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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十一章 コルプニッツ王国>
202/399

#11-01 芽が出たっ!

投稿再開します。

今年もよろしくお願いします。m(__)m




 呪われた大陸へ向かう旅支度はあっさり終わった。何しろトランクがあるからね! 必要かなーと思った物は迷うことなく買ってしまえばいい。嵩張る事も無ければ劣化・腐敗することもないから、無駄になったところで何も問題無い。


 結局、旅支度で一番問題になるのは、何を持っていって何を切り捨てるかの線引きだからね。念の為に持っていきたいけど、無駄になるかもしれないし荷物の容量的にもギリだから――みたいな?


 そういうのに迷う必要が無いし、こう見えて私たちはちょっとしたお金持ちだからね。リストアップした物資を片っ端から買い集めて行った。妙にヒマつぶし用品――本とかボードゲームの類――が多かったような気もするけど、まあ良し。海の上じゃあ、釣りくらいしかすることが無いからね。


 リストに抜けもあるかもだけど、まあ海に出るまでに何度も街に立ち寄るから、思い出した時に買い足せばいいでしょってことで。その辺は気楽にね。


 並行して行ってたキッチンカーの練習を兼ねた試験営業の方も大分様になって来た。流石は幻の屋台――え? その呼称は止めて欲しい? そうなんだ。じゃあ、巷で話題の屋台ってことで――を営業してただけのことはある。皆手際が良くて、私の出る幕があんまりなかった。ちょっと寂しい。


 調理担当(秀と舞依)とお会計・配膳担当(鈴音と久利栖)で役割分担がほぼほぼ完成されてるんだよね。何回か練習するうちに、私はどっちかが忙しい時にヘルプに入るっていう形に落ち着いた。考えてみると、戦闘の時も私は遊撃的なポジションだから、それと変わらないとも言えるね。


 ちなみにどっちにもヘルプに入る必要が無い時は、ルトルを演奏して客引きをしている。


 それでなんかカーバンクルがリズムに合わせて体を揺らしてたから、タンバリンとトライアングルとカスタネットを作って使い方を教えてみたら、器用に使うようになった。しかも曲調に合わせて楽器を変えたり、全く使わなかったり、手拍子をしたりするようになった。


 これには私も驚いたね。ホント、この子の学習能力はどうなってるんだか。中に人間が入ってないよね? 背中にチャックは――うん、やっぱり無い(笑)。


 あ、そうそう、カーバンクルの名前も決まりました。では発表します! 厳選なる審査の結果――“クルミ”に決定しました。はい拍手。パチパチパチ~。


 え? ちょっと可愛すぎるんじゃないかって? そんな茶々を入れる人は手を挙げなさい。先生、花丸あげちゃいます。


 名前決定会議は結構紛糾して一時間以上かかっちゃったよ。いや本当に。


 なんでもよく食べるし“カー”バンクルだし、カー〇ーでいいんじゃないかなんて案も出たりとかね(笑)。誰が出したかは――言うまでもないか。ああ、途中でもう面倒になっちゃって、私が「もう“カーちゃん”でいいんじゃない?」って言ったらカーバンクル自身から猛反対にあった。流石にこれは無いかって私も思ったしね。ちょっと反省。


 で、ペットって結構食べ物の名前を付けるよね、って話になって、カーバンクル(・・)からクルミがいいんじゃないかってことになった。


 この名前にはちょっと仕掛けがあって、カーバンクルは春から初秋頃まで毛皮の色がちょうどクルミ色に変わるんだよね。で、今は白――つまりミルク色。クルミとミルク。なかなか洒落が効いてていいんじゃないかと。


 さておき。私とクルミの演奏セッションが話題になったこともあって、キッチンカーの営業は順調そのもの。会頭ドルガポーさんからの斡旋でこの間、商業エリアから壁を一つ越えて貴族街の方で営業をしてきた。なんていうか、馬車に乗って来た華やかな装いの方々がキッチンカーに群がるのは、かな~りシュールな光景だったよ。


 営業が順調なのは喜ばしい限りだけど、このまま話題になり過ぎると王都を離れ難くなっちゃいそうだね。練習はもう十分だし、そろそろ王都を出発する段取りに入った方が良いかもしれない。







「――それじゃあミクワィア商会にアポを取って、会頭さんに王都を発つことを伝え次第出発しよう」


「王家への連絡は会頭さん経由で?」


「ああ。僕らの方から王家へ直接連絡する方法は無いし、連絡を取ろうとするのもやめておいた方が良いだろうしね」


「変に繋がりを勘繰られたくないものね」


「そういうこと。そんな感じの予定でいいかな?」


 うん、良いと思うよ。挨拶は大事だからね。大した手間でもないし、その辺はちゃんとやっておきましょう。こういう時、日本に居た頃の便利さが懐かしくなるよね。


 ちなみにこっちの世界にも伝書鳩みたいな騎獣はいるらしい。とはいっても主に使用しているのは軍や大きな商会くらいで、一般には全く普及していない。まあ生き物だからね。そうそう数は増やせないし、現代日本の通信料レベルで伝書鳩が飛び交ってたら、さぞやホラーな光景だろう。


「それじゃあ私がひとっ走り届けてくるから、信書は秀か鈴音で……?」


 うん? なんだろう、この感じ。力強い何かが目覚めたような気配を感じる。


 いや、感じる――っていうのとは違うか。自分の内側から繋がったような不思議な感覚。


 その証拠に、皆は何も反応していない。突然言葉を切った私の事を不思議そうに見返している。舞依の魔法適性はかなり高くて、魔力絡みの気配にもかなり敏感だ。にも拘らず何も反応が無いってことは――


 あっ!


「ゴメン、ちょっと席を外す」


 皆の返事を待つまでも無く、急いでトランクの中へ。まあ信書は私が届けるとは言っておいたから、後は秀か鈴音の仕事だからね。私が抜けても問題は無いハズ。


 毎度おなじみ乳白色の世界で精霊樹の植木鉢(特大サイズ)を取り出し、真ん中辺りを確認する。


「おぉー……」


 やったね、芽が出てるよ!


 可愛らしい双葉がぴょこんと土から顔を出している。ま、可愛らしいとは言ってもそれは植木鉢のサイズと比較してそう見えるだけで、朝顔や向日葵の芽と比べればずっと大きい。葉っぱの部分が文庫の半分くらいはあるし、茎も相応に立派だ。


 それに存在感が凄い。街の精霊樹のように神々しい――とまではいかないけど、その片鱗は感じる。なんていうかこう、周囲の空気が清浄な感じがするみたいな?


 いやー、長かったね。とんだ寝坊助さんの大魔力(メシ)喰らいだ。


 チカチカッ!


 んんっ!? 今ちょっと葉っぱが光った? 見間違い――


 チカッ!


 では無いね。しかも私の意思に反応してるみたい。さっき何か繋がった感じがしたのはこれかぁー。


 え? 水と魔力が欲しいの? はいはい、今あげるから。やっぱり大魔力喰らいじゃない。寝起きみたいなものなのに、元気だね。


 水と魔力をあげるついでに葉っぱに触れてみる。


 なるほど。うん、やっぱり私と精霊樹の間に魔力的な繋がりができてるみたい。


 うーん……、基本的には悪いことじゃあないと思う。でも良いことだと両手を挙げて喜べることでもないような……。


 …………


 よし、今は考えない。というか、そもそも今更放り出すことなんてできないからね。選択肢は育て続ける一択しかないんだ。流れに任せよう。


 差し当たっては、現状維持で育てていこうかな。芽が出たら皆にお披露目しようかと思ってたんだけど、それは延期で。


 触れてみて分かったんだけど、念の為にもう少し育つまで、外界や私以外の魔力に触れさせるのは避けた方が良さそう。トランクの中でほぼほぼ私の魔力だけで育てちゃったものだから、刺激に弱いというか免疫ができてないというか、そんな感じ。純粋培養の箱入り娘的な?


「ま、何にしてもちゃんと芽が出てくれて良かったよ。元気に大きく育ってね」


 キラキラッ!








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