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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十章 王都の新拠点>
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#10-06 劇的って程でもない、ビフォーアフター




 拠点の大掃除と改装(改造?)は、大きい部分は二日で完了した。今は使いながら気になるこまごまとした点を、都度修正しているところ。


 大きな変化は、やっぱり屋敷内を土足厳禁にしたことね。日本人の感性的に、どうも屋内で靴を履いて過ごすっていうのが気になるからね。衛生的にもどうなの? って思うしね。ちょっと手間だったけど、やって良かった。


 具体的には日本の家にあるような玄関を作った。この家はドアの前に階段が三段あってちょうど良かったから、一段分削ってドアの位置も下げて、屋内側もその高さに四畳分くらい四角く削った。


 ずいぶん広い玄関って思った? でもエントランスホールが、それはもうだだっ広いから、このくらいの広さの方が良いんだよね。むしろ狭く作ると比率的にショボい感じになる。あと下駄箱を設置するとか、カーバンクルの足拭きスペースを作るとか、広い方がいいからね。


 で、屋内を隅々まで清掃。魔法が無かったら、人を雇わないと数日がかりになる広さだったね。まあこれは玄関のリフォームにも言えることだけど。


 そんなわけで現在屋内はスリッパ――は、無かったからサンダルを履いて過ごしている。家の中で大分リラックスできるようになったね。スリッパは近い内に自作しよう。季節的にあったかいモコモコのが良いかな?


 そしてもう一つの大きな変化は、裏庭に離れの浴室を作ったこと。脱衣所も完備で、結構立派に作った。


 屋内の浴室だとあんまり広い浴槽を作れないこともあって、相談してそっちはそのまま残すことにしたんだよね。なので、屋内の方は本来の用途通り、サウナとして利用することになった。


 流石に女湯と男湯に分けて作ってはいないから、入る順番だけは気を付けないといけない。


 そんな感じで拠点自体(・・・・)はとても快適になった。で、お次は家具の方。


 屋敷の中には放置されてた家具があってそれらも纏めて譲渡されたんだけど、流石に経年劣化があって、ガタがきている物も結構あった。


 そういうのは錬金釜の出番ね。一旦トランクに放り込んで、適当な素材を追加して品質向上の錬金術を施せば……。なんという事でしょう! 新品同様に生まれ変わりました。――は、言い過ぎだけど、ちゃんと使えるレベルになる。


 ただ手持ちの素材に良質の木材が無かったんだよね。基本魔物素材だからね。――そういえばトレントとかの植物系の魔物には会わなかったな? ファンタジーでは定番だけど、この世界には居ないのかな? うーん、興味深い。


 っと、話が逸れたね。


 ま、無い袖は振れない。ではどうするか? その答えは……、家具自体を幾つか分解して素材にしたのです! 従って家具の修理はできたけど数は減ってしまった。


 それから二階の部屋には主寝室にベッドとワードローブがあるくらいで、他の部屋は空っぽだった。ココはあくまでもお忍びの拠点にしていただけで、日常生活はしていなかったってことみたいね。


 だから減った分の家具の買い足しと、個室の分を揃える必要がある。ちなみに流石にこのお屋敷で寝袋を使うのはどうかと思ったから、ベッドに関しては簡単なものを自作した。


 フレームは毎度おなじみの魔物の骨製。マットレスは無いけど、山の高ーいところで遭遇した羊と山羊を足して二で割ったような魔物のモコモコ毛を敷いて布で覆うことで代用した。このモコモコ毛、見た目はふわふわなんだけど、もの凄い弾力があるんだよね。防寒だけじゃなく防御も兼ねてるんだと思う。


 なかなかのクッション性だったからそれでいいかと思ったんだけど、弾力にムラがあって初日の寝心地は「悪くはないけど……」って感じだった。


 なので翌日に修正。錬金釜を使って、モコモコ毛を均して円筒形が敷き詰められたような形に成型した。参考にしたのはポケットコイルね。これで寝心地はかなり良くなった。マットレスはこれで十分だね。見た目に拘るならフレームだけ家具屋さんで買ってもいいかな。


 余談だけど、久利栖がベッドとは別にハンモックをリクエストしてきたから、それも合わせて作ってみた。いわゆる屋内用の、舟っぽい形のフレームにハンモックを渡すアレね。


 寝心地は結構良かった。のんびり本を読みつつそのままお昼寝(別名、寝落ち)みたいな使い方にピッタリって感じ。個人的には夜に寝るなら、ベッドの方が良いかな。


 ともあれ。これで家具も含めて生活に不自由ないレベルに整った。家の広さに対して物が少なくてちょっとガランとした印象だけど、それはおいおいね。




「日差しが気持ちええなぁ~……」


「小春日和だねぇ……。とは言え、気温は低いはずなんだけど……」


「日本だったら、この季節に外でティータイムは無理よねぇ……」


「ま~、キャンプで焚火を囲んで~とかじゃないとね~……。んっ、スコーンが絶品だよ、舞依~……」


「ありがとう。ピロールのジャムも結構上手くできたかも……」


「キュウ?」


「あなたも食べてみる? 止めておく? ふふっ、分かったわ。ピロールをもう一つねー……」


「キュッ!」


 なんだか妙に気の抜けた会話をしてるなー、なんて思った? その通り! 私たちは現在、完全に気が抜けているのです。


 なんていうの、燃え尽き症候群? いや、そこまでじゃないけど、大きなイベントとかが終わった後とか、受験やテストを乗り越えた後とか、モチベーションが空っぽになってただただぼんやりだらだら過ごすタイミングってあるでしょ? そんな感じ。


 思い返せばここまでいろいろあったからねぇ……。


 皆と合流した後で、のんびり王都観光でもできるタイミングがあれば良かったんだけど、流れるように王家に関わる事件に巻き込まれちゃったからね。

 

それが片付いた後は、拠点を引っ越して快適に生活できるように整えてと、まあ自分たちのことながら、よく動くものだなと感心するレベルだよ。


 ――で、それらがぜ~んぶ片付いたまさに今、一気に脱力してしまったと、そう訳なのです。


 家具の買い足しとか飾り付けとか、家にまだ手を加えたい部分はあるし、醤油の試作に取り掛かったり、キッチンカー計画に必要なものを揃えたりと、やるべきことはあるんだけどね~。


 まあ、今くらいはなぁ~んにも考えずにのんびりしてもいいでしょ。


 というわけで私たちは昼食後、庭に面したテラス部分にテーブルと椅子を並べて、のんびりティータイム中なのです。ポカポカと日差しが暖かいし、気温調整の結界を張ったからとても快適。


 カーバンクルも掃除の手伝いを頑張ってたからね。今日は好きなだけ食べていいよ。え? 次はマンゴーが食べたいの。ハイハイ、今出してあげるから。


「そうだ怜那、実はずっと気になってたんだけど……、その子に名前は付けてあげないの?」








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