表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十章 王都の新拠点>
198/399

#10-11 閑話 エミリー、王都へ行く(中編)




 ツワイトお兄様は一つ深呼吸をして落ち着いたのか、やや表情を緩めました。さっきまでは緊張感があって強張っていましたから。


「すみません、ちょっと焦っていたようです」


「いいのですよ。それで先ずは我が家の昇爵に関して説明してくれますか」


「はい。……と言っても、全てが関連している事なのです。結論から先に言えば、我々はレイナ殿に巻き込まれてしまったのです」


「「「は?」」」


 思わず身体がビクッと跳ねてしまいました。どうしてここでお姉様の名前が出てくるのでしょう?


「発端はレイナ殿のお仲間のグループが、襲撃を受けていた両殿下一行を助けて一時的に匿っていたことです」


 ツワイトお兄様の口から一連の事件が順を追って説明されました。お兄様のどこか困惑したような、頭が痛そうな表情が印象的でした。


「……つまりミクワィア家は、レイナさんに巻き込まれる形で図らずも両殿下の救出と王宮への帰還、そして暗殺未遂事件の解決に貢献したと?」


「ええ」


「それとは別件で、例のショーユという新しい調味料の開発と量産計画に携わることになった。しかもそれは神託絡みで神殿とも連携することになったと?」


「まあ、そういうことになります」


「作り話ではなく?」


「はい」


「「…………」」


 えーっと、お姉様は一体何をしてらっしゃるのでしょうか……。


 消息が分かったことも、私たちの事をちゃんと覚えていて下さったことも、とても嬉しいことではあります。ただ衝撃の方が強すぎて、嬉しいという気持ちが霞んでしまいます。


 ともかく、お母様たちは昇爵の件に関しては納得されたようです。


 公表できない事であっても功績に報いるのは王家の務めです。また予想されるショーユの開発・量産事業の規模を考えると、王家との緊密な連携が必要になります。


 それらを考慮すると、伯爵への昇爵は妥当だろうとのことでした。


「お兄様。昇爵の件は分かりましたけれど、私が王都へ行くというのは……?」


「ああ……。今後、我が家は今まで以上に王家と関わることになる。そこで双子の両殿下と一番年の近いエミリーを、早い内に顔合わせしておこうという話になったんだ」


「っ!?」


 もしかして登城して、王族の方々に謁見することになるのでしょうか?


 私の不安そうな表情を見たお兄様が、慌てて両手を振りました。顔合わせと言っても非公式なもので、面倒な手順や作法などは気にしなくてよいそうです。ちょっとだけ安心しました。


「――と言うか、ごくごく個人的なお茶会のようなものだ。さっき話した理由もあるにはあるんだけど、実はそれは単なる口実だ。殿下がエミリーに興味を持ったみたいでね」


「えっ? 私にですか?」


「まさか……、エミリーを王太子妃候補に、などという話ではないですよね?」


 お母様! そんな恐ろしいことは仰らないで下さい。言葉にするのは実現への第一歩と言いますし。


「違います! エミリーはどこへも嫁になんてやりません! 何を言ってるんですか母上!」


「その通りです! エミリーはずっと我が家に居ればいいんです!」


 バンとテーブルに手を付いて声を上げるツワイトお兄様に、アストお兄様が同意しています。ええと、次期当主のアストお兄様までそんなことを仰るのは、良くないと思うのですけれど……。


 案の定、お母様が呆れたように溜息を吐いています。


「あなたたちこそ何を言っているのですか……」


「伯爵へ昇爵するとしても、ミクワィア家は門閥貴族ではありませんからね。王太子妃には……」


「ええ、そうでしょうね。だからこそ不可解なのですけれど」


 お母様方の疑問の視線を受けたツワイトお兄様が居住まいを正し、コホンと小さく咳ばらいをします。


「この件もつまるところレイナ殿の絡みなんですが――」


 なんでもお父様が陛下との会談の際、お姉様と出会った経緯などを訊かれたそうで、その流れでお姉様が我が家に滞在中は私と一緒に居ることが多く、とても仲良くしてくださった話もしたそうです。その話が双子の両殿下の耳に入り、是非詳しく話をしたいと仰られたのだとか。


 両殿下と護衛の方がお姉様たちのところへ身を寄せていた間、今まで経験されたことの無い、刺激的な出来事の連続だったらしく、すっかり懐いて――この物言いは失礼かもしれませんが――しまわれたそうなのです。


 それで私の体験した話も聞きたくなったという事なのですね。その気持ちは分かるような気がします。私も両殿下からお話を聞きたいと思いますから。


 そういう次第で私も王都へ向かうことになりました。


 初めて会う王族の方なので緊張はしますけれど、少し楽しみでもあります。


 そして何より、お姉様に会えます!


 王都に着いたら、真っ先に訪ねたいと思います。







 お兄様と共に飛行船から王都へと降り立ちます。


 これまで何回か王都に来たことはありますが、毎回来るたびにその広さに圧倒されます。それに今回は祭りの余韻とでも言うのでしょうか? いつもよりも賑やかな印象があります。


 お兄様によると、新年のお祭りの前後は観光客が多いから普段よりも若干騒がしいとのことでした。もちろん祭りの最中はこれよりももっとだそうです。


 王都の屋敷に着いた私は居ても立ってもいられず、お姉様とお仲間の方が住んでらっしゃるお屋敷へ向かいました。


 何の連絡もすることもなく訪ねるのは良くないとシャーリーに窘められましたし、それは分かっているのですけれど、ソワソワして何も手が付かなかったのです。


 ――後になってお姉様たちは引っ越したばかりですし、来客に対応しているどころではなかったのではと深く反省しました。お姉様が快く迎えて下さって本当に良かったです。


 お姉様たちの新居は長らく放置されていたお屋敷という話ですが、そこは流石はお姉様です。まだ越して来てほんの数日だというのに、もうすっかり綺麗になってちゃんと生活できる状態になっていました。


 屋内ではずっと靴を脱いで過ごすのですね。フワフワモコモコの暖かくて柔らかい靴をお借りしました。リラックスできて快適です。我が家でも導入できないでしょうか?


 そして私とシャーリーは居間(応接間)に通されました。シャーリーと隣同士で座るのは珍しいので楽しいです。


「シャーリー、ホールにあったのってディラウの毛皮……だよね。一頭丸ごとの(ヒソヒソ)」


「ええ、本物……なのでしょうね、レイナ様の事ですから。ラグマットにしているのを見たことはありませんでしたが……(ヒソヒソ)」


 豪快な使い方ですね――と、シャーリーが妙な感心の仕方をしています。お姉様は常識では計り知れないということを再認識してしまいました。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ