに出発することはできない。回り道になる分も含めると、タイムロスは一か月くらいには及ぶと見積もった方が良いだろう。


「何事も無ければ、だけど」


「秀、そういうフラグを立てるようなことを言うのは止めてよ」


「そうは言ってもね」


 秀がみんなに視線を送ると苦笑が返って来た。


 ――まあね。色んな巡り合わせ(ハプニング)の根本的な原因であることが神様に保障されちゃったから、まあその、私の体質が原因であるのは否定できない事実なわけだけども。


 っていうか最近思ったんだけどさ。無意識に因果律を取捨選択して引き寄せてるって話だったけど、そもそも全く思いもよらない事なら選択のしようがないわけでしょ? つまり、フラグを立てるようなことを言って、私に意識させるのが良くないと思わない?


「うーん、確かにそういう側面もあると思うけど……」


「うんうん。さっすが舞依! 私の事を分かって――」


「好奇心と探求心と行動力」


「は、はい?」


「怜那は楽しいこととか興味深いこととかを、心の中では常に求めてるでしょ。だから他の人が意識させるかどうかに関わらず、何かは起きると思うの。違う?(ニッコリ☆)」


 バタリと思わずテーブルに突っ伏する。


 そ、そうなんだよね。思いもよらないことが起きないなら、そもそも異世界こっちに来ることも無かったわけだし。流石は舞依。一番私と付き合いが長くて、一番私に巻き込まれることが多かっただけに、私の言い訳の穴なんてお見通しだったらしい。


「ふふっ。でもびっくりはするけど楽しいし貴重な経験もできるから、嫌ではないんだよ? だから怜那は、変に言い訳なんかしなくていいの」


 ナデナデ


「ううっ。舞依~、ありがと~」


 ムギュリと舞依に抱き着く。うん。この温もりと柔らかさの為なら、私は魔王だって斃しちゃうよ! この世界に魔王はいないけど(笑)。


「鮮やかね」「華麗なる自作自演マッチポンプ」「猛獣使いやな」


 むむ、何か余計なことを言ってる外野がいるね。もう私たちはいちゃいちゃしてるから、予定はそっちでテキトーに決めちゃっていいよー。


「雑っ!? ちょ、怜那さん、そりゃなんぼなんでも雑やで……」


「っていうか、気が散って話合いなんてできないわよ」


 はいはい、分かりました。だから鈴音さんや。セイバーをパシパシするのは止めてくれませんかね?


 では、気を取り直して。


「とは言っても、クランの方針的にも久利栖の希望的にも、依頼を受けるのは既定路線なんじゃないの? タイムロスに関しても一月くらいなら許容範囲でしょ」


「まあね。僕個人としても、コルプニッツ王国は大災厄以前の食文化の再現に取り組んでるって話だから、行ってみたかったんだよね。じゃあ依頼を受けるってことでいいのかな?」


「いいわ。エリザベート殿下の結婚相手っていうのも見てみたかったしね」


「そうですね。淑女の鑑のような殿下の隣に立つわけですし、どのような方なんでしょうね。完全に興味本位ですけれど」


「うーん、秀以上のスパダリか……。いや、むしろ逆に容姿や能力は平凡だけど。ものすごく懐の深い人っていうのもアリかな?」


「そういうのも逆の意味で王道よね。殿下のお相手はどっちかしら。楽しみね」


 ま、何にしても王都を発つのは決定ってことだね。目先の行き先は変わっちゃったけど、面白そうだからまあ良し。


 レティーシア殿下分の食料を買い足さないといけないけど、それはせっかくだからコルプニッツ王国で調達しようということになった。完全に観光する気じゃないかって? せっかくの寄り道なんだから、そりゃもちろんするでしょ(←開き直り)。


 それから飛行船に乗れることも楽しみだ。今回は殿下の移動に同行するから、王家所有の飛行船に同乗できるんだよね。


 うんうん。やっぱり旅はワクワクするね! 早く出発日にならないかな~。








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