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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十章 王都の新拠点>
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#10-13 東奔西走の一月でした(前編)




 師も走る十二月は色んな意味でドタバタしたけど、私たちは一月も負けず劣らず大忙しだったね。


 エミリーちゃんの電撃来訪(来ちゃった!)の後、結局私たちの拠点で例の顔合わせお茶会を開催することがトントン拍子で決まって、先ずはその準備に追われた。私たちが生活する分には問題無くても、人を招くって意味ではまだまだ不十分だったからね。


 ミクワィア商会全面協力の下、内装や調度品を揃えて庭を整えてと急ピッチで進めて、四日でお茶会の開催に漕ぎつけた。いやー、やればできるもんだね。まあ、流石に美術品の類は(良いものは)急に入手できるものじゃ無いから、ミクワィア家からのレンタル品だったけどね。


 なおそんなに急いだ理由は、主にヘンリーくんの教育やら公式行事やらの予定が詰まってしまう前に行いたかったから。王太子になるんだから大変だ。心の中で応援するしかできないけど、頑張って欲しい。


 え? なんで心の中なのかって? 王位継承絡みに表立って応援はしないって。私の力――主に武力って意味で――を当てにされても困るからね。


 お茶会自体は大成功だった。私たちも料理やらBGMの演奏やら、いろいろ趣向を凝らした甲斐があったというもの。――ただ何かと私を話題にするのは止めて欲しかったかな。なんかねぇ……、過大評価というか美化されてるというか、ちょっとむず痒かったよ。


 それが終わったら今度は醤油の試作品開発。これは結構あっさりと終わった。と言うのも、秀がかなり製法を詳しく知ってたことに加えて、私たちにはトランクがあるからね。待ち(・・)の時間はほとんど無いし、温度管理を始めとする環境の変化も皆無だ。今日もありがとう、神様トランク


 神殿との大豆納入に関する話とかは、ミクワィア商会に丸投げした。事業化に関して私たちはノータッチのつもりだからね。責任者の神官さんと巫女さんには、王宮での試食会で顔を合わせてるし、そのくらいでいいでしょ。


 で、お次は醤油開発の責任者に作り方のレクチャー。もちろん詳しい製法を纏めたものもちゃんと渡す。


 ちなみに責任者の人は、ミクワィア商会のワインを取り扱う部門の従業員で、醸造にも興味があってワイナリーにもちょくちょく足を運んでいるような人なのだとか。今回の件で立候補を募ったら真っ先に手を挙げたらしい。三〇代前半の男性で、商人や職人というよりも研究者っぽい印象の人だった。


 秀が手順を教えて、時間経過による段階別の成功サンプルも渡し、実際に作ってみてレクチャーは終了。トランクの機能である種のズルをしているから成功したけど、王都の環境で上手くいくかはやってみなくちゃ分からない。そこは試行錯誤で頑張ってもらうしかないね。


 醤油関連と並行してキッチンカーの準備もボチボチ始めている。調理台とかメニューボードとか道具類とかを自作したり買って来たりね。


 特に道具類が重要なんだよ。日本には当たり前にあったキッチン便利グッズがこっちには無いから。秀や舞依はそんなもの必要無いし私もまあまあできるけど、鈴音と久利栖はね~。


 と、いう訳で作ってみました。あると便利な皮むき器とスライサーとゆで卵カッターと泡だて器。この辺は構造が簡単だしね。逆に構造が複雑なジューサーとかハンドブレンダーとかは、魔法で代用できるから必要ないというミステリー。


 久利栖なんかは守銭奴っぽいニシシ笑いをしつつ、キッチン便利グッズの特許も取ろうか――なんて言ってたけどね。こんな細々としたものだと、利益よりも手間の方が気になる。まあ機会があったら会頭さんに話してみたら? 特許とかじゃなくてアイディア料だけ貰って後は丸投げにするとかね。







 そんなある日の朝。皆で食卓を囲んでの朝食。本日のメニューはパンとベーコンエッグとミネストローネにお好みのフルーツ。コーヒーとかお茶の類は各自好きなものを。


 朝食は当番制で作ってるんだけど、誰が作っても大体“パン+卵料理+カップスープ+フルーツ”って感じになる。たま~に卵料理の代わりにフレンチトーストだったりサンドイッチだったりすることもある。


 さておき。今日の予定はどうするの? ふむふむ。午前中は市場で食材の物色をしつつキッチンカーで出すメニューを考えると。で、午後は料理の試作をする。なるほど……。


「そういう事なら、私は別行動をしようかな」


 メニューの意見出しには四人もいれば十分だろうし、試作に関しては秀と舞依が中心で私も含めた三人はお手伝いしかできないからね。私が抜けても問題は無いでしょ。


「それで、怜那さんは何をするつもりなんだい?」


「王立図書館で調べ物をしてこようと思ってね」


「えっ、一般に開放されてるの!? だったら私も興味があるわ。どうせなら皆で行きましょうよ」


 おっと、鈴音が食いついちゃった。で、他の皆もうんうんと頷いている。


 まあこの反応は予想通り。舞依と鈴音は「読書が趣味」と言えるほど本を読んでるし、久利栖もインドア派らしく結構本を――マンガだけじゃなく話題になった本なら割と何でも――読んでいる。


 秀は趣味っていうのとはちょっと違うけど、ご当主さん(タヌキじじい)の教えで一般教養として文豪の代表作は一通り、それからビジネス書や新書の類をかなり読んでたはず。よくもまあ、そんな時間があるなと感心するね。


 ――考えてみると、一番本を読んでないのって私か。今明かされる驚愕の事実(笑……えない)。


 とは言え、今回は私だけで行くしかない。なぜなら図書館は一般開放されてる訳じゃあない。身分を証明する物が必須だ。その点、私には会頭さんから貰った腕輪があるからね。


 会頭さんクラスになると同行者を連れて行けるけど、私の持っている腕輪だと自分だけしか入館許可が得られない――って話だ。


「という訳だから、残念ながら私一人で行くよ。一応、双子ちゃんたちとかのコネでどうにかするって方法もあるけど……」


 ニッコリ笑顔で首を横に振る――と。まあそうだよね。一応訊いてみただけで、私もやりたいとは思わないし。


 そんなわけで図書館には一人で行ってきた。








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