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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十一章 コルプニッツ王国>
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#11-02 コッソリ紹介




 ちゃぷん―― ちゃぷん――


 あー……。やっぱりお風呂は良いねー……。


 サウナも良いものだけど、やっぱり温かい湯船に浸かる方が私は好き。舞依とくっ付いて入れるしね。背中のふかっとした感触が極上です。サウナや水風呂ではこうはいかないからね。


 ただ今の時刻は一〇時過ぎ。私たち以外はもうそろそろ寝てしまったかな、っていう頃。小学生かよっ! っていうツッコミはお控え下さい。こっちの世界の人達は基本的に夜も朝も早いんだよね。


 魔道具があるから、夜でも結構明るく過ごすことはできる。これは割と庶民でもね。だけどいかんせん夜更かししても娯楽が少ない。テレビも配信もゲームも無いし、本は高い上に内容がお堅いものに偏ってるからね。


 そんなわけで急ぎの手仕事があるとか、のんびり晩酌を楽しむとか、そういうのが無い人はさっさと寝てしまう事が多い。


 ちなみに私と舞依はちょっと運動(・・)したから、お風呂で汗を流しているところです。これは世界が変わっても変わらないね。いわゆる夜の生活。


「ねえ怜那、お昼の話し合いで急に外しちゃった理由は何だったの?」


「あー……、あれはねー……」


「……やっぱり話せないこと?」


 後ろから回されている手にちょっとだけ力がこもった。


「怜那に考えがあるのは分かってるし信頼もしてるけど……」


 後頭部にこつんと舞依のおでこが当たる。


「あんまり隠し事が多いと、ちょっと寂しいな」


 うっ。確かに考えてる計画はあって、まだまだ情報が足りなくて実現性に疑問があるから、それは話せないんだよね。私と舞依だけじゃなくて、鈴音たちも含めたクラン全体の将来に関わることだから、あんまり期待させるわけにもいかないし。


 …………


 うーん……、でも舞依をあんまり不安にさせちゃうのはやっぱり嫌だな。精霊樹の事はちゃんと話しておこう。


 っていうか、もう見せちゃった方が早いね。私の魔力で厳重にガードしておけば、精霊樹への影響も問題ないでしょう。――たぶん。一人なら?


「舞依、もうあったまったよね? お風呂上がって着替えて」


「えっ? うん、分かった。……けど、突然どうしたの?」


「ふっふっふ、スッゴイものを見せてあげるから(ニッコリ☆)」


「えっ……」


 いやだなあ、そんな身構えないでってば。舞依の希望通り、お昼に何があったのか見せてあげるだけだから。え? 私が「すごい」っていうものに、とんでもない不安を感じる? ひどいなぁ。恋人の事をなんだと思ってるの?


「恋人だからこそ知っている、経験則があるんです」


「……ハイ、ソウデシタネ」


 ま、まあそれは脇においとくとして。


 身支度は整ったね。うん、パジャマで大丈夫。トランクの中から出るわけじゃないからね。


 この乳白色の謎空間は、重力はあるしバスタブに水も溜まるのに、宙を歩こうと思えば普通に歩けるからね。便利だけどミステリー。もしかすると私の思考や感覚に左右される? うーん、興味深い。


「舞依、ちょっと動かないでね? 『魔力を、完全に遮断する、結界』これでよしと」


「今のは……、神代言語? 結界?」


「うん。舞依固有の魔力を遮断したかったから念の為にね。ちょっとまだ繊細な状態だから。……じゃあ取り出すよ? ほいっと」


 精霊樹を育ててる巨大植木鉢を取り出す。


 ――あれ? おかしいな、反応が鈍い。ああ、そっか。植木鉢だって分からなかったのか。うん、そうそう。一見分からない大きさだけど植木鉢なんだよ。


 じゃあ早速だけど見に行こっか。とは言っても、まだ芽が出たばっかりだから、見たらちょっと拍子抜けすると思うけどね。


 舞依の手を引いて宙を歩き、植木鉢の真ん中でぴょこんと顔を出している精霊樹の近くへ。


「…………」


 チカチカッ


「え? また水と魔力が欲しいの? さっきあげたばっかりじゃない。そんなに吸って大丈夫なの?」


 チカッ チカチカッ


 ふむふむ。そんなに沢山はいらないけど、折角顔を見せたんだからちょっと欲しいと。おやつみたいなものかな? じゃあ、ざざざーっとね。このくらいでいいかな。


「れ、怜那、この芽って……」


 漫画ならギギギッって擬音が付きそうな動きで、舞依がこっちに顔を向ける。声も少し震えてるから、これはもうこの芽が何なのか気付いてるのかな。


「そ、芽が出たばっかりの精霊樹。いやー、なかなか芽が出なくて大変だったよ」


「……ちょっとそこに座りなさい」


「え、なに?」


「いいから、正座。ちゃんと説明しなさい」


「ハイ」


 説明中…… 説明中……


「……そう、そんな経緯があったのね」


「そうそう。託されちゃった以上、私が責任を持って育てないとでしょ?」


 ところでもう立ってもいいでしょうか? 正座って言っても宙に浮いてるから、足が痺れることは無いんだけど、なんかこう、叱られてるみたいで落ち着かないからさ。いい? ありがと。


「もう、怜那ったら……。建前はそれでいいわ。本音を聞かせて」


「今のも本音ではあるよ? ま、折角の貴重な精霊樹の種なんだから、誰かに渡すなんて考えられないし。それとこれは途中からだけど、トランクの中で私だけの魔力で育てた精霊樹はどうなるのかな、とは考えてたけどね」


 あ、ちょっと舞依~。そんな深々と溜息を吐かないでよ。基本的には精霊樹を育てるのは誰にとっても悪いことじゃあないんだからさ。


「それは……、うん、そうね。……でも、それならどうしてまだ秘密にしておこうと思ったの?」


「実はこの子、まだちょっと不安定な状態で、外には出さない方が良さそうなんだ」


「あ、それで結界を?」


「念のためにね。まあそういう事だから、舞依も秘密にしてね。これはそう長い期間にはならないと思うから」


「うん、分かった。……ね、たまにはこの子を見せてくれる?」


「それはもちろん構わないけど、別に楽しいものでもないんじゃ……」


「ううん、そんなことない。だって可愛らしいもの」


 キラッ


「ふふっ、ほら」


 うーん……。ま、まあ、お世話をしたら反応を返してくれる植物っていうのは、確かに可愛いと言えなくもない――かも? 舞依の感性も結構独特なところがあるよね。


「だとしたらそれは、怜那の影響ね」


「えー? それって責任転嫁じゃなくて?」


「ちーがーいーまーすっ」


「……ま、ずっと一緒だからね。たぶん私も舞依の影響で変わった部分があるんだろうね」


「きっとね。そうやってちょっとずつお互いに影響を与え合って、変わって行けるのって嬉しいよね」


「うん、そうだね」


 視線が絡み合い、自然に顔を寄せ合って、唇を触れ合わせるだけの優しいキスをする。


 一旦顔を離して見つめ合い、今度は抱き合って深いキスを――


 チカチカッ


 しようと思ったら、視界の隅で精霊樹が自己主張するように光った。


「……イチャつくなら他所でやれってことかな?」


「放っておかれてちょっと拗ねちゃっただけじゃない?」


 キラッ


「舞依の方が当たりみたい」「そうね」


 思わず同時に吹き出してしまう。


 なんていうか、クルミといい精霊樹(この子)といい、私が拾う子は仲間外れが嫌な構ってちゃんなのかな? 面白い共通点だね。


 ――そんな感じで、日課の精霊樹の水遣りに舞依も参加することになった。参加っていうか、今はまだ見学って感じだけど、精霊樹が安定したら水&魔力遣りも手伝って貰おうかな。








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