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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第二章 もう一つの始まり>
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#02-03 異世界でのお仕事は?




 こちらの世界へ来てから一週間が経過しました。


 四人で情報収集と意見を出し合った結果、私たちは今のところ猟師(狩人)のようなことをして生活しています。


 そろそろ一日のサイクルが決まってきました。


 朝起きると女将さんの朝食を頂き、街の外へ出て小一時間ほど歩いて森へ向かい、魔物の狩りや、果物や野草・薬草・香草などの採取を行います。昼食を挟んでから、再び狩りと採取を行い、日が暮れる前に街へ戻ります。


 狩った魔物は解体して、骨や皮は商業区で売ってしまいます。お肉は一部を女将さんへの貢ぎ物にして、残りは私たちで消費します。


 寝るまでの余った時間は、武器の扱い方の訓練や、購入した魔法教本で魔法の練習、魔物のお肉を使った料理の研究――宿の二階にある簡易的な厨房で――などを行います。


 こちらへ来た三日目くらいから、そんな風に過ごしています。


 ちなみに初日は部屋で話し合った後、魔法の練習と神様から頂いた道具類の使い方に慣れることに時間を割いて終わりました。二日目には情報収集をして今後の方針を決め、足りない道具や装備の購入をしてから、実際に魔物を相手に戦闘の訓練をしました。


 ――と、言葉にしてしまうとあっさりしていますけれど、正直に言えば苦労の連続でした。


 まず狩りというのが、現代の高校生である私たちには未知のものです。私はグループの中では一番後ろの立ち位置なので、直接魔物と接触する機会は少ないのですけれど、それでも命を奪うという行為をとても重く感じます。


 日本に居た時も毎日お肉などを頂いていたわけで、それらが命を奪ったものであると頭では理解しています。理解してはいるのですが……。難しいですね。


 とはいえ生活が懸かっているのも事実なので、少しずつ割り切っていかなければならないと思っています。


 全員が経験しておくべきという意見が一致したので、私も魔法と武器で魔物を数回斃しています。最初の時は、終わった瞬間膝をついてしまうほど精神的に疲れてしまい、少し泣いてしまいました。


 ――こんな時こそ怜那に傍にいて欲しかったのに。少しだけ神様に恨み節を言いたくなってしまいました。


 辛いと言えば、その後の解体もです。知識も経験もゼロですが、今後の事を考えると必須の技能となります。


 告白しますが、最初は酷いものでした。手順が分からずに魔物の惨殺現場のようになってしまい、内臓も傷つけたせいか酷い臭いもして、四人とも胃が空っぽになる目に遭いました。


 結局、自己流での習得は諦めて女将さんに相談したところ、女将さん自身が教えて下さることになりました。お代は練習に使った魔物のお肉を一部くれればいいという事でしたので、二つ返事でお願いしました。


 そうやっている内に、瞬く間に一週間の時間が過ぎていました。


 ちなみに現時点で私たちのグループには、このまま猟師として生計を立てて行けるくらいの収入が既にあります。魔物のお肉や皮も良く売れるのですが、骨・爪・牙などの魔法発動体――クリスタルのような部位で、これがあるのが魔物に共通した外見的特徴です――がとても高く買い取ってもらえるのです。


 骨などは武器・防具の素材として、また錬金術を発動させる際の触媒にもなるということで、販売先はいくらでもあり値崩れすることもないようなのです。


 魔法発動体はさらに高額で、こちらは杖や指輪などの人間が使用する魔法発動体に欠かせない素材なのだそうです。


 ちなみに骨が引っ張りだこなのは、それが魔物の骨だからという事でした。動物(家畜)の骨は基本的にゴミのようです。――出汁を取ったりはしないのでしょうか?


 ところで私たちがなぜ猟師のようなことをしているかというと、話は二日目に遡ります。







 初日の午後と、今日の午前中で情報収集をした私たちは、モッタームの飯屋にお借りしている部屋に戻って来ていました。


 私と鈴音さんはそれぞれが使用しているベッドに座り、秀くんと久利栖くんは窓際の椅子に座っています。


 ――のですけれど、秀くんたちの様子がおかしいですね。秀くんは窓枠に肘をついて額に手を当て、久利栖くんは机に突っ伏しています。


 鈴音さんと顔を見合わせていると、秀くんが溜息を吐きました。


「はぁ~。まさか冒険者ギルドが無いなんて……。いや、そもそも冒険者っていうものが存在しないとはね……。完全に予想外だ」


「……異世界転移とか転生っちゅうたら、冒険者になるんがセオリーやん、常識やん。こんなん異世界ちゃう。責任者、はよ出てこんかーい……」


 久利栖くんがやさぐれていますね。この場合の責任者というと、この世界を作った神様になるのでしょうか?


 さておき、お二人の考えていた職業の当ては外れてしまったようです。鈴音さんの悪い予感が的中してしまった形です。


 それにしても冒険()とはなんなのでしょうか? 聞きなれない言葉です。


 冒険家という方がいるのは私も知っています。太平洋を足漕ぎボートで横断したり、エベレストを登頂してスキーで下山したりする方の事ですよね。


 個人的な心証を言えば、冒険家というものを職業と呼ぶのには若干の抵抗を感じます。なんというか、無茶をして世間を騒がせることに意味があるのだろうか、という疑問が拭えません。


 スポンサーが付いて広告塔としての役割もあるのでしょうから、れっきとした職業なのだろうと理解はしています。なんとなく感情的に納得いかない、という感じですね。


 ――実は大分前にニュースショーの特集で見て、もしかしたら怜那は大人になったらこういったことを始めるのではないかと、危惧を抱いたことがあります。その時は全力で止めようと密かに決意していました。


 もっとも怜那はああ見えて家族や友達を徒に不安にさせるようなことはしないので、それは杞憂なのですけれど。


 閑話休題。


 恐らくお二人が口にしている冒険者というのは、私の知る――というか地球における冒険家と呼ばれる存在とは別物なのでしょう。


 ギルドというのは、確か同業者組合のような組織だったと記憶しています。つまり冒険者とは何らかの職業でそれを統括する組織もあるはずだと、お二人は確信していた――ということでしょうか?


「ちょっと二人とも、ちゃんと説明して。冒険者ってナニ? 冒険家じゃないのよね? 一体どういう予定だったの?」


「あ~……、ゲームとかあんまやらん人はそこからなんかぁ」


「うん、まあ、そうみたいだね。えーっと――」








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