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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十章 王都の新拠点>
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#10-07 洋館には必ず謎が潜んでいる(偏見です)




「ああ! そう、名前ねぇ~」


「つけてあげないの?」


 最初は成り行きで旅に付いてくるような感じだったから、どこまで一緒に居るか分からなかったからね。だから変に名前を付けて愛着が湧いたら良くないかな、って思ったんだよね。


 そう。もうここまでついて来たなら、たぶんずっと一緒に居るだろうし、皆とも上手くやっていけそうだから名前も付けたいところ。なんだけど……


「だけど? 良い名前が浮かばないの?」


「うん。っていうか、この子の芸人体質を見た時から、久利栖とコンビを組ませたら面白そうって思って……」


「俺かいな」


「他に誰が居るのよ?」「まあ、適任だね」「ですね」


 ま、私らのグループのムードメーカーは久利栖だからね。そこはエセ関西人として喜んでおきなって。


「で、久利栖とコンビを組ませるなら、もう名前はジ〇しかないって――」


「ちょい待ち!」「待った! 怜那さん、それは……」


 だよね~。そういう反応になるよね。いやでも、あのシリーズを何作かプレイした人なら、同じことを思いつくと思わない? うん、だよね。


 キョトンとしている舞依と鈴音に、ゲームに関してざっくり説明する。


「う~ん、名前そのものは良くないとも、この子に合ってないとも思わないけど……」


「その話を聞いちゃうと、ちょっとどうかと思うわねぇ。この世界って実際ゾンビがいるのよね?」


「教科書によるといるらしいね。まあ名称はゾンビじゃなくてリビングデッドだけどね」


「ゾンビっちゅう固有名称は、何やったか宗教由来のはずやからな」


「ちなみに人間や動物・魔物を乗っ取る寄生虫タイプの魔物とか、カビ……では無いけど粘菌状の群体生物的な魔物もいる。粘菌の方は場合によっては人型にも形状を変えるらしい」


「怖っ! 異世界、怖っ! リアルバ〇オハ〇ードやん!」


 へー、色んな魔物がいるんだね。アンデッドの類も含めて、ゲームみたいな閉鎖空間でいきなり遭遇したらかなり驚きそうだ。


「っちゅうか考えてみたらここのエントランス、あの(・・)洋館に似てる気がせえへん?」


 この家のエントランスホールは、外から入ると広いホールがあって正面奥に階段があり、壁に突き当たると踊り場があってそこから左右に階段が伸びる――っていう、オーソドックスな造りになっている。


 だからいわゆる“洋館”が舞台になっている物語やゲームなら、ホール部分は似てるっていうのがあってもおかしくない。っていうか、結構あると思う。


「ははっ、言われてみればそうだね。とはいえ、隅々まで掃除をしてゾンビのゾの字も見当たらなかったから、あんな事件が起きる心配はないけど」


「いやいや、分からんで? 実はどっかに隠し通路があって、謎の研究所に繋がっとるなんちゅう可能性も……」


「ああ、その話なら分かるわ。映画の方よね?」


 鈴音は実写映画化された方は見たんだ。ああ、テレビ放映されたのをね。で、犬が気持ち悪くて途中で見るのを止めた? なるほど、それで印象が薄かったんだ。


「ゲームと映画の話はともかく……。結局、この子の名前はどうしましょうか?」


「「「「「うーん……」」」」」「キュウ?」


 暢気にマンゴーをモグモグしつつ首を傾げるカーバンクルに、全員の視線が集まる。


 話の流れ的にどうしても例の名前のインパクトが強くて、他の名前がすぐには思い浮かばない。それは皆も同じだったらしく、結局それぞれ一つは案を出すようにと宿題になった。期限は明日のお昼までね。


「そういえばさっきの久利栖の話だけど、隠し通路はともかく隠し部屋ならあるよ?」


「「「「えっ!?」」」」


 誰か気付くかなーと思って黙ってたんだけど……、そっか、気付かなかったか。サプライズは成功だね!


「っちゅうか、ドコにあったん? そんなもん」


地下室ワインセラーの奥。っていうか皆、特にリーダー、ちょっと気を抜き過ぎだよ? ここは王家所有だったお忍び拠点で、当時は転移装置まで設置されてたって話なんだから。そんな重要な遺物アーティファクトを、エントランスホールやら寝室やらに剥き出しで設置するわけないでしょ?」


「……確かに、言われてみればその通りだ。いや、どうも事件が終わったからって警戒心が薄くなってたみたいだ。これは反省しないと」


 秀が首を振って溜息を吐く。まあ、ご当主さんが居たら、雷が落ちる案件かもね。


 とは言っても、本当に隠し部屋があるってだけなんだけどね。部屋の中は空っぽだったし。


「怜那、一人で入ったの?」


 うぐっ。舞依からの非難混じりの視線が痛い。


「だ、大丈夫だから。入念に探知魔法を使って、何にもない確証を持ってから入ったし、安全には気を配ってたから」


「もう……、怜那ったら……」


 ゴメンゴメン。心配してくれてありがとう。手を取ってチュッとキスをする。え? うーん、これ以上はまた部屋でね。オープン過ぎるって注意されたばっかりだからね。自重しないと。


「コホン。……それで? 隠し部屋ってくらいだから、何らかの仕掛けがあったのよね? 怜那ってパズルとかはあんまり好きじゃなかったと思うけど、よく解けたわね」


「そうそう。いわゆるパズル的な複雑な仕掛けがあったら、正直私じゃお手上げだったんだけどね」


 そもそも隠し部屋の存在が分かったのは、探知魔法を詳しく使ってたからなんだけど、そのとき扉に繋がってる仕掛けの場所も分かった。で、燭台の一つを一回転させたら土台部分が扉みたいにパカッと開くようになってて、そこに私たちの感覚だとナンバーロックに似た術式があったんだよ。


「パスワードを解析したんかいな? 怜那さん、ハッカーやなぁ」


「ううん。術式そのものを神代言語で破壊した」


「ぶふぅーーっ!」「「「…………」」」


 アッサリ答えをバラすと、久利栖が盛大に吹き出し、秀と鈴音は開いた口が塞がらないという表情をして、舞依は困ったような苦笑いになった。


 ちなみにカーバンクルは我関せずで新しいマンゴーをムシャムシャしている。――別にいいけど、また後でお腹パンパンでひっくり返るようなことになっても知らないからね? ん? それも本望って? ハイハイ。ま、今日は特別だからね。


「いやいやいや、怜那さーん。そこはこう……、攻勢防壁とかブービートラップとかを回避しつつ慎重に術式を解析して、スマートに解除するんがスパイ映画とかのお約束(セオリー)やん?」


 ウンウン×三人


「そんな面倒臭いことやらないよ。第一、他の誰かがパスワードを知ってるかもしれない術式なんて、結局後でどうにかしなきゃいけないんだから同じことでしょ?」


「そらまあ……」「確かにね」「反論できないわねぇ……」「ですね」


 でしょ? ああ、トラップに関しては魔法的なものも物理的なものも無かったよ。無かったというよりは取り除かれた後だったって感じかな。ロックの術式からリレーが伸びてたんだけど、その先に何も無かったからね。


 恐らく、転移装置とやらが設置されてた頃は、ロックが破壊されたり正しい手順で解除されなかったりしたら、転移装置ごと隠し部屋が破壊される仕掛けがあったんじゃないかな。で、転移装置を撤去した際にそっちも取り除かれたと。物件はマトモなんだし、誤動作でぶっ壊れたらもったいないもんね。








ちなみに久利栖はゴリマッチョではありません(笑)。

Ninjaを目指しているので、素早さ重視の細マッチョです。

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