#09-27 立太子に向けて
先王陛下の説明で、第二・第三王女殿下が未だ即位してない理由は分かった。王族としてこの状況はどうなのよ? と内心でツッコミを入れたのは、きっと私だけじゃあない。
ま、考えようによればこの状況は、立太子に都合が良いとも言える。誰をって? それはもちろんアンリちゃんを、ですよ。
「どういう意味だね? 何故アンリを王太子に……」
どうして末っ子のアンリちゃんをって思うよね。その理由は――我々からではなく、第三側妃様がお話になるべきでしょうね。
私たちの視線を受けた第三側妃様は一度目を伏せて深く息を吸って吐いた。そして再び目を開けた時には、何かを決意した表情になっていた。
そうして第三側妃様の口から、アンリちゃんが男の子であることを隠して育てていたことが語られた。
驚いたことに、肌身離さず身に付けていたピアスが魔道具になっていて、亡くなった国王の動画メッセージが記録されていた。それによって彼女の独断ではなく、国王の判断であったことも証明された。
ちなみに手紙でも残してあって、私室に厳重に保管しているとのこと。なかなか慎重だね。寵愛が深かったって言うのも納得だ。
この後の王位継承に関するアレコレについては、さすがに私らが聞くようなことでもない――っていうか、聞いちゃダメな奴だよね。どうしよう?
というわけで、双子ちゃんたちも含めた子供組で親睦会的なものを開くことになった。時間的にそのままお昼ご飯――昼餐っていうべきなのかな?――になりそう。
…………
「皆は先に行ってて。ああ秀は残って」
「怜那?」
「ちょっと捕虜の引き渡しとかゴチャゴチャッとした話があるだけだから、心配しないで」
「心配はして無いけど……」
私の瞳を覗き込むと、舞依はほんの小さな溜息を吐いた。
「あんまり無理はしないでね?」
「うん、ありがと。すぐに合流するから」
すっと髪に手を入れて、わざと耳を擽るように触れてから背中の方に流す。そして露わになった柔らかな頬にチュッと唇を落とした。
「うん、待ってるね」
皆がエイシャさんに案内される形で退室するのを見送る。っていうか、カーバンクルが第一王女殿下に抱っこされているのは何故だろう? 気に入ったのかな?
おー、早速久利栖はアプローチしてるね。第三王女殿下の方もまんざらでもない感じ。――でも王女様相手って身分的にどうにもならないような? いや、でもあんまり表舞台に出られない王女様だからワンチャンある――か?
私たちのクランがどういう立ち位置になっていくかにかかってるかな。後で要相談の案件だね。
さてと、それじゃあキナ臭い話をしましょうか。
「えっと先ずは……、ドゥカーさん。実はドゥカーさんたちが王都で襲撃された場所を確認しに来た部隊と遭遇していまして、その際にリーダーらしき男を捕虜にしているんです。まあ、使い捨ての駒のようなので、大した情報は持っていませんでしたが、引き取って頂けますか?」
「それはもちろん引き取ろう。大した情報はないとは言っても、使いようはあるからな。後ほど場所を変えて出してくれ」
「む? 出す……とは、どういうことだ?」
「陛下。恐らく我々と同様、レイナ殿の魔法鞄に捕虜が入っているのでしょう」
「では、お前たちは捕虜と一緒に入っていたというのか?」
「いえ、そうではないのです。……私もよく分かっていないのですが、内部で空間が分割されているのでしょう。持ち主であるレイナ殿は、中に入っていても収納されている物を取り出すことができるようでした」
「うーむ……、それでは遺物クラスのアイテムではないか」
王族の方々に加えて会頭さんと執事さんの視線がトランクに集中する。
「……あげませんよ?」
「「「っ!!」」」
いや、そこで目を泳がせないでくださいよ(笑)。
「念のため言っておきますが、これは私以外には使えません。それに例えば盗まれたとしても――」
トランクを軽く押して、会頭さんの方へゴロゴローっと滑らせる。そして止まった瞬間に手元に呼び寄せた。
「と、こんな風にいつでも取り返せますので」
余計なことは考えないようにね、という意味を込めてニッコリ笑って圧を掛けておく。
ゴクリ……
ん? 嫌だなぁ~。ちょっと忠告しただけじゃあないですか。そんなドアを開けたらいきなりドラゴンに出くわしたみたいな表情しなくても、ねえ?
「怜那さん、それで本題は?」
「ああ、そうそう。捕虜の話はほんのオマケなんです。王都近郊の……、西の外周市の外側当たりの地図はありませんか?」
そう頼むと、ドゥカーさんが直ぐに手配してくれた。
テーブルに広げられた地図を見て、秀と一緒に位置関係なんかを確認しつつ、私たちの潜ったダンジョンの位置を特定する。
「この(地図を示して)……辺りに、未発見のダンジョンがあります。ダンジョンの難易度はわりと簡単な印象ですね」
「ああ……、いや、一層から四層までの詳しい魔物の強さなどは、後ほどエイシャさんから聞いてください。私たちから聞くよりも、恐らく正確でしょう」
そっか。私たちの場合、個々人の能力だ高いだけじゃなくて神様謹製の武器があるからね。確かに秀が補足してくれたようにエイシャさんから聞いた方が正確だね。
※お知らせです。
体調不良につき、暫くの間更新を停止します。
ただの風邪なので、4~5日程度で復活できるかと。




