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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第九章 王家にまつわるエトセトラ>
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#09-24 王族との対面。か~ら~の……




「なっ!?」


 と、声を出したのは誰だったのか? それは分からないけど、ロイヤルファミリーの方々は全員驚いた様子だ。皆さん揃って目を円くしている。


 もっとも流石に先王陛下と正妃様は取り繕うのが上手いね。三人の側妃様も割と直ぐに立て直した。王女様トリオはまだ修行ちゅ――


「あっ」


 と、声を出したのは私です。


 たぶん立ち位置的に第三王女様だと思う。艶のある暗灰色というか、暗めの銀髪って言った方が近いかな? そんな髪色の、清楚で大人しめな雰囲気の、私たちと同じか少し年下くらいの美少女だ。


 そんな彼女に、なぜかさっきまでは無かったはずのケモ耳がピンと立ってるんだよね。フサフサの犬――というよりは、狼の耳が。スカートが後ろの方に不自然に膨らんでるから、もしかすると尻尾も生えてるのかもしれない。


 で、何で思わず声が出たのかっていうと、暗灰色の狼獣人の美少女って確か久利栖のイチ推しキャラクターだったから。私もちょっと見たことがあるけど、雰囲気なんかもかな~り似てる――ような?


 さて、久利栖はどんな反応をするのかな、と。


 お? 背筋をピンと伸ばして貴公子然とした雰囲気で、さり気なくかつ素早く歩き始めた。久利栖もマナー教育はしっかり受けてるから、やろうと思えばこれくらいの芸当は容易い。


 行き先はもちろんケモ耳王女様。所作が余りにも自然過ぎた上、驚きが治まって次の感情に切り替わるちょうどそのタイミングだったから、誰も反応できていない。王族の面々の注目が双子ちゃんに集中してたっていうのもあるだろう。


 ある意味、久利栖にとっては奇跡的な条件が揃って、王女様の元へと何の障害も無く辿り着いてしまった。


 そして流れるように跪いて彼女の手を取ると、普段のおちゃらけた雰囲気など欠片も見せずに、キリッとしたキメ顔で――


「私と、結婚して下さい」


 と、のたまった!


「は……、はい……ぃ?」




 いや、もうそれからは阿鼻叫喚――だとちょっとニュアンスが違うかな? ともかく、何をどういう順番で驚いたらいいのか分からないって感じの、大変な大騒ぎになった。


 双子ちゃんがお母さん(第三側妃)に抱き着いてわんわん泣き出し、お母さんとお爺ちゃんも涙ぐむ一方で、王女様たちは唐突なプロポーズにきゃあきゃあ騒ぎ出す。普段は雰囲気でそう見えないだけで、久利栖も容姿は整ってるからね。で、間に挟まれたお妃様たちはどっちに反応したものか困惑する。


 私? 私はもうずっと、お腹を抱えて笑ってたよ! いや、ちゃんと場を弁えて声を出さないようにね。腹筋がキツイったら無いよ。


 いやだって「はい」って! 「はい」って言っちゃあ駄目でしょう。


 まあその後で語尾が上がってたし首も傾げてたから、訊き返したっていうのは分かるよ。でも最初は普通に返事をしてたし、そこを切り取られて言質を取られることだってあるんだから。実際、ほら――


「“はい”って! “はい”って言うたやんな? よっしゃーっ!」


 すっかりいつもの調子に戻った久利栖がガッツポーズをしてるじゃない。


「えっ、いえ、あの、そういう意味の“はい”ではなくてですね。突然その、プ、プロポーズをされたのはどうしてなのか訊ねようと……」


「突然やあらへん。これは……、運命なんや(キリッ☆)」


「うん……めい……?(ぽっ)」


 いや、そこで“ぽっ”もチョロ過ぎませんかね、王女様? ちょっと、他の王女様方も黄色い声を上げるんじゃなくて、妹さんを止めないと。


 もー、ダメだ。笑いが止まらない。一旦トランクに入って大声で笑い転げてこようかな?


 と、流石にこのままはイカンと思ったのか、秀と鈴音が動いた。


「すみません、うちのアホ! が」「ちょっと失礼します。一旦回収しますね」


 秀が久利栖を羽交い絞めにして、ズリズリと引き摺ってこちらに運んで来た。


 取り敢えずこっちサイドの騒ぎは収まった。久利栖の視線は相変わらずケモ耳王女様に釘付けだし、王女様は王女様で両頬に手を当てて照れているご様子。うん、可愛い――けど、やっぱチョロい。


 舞依たちが大きく溜息を吐いた。ドゥカーさんとエイシャさんも私たちサイドなのか、同じく溜息を吐いている。


「まさか本当に、久利栖を羽交い絞めにして止めるハメになるとはね……」


「もっとぶっとい釘を何本も刺しておくべきだったわね……。なんなら物理的に」


「クリス殿は一体どうしたというのだ? その、唐突に結婚を申し込むなど……」


「まあ一言で言えば、第三王女様の容姿が久利栖の理想のタイプそのまんまだった、というところですね」


「そんなもんやあらへん! 彼女はきっとレティたんの生まれ変わりなんや!」


「クリス殿。いくら何でもレティーシア殿下の事をそのような愛称で呼ぶのは……」


「なんやてっ! 名前までそっくりとか、これはやっぱり運命としか思えんわな!」


 あっはっは。いや、もう久利栖の暴走が留まることを知らないね。もうどうやったらこの状況を収拾できるんだか。もっと静かな再会になるかと思えば、こんな愉快な事態になるとはね。


「楽しそうね、怜那。ところで……、さっき“あっ”って声を出したよね?」


 あー、可笑しい。――なに、舞依? そうだけど、それがどうかしたの?


「そう。……それなら、どうして久利栖くんを止めなかったの?」


 そりゃあもちろん、何をしでかすのか面白そうだったから――あ。


「怜那」


 マ、マズい。舞依が静かに怒ってらっしゃる!








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