#10-05 お引越し
新拠点に到着しました~。
うーん、一応管理はされてたってことだけど……、やっぱりちょっと荒れた印象はあるね。人が出入りしなくなって大分経つって話だし、仕方ないのかな。
これはみんなで大掃除しないとね。新年なのに――なんて。
物件の確認をして、いくつかの書類にサインをして、魔法的なセキュリティーの書き換えもして、これにて契約は無事終了。シェットさんとティーニさんもお疲れ様でした。
それではまた。ああ、これはお土産です。お昼ご飯にでもどうぞ。内緒ですけどね。
手渡したお土産にホクホク笑顔で、シェットさんとティーニさんは王城へと帰って行った。
さてさて、やることは結構あるけど、まずはお家探検をしよう! 図面だけじゃわからないことは沢山あるからね。ついでに各自の部屋も決めちゃおっか。
探検中…… 探検中……
うん、流石は王妃様がお忍びの拠点にしていただけあって、造りはしっかりしてるしデザインも上品だね。柱とか扉とか階段とか、華美ではないけどさり気なく細部が凝ってたりする。
家は二階建てで、地下に倉庫――というか、たぶんワインセラーだね――がある。部屋は主寝室を含めて六つ。それとは別に恐らく使用人の為と思しき屋根裏部屋が二つ。かなり広い食堂があって、それから居間が二つ――たぶん片方は家族が集まる居間で、もう一方は来客用の応接間なんだろうね。
キッチンも厨房って言った方が良いくらいの広さがあって、秀と舞依が楽しそうに設備の配置とかを考えてた。それからお風呂もあった。ただやっぱり基本はサウナとして使うみたい。浴槽もあったけど小さめ。広ーい湯船にゆったり浸かるなら、改造するか離れを作るしかないね。
ふむふむ、なかなか住み心地が良さそうな家じゃない。日本に居た頃なら掃除が大変そうって思うところだけど、こっちには魔法があるからね。私たちだけでも管理できる――と思う。
取り敢えず荷物の置き場の問題もあるし、部屋割りを決めちゃおうか。主寝室を除けばちょうど五部屋だから、一人一部屋でいいでしょ。
クイッ クイッ
うん、袖を引っ張る舞依がかわいい。それはさておき、なに、舞依?
「私は怜那と同じ部屋でもいい……よ?」
「ああ、うん。それは私も思ったんだけど……」
「けど?」
「こう……、夜にお互いの部屋を訪ねるのって、ちょっとドキドキすると思わない?」
「ドキドキする……、かも?」
「でしょ? 一緒の部屋も良いけど、もう暫くはそういう気分を楽しむのもいいかなって」
「ふふっ、そうかもね。ねぇ、最初は私が怜那のところに行ってもいい?」
「えーっ!? 私が行こうと思ってたんだけど――」
ピシューン フォン パキーン!
痛くは無いけど、何故かほぼ毎回私だけがシバかれることに理不尽を感じなくもない、今日この頃。いや、舞依がシバかれるところは見たくないから、別に良いんだけどさー。なんとなく釈然としないっていうか?
「鈴音~。双子ちゃんはもういないんだし、私と舞依が恋人同士なのはみんな知ってるんだから、今のはツッコまれるほどの事じゃあないと思うんですが?」
「あ、ゴメン。そうね、もう二人はいなかったわね。……って、違、い、ま、す! 私は風紀の話をしているのよ!」
「風紀って……。そんな一昔前の高校じゃああるまいし……」
「黙らっしゃい! 別に私だってマンガの風紀委員長よろしく、アレも駄目コレも駄目言うつもりはないわよ? ただあなたたち、最近その、オ、オープン過ぎなの! 付き合いたてで浮かれてるのは分かるけど、奥ゆかしさを忘れたらダメよ!」
ビシッ、と背後に効果音が見えそうなポーズで指摘されて、最近のアレコレを思い返す。
うん、ちょっとはっちゃけ過ぎだったかも?
なんていうかこう、舞依に再会して、本当の気持ちを伝えあってから、二人で話してると周りの事が気にならなくなっちゃう――みたいな?
いやでも、これは反動なんだよ。日本に居た頃は、衆目がある場では“すごく仲の良い友だち”の範囲を越えないように、細心の注意を払ってたからね。特に会話には気を付けてて、匂わせるような事さえ口にしなかった。
だから誰にも憚る必要が無くなって、ちょーっと箍が外れ気味だったのかも。
「ゴメンナサイ」「反省します」
二人揃ってペコリと頭を下げると、鈴音が苦笑混じりに一つ息を吐いた。
「よろしい。まあ、私も野暮なことを言うつもりは無いし、その、二人がお互いの部屋を訪ねることに目くじらを立てるつもりはないわ。ただ! なるべく私たちに気付かれないようにすること。いい?」
了解! 肝に銘じます。いわゆるスニーキングミッションだね。ってことは、魔力感知に慣れてる私が動いた方が良いかな。後で舞依と相談しよう。二人きりでね。
ともあれ。部屋割りはこれでよし。
なお主寝室は客間として空けておくことにした。屋敷の主の為の部屋を客間にするとはこれ如何に? まあ変な話かもだけど、私たち個人の部屋も十分すぎる広さがあるしね。
それにここに泊まりに来るのなんて双子ちゃんくらいだろうし、エイシャさんとか護衛の人と一緒に泊まれる広い部屋の方が良いからね。
お屋敷探検はこんなもんでいいかな。スタート地点のホールに帰ってきました。
「さて、探検も終わったことやし……、次は大掃除やろか? それとも改造が先やろか? やっぱ風呂に広い湯舟は必須やからな!」
久利栖の提案に全員が頷く。前の拠点も皆で改造してお風呂がちゃんとあったからね。日本人共通の拘りと言っても過言ではない、はず。
「あ、お風呂もそうなのですけれど、玄関を改造……というか、造りませんか?」
私を除く三人の顔に疑問符が浮かんでるね。
「あー……、私も気になってたんだよね。やっぱり家の中を土足でウロウロするのって気分が悪いし、ちょっと窮屈だから」
「「「あ~!」」」
という訳で、玄関と浴室は改造することは全会一致で可決。魔法と錬金術を駆使して突貫工事するから、その部分は私が担当。舞依と久利栖は大掃除担当。まずは二階から土足厳禁仕様にして行くことに。
一方、鈴音と秀は旧拠点を引き払いに行く。とは言っても、荷物の類はほぼほぼ空にしてるから、不動産屋に行って手続きをして来る程度なんだけどね。
騎獣は二匹使う? 一匹でいい? 私の騎乗が上手く無いから、むしろ二人乗りの方がスピードが出せると。ふーん、へー、そうですかー(ニヨニヨ★)。
「な、ナニよう……。も、もう、行くわよ、秀」
「了解。……じゃあサクッと済ませて来るから、こっちはよろしく」
「ごゆっくりー」「行ってらっしゃい」「任しとき!」「キュッ!」
それじゃあ私たちは私たちの仕事を始めよう。ああ、キミは舞依と久利栖のお手伝いをお願いね。風と水の魔法が得意なんだから、掃除にはもってこいでしょ?
「この広さの洋館やと、向こうやったらル〇バくんが一〇機くらい欲しいとこやな。ま、こっちでは魔法があるからええんやけど。っちゅうか、怜那さんやったら、もしかしてル〇バくん作れるん?」
「ロボット掃除機かぁ……。うーん、それっぽいものは作れるかもだけど、よほど上手く条件付けをしないと、ル〇バ並みの性能にはならないんじゃないかな。……いや、アルゴリズムで考えるんじゃなくて、ゴーレム技術を応用した方がいいかも?」
っていうか、ル〇バって“機”なの? ああ、でも自律するロボットの一種なんだし、掃除ドローンと言ってもいいんだから、それでいいのか。
「と言うか、旅に出たらずっとここを空けることになってしまうから、綺麗な状態を維持する方法を考えた方が良いんじゃないかな?」
「そういう問題もあったね……」
「せやなぁ。立派な拠点やのに、勿体無い話やな」
本当にね。状態維持の方法は何とかなりそうな気がするし、考えてみるよ。
それじゃあ仕事にかかるとしましょー!




