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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第九章 王家にまつわるエトセトラ>
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#09-15 脱出




「なんちゅうか、夜遊びに出る子供を見送ったみたいで、ビミョ~に居心地悪いわな」


「まあ絵面はそんな感じだったけど、怜那さんだからね。心配は無用さ」


「みなさんは怜那様のことをとても信頼されているのですね」


「いやー、エイシャさん。これは信頼とか信用とかそういうキレイなもんとちゃうんよ」


「どっちかというと、諦めとか開き直り? いっそ悟りと言い換えてもいいかもね。だからほら、鈴音と舞依さんなんて……」


「はい?」


「ねえ舞依、あれの制限時間ってどのくらいなのかしら? フリフリのワンピースとか着せたくない?」


「はい。ヌイグルミは……無いですけど、カーバンクルさんを抱っこさせて……」


「いいわね! 沢山写真撮ろう! あとは……、お風呂でシャンプーとか?」


「それは私の役目です! 怜那ちゃーん、流すから目はちゃんと閉じててね~……なんて?」


「キャーッ! 楽しそう! 私にもやらせてよ~?」


「ふふっ、ちょっとだけですよ?」


「――あんな感じですから」「業の深い会話やなぁ~」


「…………」




 ブルルッ!


 な、なに? なんか凄い悪寒を感じたんだけど!?


 殺気とか視線とかを感じたわけじゃあない。そういう生命の危機では無いんだけど、何か別の意味でもっと恐ろしい目に遭う予感というか。――何かこう、大事なプライド的な何かを失う気がするような、そんな感じ?


 うーん、こういう感覚は大事にしたいんだけど、今は作戦中だからなー。意識の脇に寄せておこう。幸か不幸か作戦の相手から感じるものじゃあないしね。


 ――っていうか、この程度の連中で私をどうにかしようとか、私も舐められたものだね、フッ。なんて、ニヒルな笑みを浮かべてみたりして。え? 敵は私の事を認識してないって? チッチッチ、それも含めて舐めてるって話なのだよ!


 ま、それはほんのジョーク。実際、偵察部隊はそれなりに優秀と言っていいと思う。屋根の上を移動していたり、陰に身を潜めて移動していたり、或いは一般市民を装っていたりする。


 気配や視線に聡い人や私みたいに探知魔法を使えないと、察知するのは難しいかもね。


 ただ今回は、敢えて見つからないといけない。と同時に、こっちは気付いていないと思わせないといけない。


 そんなわけで、さり気なく演技中なのです。路地裏を下手くそに隠れて移動しつつ、時に周囲をキョロキョロ見渡し、時に後ろを心配そうに振り返り、小走りで移動していく。


 ――お? よしよし、一人釣れたね。そして何か連絡手段を持っていたのか、散っていた他の組も寄ってきた。オッケー、そのまま付いて来て。


 簡単に釣れたのには、実は仕掛けがある。今着ているフード付きのマントには、認識阻害とは逆の付与を弱めに(・・・)施してあるんだよね。つまり、これを見るとなんだかちょっと気になってしまう。


 普通の人ならちょっと気になってもそのままスルーしちゃうけど、双子ちゃんを血眼になって探している偵察部隊だと話は変わる。気になって見てみたら、同じ背格好の二人の子供が、周囲を気にしながらどこかへ向かってるんだからね。


 なんにせよ、首尾よく釣れた。あとはもうちょっと引き付けて……と。


 …………


 うん、こんなものでいいかな。拠点からは大分引き離したし、私を中心に偵察部隊が集まりつつある。


 ピタリと足を止めて周囲を見回すと、偵察部隊の反応も止まった。良い反応だ。で、一番近い位置にいる奴の方に視線を向けて、サッと身を隠す。


 で、自分をトランクに収納っと。いや、ホントに反則だよね、コレ。


「ただいまー」


「!?」


 乳白色の世界から出るとバッと全員が振り返った。あはは、驚いてるねー。


 ドゥカーさんなんか愕然としてる。別に私の気配に気が付かなかったとか、そういう事じゃあないんで気にしないで下さい。私が――というより、このトランクがちょっと常識外れなんですよ。


 何ですか? 持ち主も十分常識外れだとでも言いたそうなその表情は?


 パンパンと手を叩いて仕切り直す。避難行動は迅速にね。準備は出来てる? オッケー。じゃあ双子ちゃん組からトランクにしまうよー。


「双子ちゃんらはホンマに大丈夫なんやろか?」


「ドゥカーさんとエイシャさんは問題無いだろうけど、双子の方はまだ幼いからね。少し心配だけど……」


 ああ、大丈夫だと思うよ? 私だって鬼じゃあ無いからね。四人は同じスロットに纏めたから、今頃中で会えてると思うよ。四人一緒ならね。


「口では厳しいことを言ってたのに、甘いのねぇ」


「怜那は小さい子には優しいですから」


 ちょっとその言い方は引っ掛かるなー。私は子供だけじゃなくて皆にも優しいよ。もちろん舞依は特別。


 テシテシ


 うんうん、キミもまあ身内みたいなものだからね。割と優しいでしょ? え? 扱いがぞんざい? うーん、でも久利栖に対しても似たようなもんだよ? あっはっは。怒らない怒らない。反応が二人(一人+一匹)ともそっくりだよ。


「――って、あんまりバカやってる場合じゃないんだよね? 怜那さん」


「そうだった。皆もトランクに入ってて。双子ちゃんたちとは別スロットにしておくから」


 では、順番に収納してっと。ああ、今回はキミも中に入ってて。


 そう言えば忘れてた。折を見て、皆も特殊スロットに登録しておいて貰おう。今回みたいな瞬間移動にも使えるし、想像したくはないけど万が一の場合――想像したくはないけど――例えば瀕死の重傷を負ってしまったとしても、時間を遅くして落ち着いて治癒することもできるし、最悪復元することもできるからね。


 ま、それは落ち着いてからね。今は私のすべきことをしよう。








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