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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第二章 もう一つの始まり>
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#02-04 冒険者は正規雇用の夢を見るか?




「つまり……、要約すると“何でも屋さん”という事ですね?」


「いやいやいや! 舞依さん、それはちょっと……」


「ちゃうねん! そんな迷子の猫探しと汚部屋の掃除がメインの人やあらへん!」


 お二人ともなかなか鋭いツッコミですね。


 強く否定されてしまいましたが、先ほどの説明を纏めれば何でも屋になってしまうと思います。


 首を傾げる私を見て、鈴音さんがケタケタと楽しげに笑っています。


 結構長く、丁寧に、熱く、語って下さった、お二人の説明によれば。


 冒険者というのはファンタジー世界には付き物の職業らしく、魔物や害獣の駆除や、薬草や果物など自生している植物の採取、町中の掃除や人探しなど、様々な依頼を受けて生計を立てているそうです。


 そしてその依頼を管理・斡旋し、また冒険者をランク付けして管理し、秩序を保つための組織が冒険者ギルドなのだとか。


 ――やはり日雇いの何でも屋と人材派遣業者ですよね?


「日雇い……」「人材派遣……」


「冒険者が個人事業者だとすれば、両者の関係性としてはとしてはウー〇ーイーツやヤク〇トレディに近いかもしれませんけれど……」


 私が補足説明すると、秀くんは窓枠に体ごともたれかかり、起き上がっていた久利栖くんがバタンと勢いよく机に突っ伏しました。


 お二人ともどうしたのでしょうか? それほどおかしなことは言っていないつもりですけれど……


「ぷっ……くくっ……、はぁ~。舞依、そのくらいにしておいてあげて。二人とも異世界に来て、ファンタジーの定番らしい冒険者とやらになれるってテンションアゲアゲだったんでしょうから」


「私は殊更、冒険者? の方を、貶めたつもりは無いのですけれど……」


「ええ、そうね。だけどさっきの話じゃ、ランクの高い冒険者は凄い戦闘能力のある英雄みたいな存在みたいじゃない? それが箱型バッグを背負って自転車を走らせる配達員と同じ扱いされちゃったら、ちょっとお気の毒よ」


 鎧と剣で武装し、自転車に乗った英雄――と妙なイメージが湧いてきます。いけません。変に混じってしまいました。


「私としては、単に業務形態や契約についての話をしていたつもりなのですけれど……、喩えが悪かったのでしょうか? ですがそれとは別に、おかしな話だとは思いませんか?」


「え? ああ、冒険者そのものについて? まあ、ツッコミどころは満載よね」


「ツッコミどころというと……、具体的にはどのあたりが?」


「聞きたい? じゃあ疑問点を挙げていくわ。心して聴きなさい」


 鈴音さんが疑問点を列挙していきます。


 武装している自由業の人間が大勢いたら、治安の悪化が懸念される。


 冒険者ギルドは国から独立していることが多いというが、そんな独自の戦力を保有している組織を国(領主)が放置するとは思えない。


 魔物の討伐など国民(領民)の安全に関わることを、自由意思で依頼を選べる冒険者に任せるのは安定性に欠ける。


 緊急時には強制依頼があるというが、その場に居なければ意味がない。危険を察知した時点で、身の安全の為に逃げる者も相当数いるはず。


「ファンタジー世界って言えば聞こえはいいけど、要するに中世くらいの社会でしょ? 社会保障制度なんて無い、働かざる者食うべからずの社会で、そもそも自由業なんてやってられないわ」


「そうですよね。こういう社会では恐らく大抵の場合、子は親の仕事を継ぐと思います。農家の子は農家に。職人の子は職人にという風に。まったく違う職種に就くのは、かなり難しいと思いますけれど……」


「せやから、そういう場合に冒険者っちゅう選択肢が……」


「だーかーらー。なんでそこで自由業なのよ? 腕っぷしに自信があるなら軍に入りなさい! いわば公務員よ。安定した職業でしょ」


「いや、だけどほら、冒険者っていうのは自由を愛する気概があって……」


「自由? フッ……。そんな物に価値はない!」


 鈴音さんは鼻で笑うとカッと目を見開いて断言しました。秀くんと久利栖くんは、何かとても恐ろしい怪物を見てしまったかのように慄いています。


 極端な表現だとは思いますが、基本的には私も鈴音さんと同意見です。


 自由には責任が必ず伴います。現代社会で自由と割と簡単に口にできてしまうのは、世の中が安定していて多少の失敗ならばリカバリーできる仕組みが整っているからです。


 ファンタジー世界で冒険者などという危険と隣り合わせの自由を選択してしまえば、失敗した時の責任は全て自分で負うことになります。リカバリーは容易なことではないでしょうね。


「あなたたちの言うような冒険者とギルドがあったとして、冒険者になったとするでしょ? 最初は低ランクからスタートだから、安い依頼に奔走するのよね?」


「まあ薬草採取から始めるっちゅうんがお約束やな」


「当然、実入りは少ないのよね? 仮に簡単で実入りの多い依頼があったとしても、そんな美味しいものは先輩とか上位ランクとかが持ってくでしょうし。だから時間をかけて数をこなさないと食っていけないわけ。ここまでは合ってる?」


「序盤の苦労譚もテンプレと言えばそうだけど……」


「時間が無いから武器とか魔法とかの訓練も出来ない。そんな状態でランクが上がって魔物の駆除依頼を受けたとしても、危険だし成功率も低くなる」


「いや、駆除って……。鈴音さん、そこは普通討伐ゆうて――」


「どうでもいいわよ、そんなこと。ちょっと怪我をするか、武器が壊れでもするだけで簡単に積むわよ、そんな危険な自転車操業なんて」


「えーっと、先輩冒険者のパーティーに入れて貰って、指導を仰ぐっていうのもあるはずだけど……」


「それで良い人に巡り会えればいいけどね。なんにしてもそれって下働き込みの話でしょ? 自由はどこに行ったのよ?」


「んっ……」「い、痛いところを……」


 ――そろそろちょっとお二人が可哀想になってきましたね。鈴音さんを止めた方が良いのかもしれません。


「ま、そういう諸々を考えていくと、冒険者とギルドっていうのが成立するとは思えないのよ。そもそも大抵の人が定職に就く世の中だと、ギルドに依頼なんて出すかしら? 自前の人材でやっちゃうんじゃない?」


「……例えば、危険が伴う重労働などで、自前の人材を消耗させたくない場合、などでしょうか?」


 あ……、止める前につい話に乗ってしまいました。


「ああ、そういう場合はあるかもね。んー、でもこういう世界だったら、犯罪者に強制労働させるんじゃない? 犯罪者の人権がどうこう言う人なんていないでしょうし」


「……もしかすると、セイフティーネットとしてなら冒険者ギルドが成立するかもしれませんね」


「え?」


 刑期を終えた犯罪者や、何らかの事情で職を失った人、孤児。そういった新しく職を見つけるのが難しい人たちに仕事を斡旋し、同時にある程度管理するための組織としての冒険者ギルドを国(領主)が運営するというのならば成立するのではないでしょうか?


 寮のような場所を用意して、ギルドに登録すると同時にそこに住めるようにすれば、職に就けない人がホームレスとして街に増えてしまう事も防げます。


 そこで実績を積めばギルドから正式な職場に紹介すればいいですし、何か問題を起こした場合は国営ですから捕まえたり街から追放したりという強い措置が取れます。


 なかなかいい案なのではないでしょうか。


「……そうね、そういう組織も必要よね。っていうかハローワークに近いものだし、もしかしたらあるのかもしれないわね。職探しをしてた私たちの耳には入らなかっただけで」


「確かに、そういうところを紹介されても困りますね」








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