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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第九章 王家にまつわるエトセトラ>
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#09-10 第二回クラン会議(前編)




 午後のお茶の時間。ダイニングに一同が会してのお話合いです。遮音結界(改良版)を張ってと。ああ、これは舞依に教わった魔法ね。魔力的に余裕がある私が使っておいた。


 ドゥカーさんの話によると。襲撃を企ててる連中は、未だ標的である双子ちゃんの事を諦めていないらしい。王都には敵に与する者も多く、このまま何の策も無く留まるのは危険な状況だ。


 双子ちゃんの親の実家がロックケイヴ子爵領であれば、味方も多く、安全が確保できるから、近い内に移動したい。その為の馬車と騎獣はコダンさんたちの側ですでに手配している。


 しかしながら敵側の戦力は、かき集めた傭兵の数などから推察するに、まだ相当数残っていると思われる。王都を出れば確実に襲撃を受けるだろう。


 一方でドゥカーさん側がすぐに動員できる護衛は、エイシャさんを含めて五名のみ。随分少ないな――という疑問は当然でそう訊ねると、どうやら敵は水面下で繋がっている者も多く、また風見鶏を決め込んでいる者もいるため、一〇〇%信用のおける者となると数が極端に少ないのだとか。アレかな、親というか家の方針となると、子は逆らえないってことかな。貴族の柵ってヤツね。


 さておき、いくら個人の強さがそこらの傭兵と比較してズバ抜けているとはいえ、数の不利は否めない事実だ。双子ちゃんを護ることが最優先である以上、馬車を包囲されるとかなりマズい。


 ――と、言う訳で。ドゥカーさんは私たち五人にロックケイヴ子爵領までの護衛を依頼してきた。報酬金額もちゃんと提示されたし、必要であれば前金もすぐに用意できる分は渡すとも。また仮に失敗したとしても、こちらの責は問わないとも確約された。


 まあ王都で舞依たちが遭遇したことと、私がコダンさんの方から聞いた話とを繋ぎ合わせると、依頼の内容は予想の範囲内だ。


 依頼の内容はさほど難しくない。というかトランクの機能を解禁するなら容易いと言ってもいい。報酬額もかなりのものだ。条件の良い依頼と言っていい。


 でも――


「申し訳ありませんが、その依頼は受けかねます」


 秀はきっぱりと断った。


 ドゥカーさんは軽く目を瞠り、双子ちゃんたちは愕然としている。ああ、鈴音と久利栖も結構驚いてるね。舞依は――ちょっと不思議には思うけど、判断には納得してるって感じかな。


「理由を訊かせてもらえないだろうか?」


「ええ。これまでは僕らが半ば自分たちから関わって……、いわばお節介を焼いてきたのですから、皆さんが何者であれ気にしていませんでした。

 しかし、依頼を受けるということであれば、話が変わります。仕事は信用が第一です。

 僕らにも明かせない事情はありますが、皆さんはそれも承知の上で依頼を持ち掛けたのでしょう。ですが、僕ら側からすると、皆さんは自身の素性については隠したままで依頼をしてきているわけです。

 仕事上のパートナーとしては、信用できません」


 ドゥカーさんとエイシャさんが渋い表情で黙り込む。


 まあ二人の気持ちはなんとなく分かる。たぶん私たちの事をお人好しでちょっと世間知らずの、良いところの坊ちゃんお嬢ちゃんだと思ってたんだろうね。悪い言い方をすれば、甘く見てた。


 双子ちゃんたちとも結構仲良くなっちゃったし、困った状況であることを説明すれば――これまた悪く言えば同情を誘えば――引き受けてくれるだろうと踏んでいたんだと思う。付け加えると、私たちの常識外れな戦力もそう考えた要因の一つだろう。


 どっこい、秀はそんなに甘くない。容易に達成できる依頼だろうが、相手の素性に気付いていようが、同情していようが、線を引くべきところはキッチリ線を引く。


 怖がっているような、寂しそうな、悲しそうな、いろんな感情が混じった表情の双子ちゃんたちと目が合った。


「レイナ……」「どうしても、無理なの?」


 涙が零れ落ちそうな目を見ると可哀想には思うんだけどね。


「アンリちゃん、ロッティちゃん。私は二人の事を可愛いと思ってるし、友達としてなら、個人としてなら信頼もしてる。だから個人的なお願い事なら、多少は無茶なことでも『しょうがないなぁ』で聞いてあげるかもしれないね」


「「それなら――」」


「でも取引や依頼となると話が変わる。信用できないなら受けられない。もし一度でも引き受けてしまえば、また同じように依頼をして来る者がいるかもしれない。それが個人としても信頼できない相手なら目も当てられないよ。だから、そこをなあなあ(・・・・)にはできないんだ」


 信頼は信用の上位互換じゃあない。別物だと私は考える。


 双子ちゃんが肩を落とし、エイシャさんが肩に手を回して慰めている。ドゥカーさんは腕を組んで考え込んでいるね。


 ぶっちゃけ、秀も心情的には手助けしたいんだとは思うんだよね。ごく短い間だけど一緒に生活して、ダンジョンにも行って、ちょっと人生相談めいたこともしたのに、ここでポイッと見捨てるのは忍びない。


 ドゥカーさんとエイシャさんはその辺りに気付いているだろう。さて、その上でどう出るのかな。








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