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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第九章 王家にまつわるエトセトラ>
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#09-07 閑話 その頃、どこかでの会話




「あの双子はまだ見つからんのかっ! 別に死体でも構わん。生きているなら居場所、死んでいるならその確証。こんな簡単なことに、どれだけ時間をかけるっ!」


「恐れながら、襲撃部隊が全滅し、その後に送り込んだ調査部隊も同じく全滅。手駒が少なくなったことに加え、慎重にならざるを得ず……」


「言い訳はもうよい! 知りたいのはあれらが生きているのかどうかだ!」


「は……。戦闘の痕跡が偽装されていたことから、生存者がいるのは確実かと。また子供の死体は今のところ確認できておりません」


「生きているという事か?」


「それが丁寧に火葬されていた上に一部は埋められていたので、確認できていないだけという可能性もあります故……。ただ、どうやらあちらに協力者がいるようです」


「……なに? 間違いないのか?」


「これも確証はありませんが恐らくは。状況的にかなり追い詰めていたはずですが、そこから生き残り、偽装を施した上で行方を晦ましております。時間的に逃げ込める場所は限られるのですが、情報の収集も遅々として進みません。いずこかに匿われていると考えるべきでしょう」


「後から送り込んだ調査部隊は、その協力者に消されたのか?」


「生存者を匿ってから現場に戻ってくるまでの時間を考慮すると、その可能性は低いかと」


「まさか偶然だとでも言うつもりか? 考えられんだろう」


「推測になりますが、もう一方の協力者ではないでしょうか?」


「もう一方? ああ、あのふざけた報告の方か! お前はあの報告を信じているのか?」


「……いえ、報告の全てを信用してはいません。しかし、協力者がいたことだけは事実でありましょう」


「まったく、巨大カーバンクルが変わった荷馬車を牽くなどと、バカげた話を鵜呑みにするなど……。はぁ……。で? その協力者どもは繋がってるのか?」


「そう考えるのが妥当でしょう。ただ、一体どこから送り込まれたのか、襲撃の情報をどこから知り得たのか、不明な点が多くあります」


「裏切者は許さんぞ?」


「その点はぬかりなく。実働部隊には直前まで情報を伝えていないので、外に漏れる心配はありません。手駒は減りましたが、部隊が全滅したのはむしろ良かったかと」


「フッ、確かに。捕虜から情報を取られる心配は無いからな。……で? 奴らの潜伏先は掴めるのだろうな?」


「数は少ないですが、情報を精査し、範囲は大分絞り込めました。数か所に偵察を向かわせています。一両日中には良いご報告ができるかと」


「そうか。予想外に時間がかかったが……、これでようやく先に進むな」







「それで隊長、これからどう動くつもりなんです?」


「基本方針は変わらずお嬢様方の安全の確保だ。やはり当初の予定通り、子爵領へ向かうべきだろう」


「確かに領地に入れば一先ずは安全でしょうが……。城に戻るって選択肢もあるのでは?」


「それも考えた。が、敵の派閥は存外大きい。いや、派閥と言えるほど強固な結束では無いな。あくまでも成功報酬(・・・・)を餌に、水面下で協力している連中だ」


「セコイ奴らですね。しかしそれだけに、誰が手を組んでるのか分かりづらいと」


「うむ。家同士の関係性からある程度色分けは出来るが、表立って派閥を形成しているわけでは無い。それ故に情報がどこから漏れるか分からん。我らが城へ戻ろうとすれば、強硬な手段を取ってくる可能性もある」


「あるっていうか、確実に取ってくるでしょうね。これまでのやり口から察するに、また捨て駒を利用しての自爆攻撃でしょうか。表向きは、統治に不満を持った軍の一部による暴挙ってとこで、どうです?」


「ありそうなだけに嫌な推測だな。が、そのような可能性が高い以上、城へ戻るのは難しい。何か連中の目を完全に欺いて、城の中央へ一足飛びに行ける手段でもあれば話は違うが……」


「そんなことができるのは、遺物アーティファクト級のアイテムでしょうね。見たことも聞いたこともありませんが」


「私もだ。故に、現実的な策としては子爵領へ逃げ込むしか手が無い」


「ですがそれも、実行面では現実的とは言えないのでは? エイシャは基本侍女ですから、護衛はたったの四人ですよ?」


「…………彼らに、依頼するしかあるまい」


「レイナ殿たちにですか!? いや、まあ戦力的には確かですが……、本気ですか」


「言いたいことは分かる。彼らはその素性について、どうにも不可解な点が多すぎるからな。だが、善良でどこかお人好しな人柄であることは間違いない。そして敵に通じていないのも確実だ」


「ですが彼女らは民間人です。騎士や軍どころか、傭兵ですらない」


「それも承知の上で、だ。……この上さらに巻き込んでしまうのは、本当に忍びないのだが、正直なところ他に当てが無い。それとも何か良い伝手があるのか? あるのならばそれでもかまわんが?」


「……無い、ですね。普段なら使える連中も、実家の派閥やら所属部署の柵やらを考えると、今回の件に関わらせるのは難しいです。不確定要素を増やしてしまいますからね」


「そういうことだ。……さて、色よい返事がもらえればよいのだがな」







「大物ですね、あの少女は。演奏も、曲も素晴らしかったし、買い物も思い切りが良い。……それにしても、お前の態度を完全にスルーしていましたね」


「その、すみませんでした。でもあれは、高級楽器に憧れた子供が冷やかしに来たようにしか見えませんよ?」


「ふむ、お前はまだまだ人間観察が甘いですね」


「はあ……。では店長はあの少女の何処で、あれほどの演奏ができると分かったんですか?」


「ハハッ。いいえ、私もあれ程の演奏ができるとは全く予想していませんでした。ただ、身に付けていたローブの素材や身に纏う雰囲気から、只者ではないのは一目で分かります。それに良い楽器を見抜く目と、ごく自然で丁寧な扱い方。ただの庶民や、並の商家の子女では有り得ないでしょう」


「あの短時間でそこまで観察するものですか……」


「ええ。今回はあちらが全く気にされなかった為に、事なきを得ましたが、場合によっては信用を失うようなことにも繋がります。精進なさい」


「……はい。先は長そうです」








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