#09-17 この事件の全貌は?(前編)
「殿下……、よくぞご無事で」
王家ともパイプを持つ御用商人であり、ロックケイヴ子爵との関わりも深い会頭さんは、双子ちゃんが現在安否不明である情報を知っていたらしい。双子ちゃんも「ミクワィアの小父様」なんて言ってたし、個人的にも面識があったんだろう。心の底から安堵しているのがよく分かる。
さて、王家に関わる深~い話をするようなら、私たちはココで退散しますけど? ここまで関わったのなら全てを聞いて欲しいと。そういう事なら同席させてもらいましょう。――え? 断らないよ? 正直、興味はあるからね。単なる興味本位というか、ぶっちゃけ野次馬根性です。
で、ドゥカーさんの話にところどころ会頭さんが補足を挟む感じで聴いた話によると。
事の発端は一昨年国王陛下――つまり双子ちゃんの父親ね――が急逝したこと。なお死因は病死で不審な点は無し。
王様には正妃と三人の側妃、四人の奥さんが居た。ちなみに秀と私を除く三人は「多くね?」と思ったみたいね。私? 私はそのくらいなら普通かなーと。
最高権力者が世襲で決まる以上、世継ぎは必須で出来ればスペアも欲しい。他にも貴族の勢力・派閥争いやら何やらのバランスを考えると、四人程度ならむしろ普通? どこぞの大奥みたいに国庫を食いつぶすレベルになったらダメだけどね。
さておき、それぞれの妃との間に生まれた子たちは(表向き)女の子ばかり。双子ちゃんは末っ子で、母親の序列も身分も一番低い。
長女は隣国――母親、つまり正妃がその国の王女様らしい――の王太子に嫁ぐことが決定済み。双子ちゃんは序列的にも後ろ盾的にも、次女と三女よりも一段落ちる。なので、次女と三女のいずれかが女王になるのだと思われていたが――今のところ玉座は空のまま。
ちなみに政治は存命の――というかまだまだ矍鑠としているとか――先代の国王が仮の王として行っているから、一般市民的には特に問題は起きてない。むしろゴシップのネタにしているくらいだ。
ここまでが前提ね。ちょっと言い方は悪いけど舞台背景と言い換えてもいい。
さて、次女と三女が未だ王位についていないのは、余計なことを言い出した人が居たからだ。曰く、女王の治世は歴史的に見てどれも短命に終わっている。王位継承権を持つ男子が居るのだから、その者に継がせるべきだ、と。
言い出したのはその男子の父ってのは、まあ誰でも分かるよね。公爵家の当主で、王族の血を引いてることもあって、無視できない発言力があるんだとか。
なお、その男子の祖父は先代国王の兄で、既に亡くなっている。側妃の子であったため王位につけなかったことを、随分恨んでいたという専らの噂。その話が子へ、子から孫へってことなのかな?
「――この国の制度では、男系男子は王位継承順位が高くなるのでしょうか?」
「いや、基本的には正妃の子が継ぐことになっている。例えば正妃との間に子が二人、側妃との間に一人いるとすれば、生まれた順番に関わらず、側妃の子は三位となる。男女は継承順位に関係しない……と、なってはいるのだが」
女王の治世は難しい。さっきも言ったけど、世継ぎを作るのは義務だけど、女王の場合は妊娠・出産でどうしても政治的空白ができてしまう。その間王配が代行することになるわけだけど、外戚がしゃしゃり出てきたりすると面倒だ。
そんなわけで正妃に男子が生まれると、その上に女子が居た場合は大抵、降嫁ないし他国の王族へ嫁ぐことが決まるんだってさ。男女平等? 権力を世襲する専制国家の王族にそんなこと言ってもね。
その辺の事情はさておき、制度上は女王でもオッケーなら第二・第三王女のどっちかがさっさと王位に着けばいいのでは。継承権的にも問題無いんでしょ?
「それはそうなのだが……、両殿下は余り政に興味が無いご様子でな……」
それって王族としてかなりダメダメなのでは? いや、口には出さないよ? 流石にこの面子でストレートな王族批判はね。なぜなら私は空気が読める子(強調)。
とはいえ、私たちの言いたいことというか、若干ジトッとした視線を感じたのか、ドゥカーさんは慌ててフォローした。
「両殿下は政に関してはともかく、それぞれに実績がおありなのだ」
なんでも第二王女は王族を始めとする要人警護の観点から、王宮の騎士団の一部を再編し、成果を上げているのだとか。第二王女は滅多に表舞台に姿を現さないものの、古い文献の解読をし、魔法と魔道具の基礎研究を数年で躍進させたそうだ。
「王女殿下が騎士団の再編……ですか。変わったところに目を付けましたね」
「うむ、我々には抜け落ちていた。女性目線かもしれん」
この世界の軍や騎士団は男女混成が普通だ。理由はご存知、個人の強さは魔力の多寡に大きく左右されるから。マッチョな大男を細身の女性がパワーで圧倒するようなこともザラにある。故に実力主義の軍や騎士団ほど、性別は重要視されなくなる。
当然、王族や要人の護衛も男女混成になっちゃうんだけど、そうすると男子(又は女子)禁制の――というか、異性に見聞きされるのはよろしくない状況での警護に不具合が生じてしまう。
これまでは人員の配置を変更するなど都度対応していたのを、第二王女の主導で男性のみ女性のみの特別な要人警護専門の部隊を編成したとのこと。
「それ以来、男性の警護は紅薔薇騎士隊が、女性の警護は白百合騎士隊が対応することになったのだ」
――ちょっと待った。




