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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十章 王都の新拠点>
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#10-12 閑話 エミリー、王都へ行く(後編)




 お茶をしながらお姉様がお仲間の皆さんの事を紹介して下さいました。


 皆さんとても優しく、そして何処かお姉様から受ける印象に似ています。顔立ちも性格も全然異なるのですけれど、気さくなところや、それでいて礼儀正しく所作が綺麗なところなどに共通点がある気がするのです。出身が同じ国だからなのでしょうか?


 クリス様が私の事を「隠し妹」と仰ったのは、ちょっとよく分からなかったのですけれど……?


「ああ、久利栖が変なコトを口走るのは癖、っていうか趣味? いやむしろ持病? まあそんなものだから、気にしないでいいよ」


「怜那さ~ん。口癖っちゅうんはともかく、持病はないで?」


「あら似たようなもんじゃない? 時々ポロッと出て来るし、止める気もないんだし、持病の発作みたいよ?」


「くっ! 否定でけへん。そうか、俺のボケは不治の病やったんか。……いや、っちゅうことは、何時何処で出てきてもしょうがないっちゅうことやんな? 発作なんやし」


「「「「開き直らない(で下さい)!」」」」


 くすくす。楽しそうですね。


 皆さんと一緒だと、お姉様がちょっとだけ幼くなったように見えます。ノウアイラに滞在していた時は、大人っぽい印象が強かったので新鮮です。もちろん、どちらのお姉様も素敵なのは変わりません。


 それから旅の途中で襲撃されて? その後、面白そうだから連れて来た? ええと、つまり騎獣にしたという事だと思います、たぶん。カーバンクルも紹介されました。


 カーバンクルの実物を見たのは初めてですけれど、とても可愛らしくて、頭のいい魔物なのですね。これからよろしくお願いしますと挨拶をしたら、手を差し出して来て握手をしてくれました。言葉が分かっているのでしょうか?


 瞳をキュルンとさせてコテンと首を傾げる仕草がとても可愛いです。思わずナデナデしてしまいました。


 文献によれば確か、カーバンクルは生息地から離れることはほとんど無く、愛玩用の騎獣にしようと捕獲して街に連れ帰っても、気候や水・食べ物が合わないのか短命に終わってしまう――そうなのですけれど。この子は元気いっぱいですね。どういう事なのでしょうか?


「あー、その子は何ていうか色々特殊なんだと思うよ。そもそも食べ物目当てで私の旅に自分からくっついてきたくらいだからね」


 そう言ってお姉様は笑いました。毎日お姉様の魔力で育てられた果物を食べているせいなのか、魔力量が上がり、それに伴い知能も上がっているような気がするとも仰っていました。なんとカトラリーを使って食事をしたり、武器を使った戦闘も出来るそうです。


 これがお父様やお兄様の仰ることなら冗談かもしれないと疑うところですけれど、恐らく本当の事なのでしょう。皆さんの表情でなんとなくそうだと分かります。


 お互いの紹介が終わり、それからはお茶菓子を頂きながらお姉様の旅の話や、お姉様がノウアイラを発った後の私の話などをしました。


 ――といっても、私の方はお勉強の毎日だったので提供できる話題は少なかったのですけれど。お勉強以外だとシャーリーや護衛の方に付き添って貰って、街の外へ魔物の生態観察に何度か出掛けたことくらいでしょうか。それから体力づくりと護身術の鍛錬も始めました。


 それにしても街を迂回して旅しているのではないかとお父様たちは推測されていましたけれど、まさか山脈越えをして大峡谷地帯を踏破されているとは思いませんでした。しかもドラゴンの巣にコッソリ忍び込んで鱗や牙を拾って来ただなんて……、やはりお姉様は計り知れない方ですね。


 シュウ様たちが王都に着いてからのお話も興味深かったです。時機を見て次々と新しい手札メニューを投入するだけでも凄いことですが、それがとても戦略的で、他店との相乗効果セットメニューで売り上げを伸ばすだなんて……。


 お姉様の故郷では皆さんのような人材が、そこら中に溢れているのでしょうか?


 そう疑問を口にすると、お姉様がシュウ様とアイコンタクトを取り、その後で他の皆さんともぐるっと目を合わせました。


「これはもう会頭ドルガポーさんには話したことなんだけど、できれば秘密にして欲しい。約束できる?」


 シャーリーに視線を送ると頷いてくれたので、私は「はい」と答えました。


「実は私たち、こことは別の世界から召喚されて来たんだ」


 説明を聞き終わり、私は大きく深呼吸しました。とんでもない秘密を明かされて、まだちょっとドキドキしています。家族や信頼できる人になら話しても構わないと言われましたけれど、念の為に自分からは話さないようにしようと思います。


 一方ですこし納得している部分もありました。お姉様を含む皆さんの言動が、この国や近隣の国とは根本的に異なる文化が元にあるのだと思うと、腑に落ちるような気がするからです。


 食文化についてもそうですね。お茶菓子として頂いた“ぽてち”や“ぽっぷこーん”は見たことも聞いたこともないものでしたし、高級食材の卵を贅沢に使う“ぷりん”なんて思いもよらない料理です。


 あ、どれもとても美味しくいただきました。一口サイズのフワフワなパンで具材を挟んだ“さんどいっち”も美味しかったです。――ちょっと食べ過ぎてしまったかもしれません。お夕食は少なめにして頂きましょう。


「ところでエミリーちゃんはどうして王都に? 私に会いに来てくれたっていうなら嬉しいけど、たぶんそれだけじゃないよね」


「はい。実は双子の両殿下と顔合わせすることになってしまいまして、それで……」


 言葉を濁したのですけれど、皆さんは経緯を正確に把握されたようです。お姉様がスーッと目を逸らしました。


「あー、それはもしかしなくても怜那さんの所為やなぁ」


「エミリーちゃん、災難だったわね……」


「ちょっ、災難って……。そもそも最初に双子ちゃん一行を拾ったのは皆だし、その後の展開は皆も納得の上の事でしょ?」


「それはそうだけど、殿下がエミリーちゃんに興味を持ったのは、恐らくエミリーちゃんと怜那が親しいからでしょう?」


「結局一番懐かれてたからね。考えようによっては共通の話題はあるってことだから、悪いことばかりじゃあないと思うけど」


「あの、直接的には父が私のことを話してしまったことが原因ですし、状況的にいずれお会いすることにはなったと思いますので、レイナお姉様の所為という訳では……」


「エミリーちゃん……」「よくできた妹ねぇ」「ええ子や……」「うん、妹のかがみだね」


「エミリーちゃんが良い子なのは事実だけど、私の扱いがビミョ~に釈然としない……」


 ふふっ。拗ねるお姉様がちょっと可愛です。


 実のところ、先ほどの発言はお姉様をフォローしたというよりも、単純な事実なのです。ミクワィア家とロックケイヴ家との関係性などを考えると、今後全く顔を合わせずに済むというとは有り得ないでしょう。


 むしろ今のタイミングで王都に来られたことでお姉様と再会できたのですから、私にとっては都合が良かったのです。


「でもまあ僕らにも責任の一端はあるわけだし、ここは一肌脱ぐべきかな。双方の都合が合えばの話だけど、その顔合わせをここでやるというのはどうかな? 料理や飲み物はこちらで用意しよう。どうかな?」


 シュウ様の提案に、お姉様たち四人が賛成します。


 王宮に赴くのは、いくら小規模でプライベートなお茶会ということでもやはり緊張します。美味しくて珍しい料理があれば、それ自体も話題になりますし、私にとっては願ってもないことですが……。


 シャーリーを見ると頷いてくれたので、帰ったらお父様に提案してみましょう。


 そんなこんなでマナー的には大分問題のある行いをしてしまいましたが、やはり訪問して良かったです。


 ちなみにクリス様によるとこういう時は「反省はする。でも後悔はしてない」というそうです。――レイナ様達に余計なことを教えるなと窘められていましたけれど。







 その日の夜。ベッドの中で今日の出来事を思い返します。


 訪問したのが既に昼下がりでしたので、それ程長い時間居られなかったのが残念ですが、とても楽しく、そして驚きが沢山のお茶会(?)でした。


 中でも一番驚いたのが、レイナ様とマイ様が恋人同士だったという事です。


 マイ様はレイナ様とはタイプが違いますけれど、綺麗で優しくて穏やかな、とても素敵な方でした。所作の優美さという意味では、皆さんの中で一番だったと思います。レイナ様はどちらかと言うときびきびとした感じで、女性騎士の印象に近いですからね。リノン様は女性文官のような印象でしょうか。


 レイナ様の妹という事なら自分の事も姉のように接してくれると嬉しい、と仰ってくださいました。“お姉様”と呼ぶのはレイナ様だけと心に決めていますが、とても嬉しかったです。


 お二人の寄り添う姿は、本当にお互いの事を信頼し合っているのだなと分かる、とても仲睦まじいご様子で、少し羨ましく思ってしまいました。きっとお二人は良い夫婦――いえ、婦婦ふうふになるのでしょうね。


「あ、そうか、女同士でもいいのなら私だって……。正妻はもちろんマイ様ですけれど、二番目のお嫁さんになら――」


 ――っ!?


 い、いったいわたしはなにをかんがえているのでしょうか!?


 …………


 夜の考え事はいけませんね。何かおかしなことを考えてしまいます。もう寝てしまいましょう。


 ……と、思ったのですが。その後暫く、アレコレと妙な妄想が頭の中をぐるぐると回ってしまい、なかなか寝付くことができないのでした。








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