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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第九章 王家にまつわるエトセトラ>
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#09-03 れい散歩(五歩目 王都でランチ編)




「うわっ、すっごい活気だね!」


 ワイワイ ガヤガヤ ごちゃごちゃ


 もうそんな擬音がそこかしこに飛び交ってるような印象だ。屋台街のスペース自体がめっちゃ広いから、人口密度っていう意味では年末の某商店街の中継みたいに歩くのも大変ってほどじゃないけど、行き交う人の数は絶えず多いし、店の人の呼び込みの声も威勢が良い。とにかく賑やかだ。


 どうする? どこかお勧めの屋台とかは――ああ、変化のサイクルが早いから、お勧めの屋台が今はどうなってるのか分からないのか。


 それじゃあぶらぶらしながら目ぼしいものを買っていって、どこかテーブル席か座れるところを探して食べよっか。余ったらお土産にしても良いし。


 はぐれないように手を繋いで――人が多いからもっとくっ付こっか。そう、腕を組んでね。じゃあいきましょ~。


 探索中…… 探索中……


 いやー、結構時間を使っちゃったね。使った時間終わりに買ったものはそう多くないんだけどね。


 なんというかねー、面白いというか発想が斬新というか――ゴメンナサイ、ちょっと言葉を飾りました。ぶっちゃけ気を衒うなんてレベルを軽く跳び越えた、奇抜な料理があったからね。あ、でも見た目はアレだったけど、味はマトモだったりするのかな? いや、アレは無いな。


 そんなわけで、面白がりつつかなり時間をかけて見て回ってしまった。感覚としては、美術館で現代アートの謎作品を見て回るのに近い、かも?


 見て回った範囲だと、ちゃんと美味しそうな屋台は、サンドイッチ・バーガー・ドッグ系統のパンで何かを挟んであるものが多かったかな。パンの種類や大きさ×具材でバリエーションはいくらでも増えるから、他店との差別化も図れるしね。あと歩きながらでも食べやすいっていうところも良いんだろう。


 揚げ物の方はブームが落ち着いて、しっかり調理法を研究して競争に勝ち残った店が続けてるって感じね。それだけにどれも人気店だった。


 そんな中で私が選んだのは、唐揚げでもコロッケでもフライドポテトでもなく、ドーナツや揚げパンでもないものを売ってた、新参っぽい揚げ物店。


「まさかジャンボ揚げ餃子があるとはねー。はい、舞依の分。まだ熱いから気を付けてね」


「ありがとう。……でも、これって餃子なの?」


「使われてる具材は、ひき肉とタマネギにキャベツをメインに、香辛料などなどって感じだから、だいたい餃子みたいなものじゃないかな?」


 その具材を円形の小麦粉の生地を二つ折りにして包み込んで、油で揚げてある。大きさは一般的なクレープくらい。包装もクレープみたいな感じで、片手で持って食べられる。


 飲み物は温かくて甘いジンジャーティーがあったからそれを買って来た。


「では、いただきまーす」「いただきます」


 ムシャリ ハフハフッ


 時間を止めておいたからアツアツだね。生地はサクサクに揚がってて、中には肉汁がジュワッとする餡が。うん、なかなか美味しいね。ただ――


「揚げハンバーガー?」「ふふっ、そんな感じね」


 味付けがメルヴィンチ王国ではポピュラーなソース――まろやかなウスターソースみたいな感じ――がベースみたいだから、どっちかというと洋風で、餃子っぽくは無い。もしかしたら、ハンバーガーを元に考えた揚げ物なのかもね。


「まあ、これはこれで美味しいから、いっか。ちょっと違和感はあるけど」


「うん。揚げ餃子というより、ミートパイに近いね」


 そうそう、そんな感じ。見た目は餃子っぽいけど。何せ生地を閉じてるところに、ひだがいくつかあるし。


 それにしてもこのブームの火付け役が皆だって言うんだから凄い話だよね。え? ほとんどは秀の手柄? うーん、単純にメニュー開発に関してはそうかもだけど、舞依たちの力も大きいと思うよ。うん、本当に。


 味付けとかの最終段階で、秀は皆にも相談したでしょ? 特に舞依の意見を聞かなかった? ああ、やっぱりね。その辺、ちょっと秀は自身が持てなかったんだろうね。


「どういう意味?」


「つまり、秀の料理は良くも悪くも高級志向なんだよ。繊細で絶妙なバランスの味付けだとか、ガツンとインパクトがあってなお上品さも損なわれてないとか、そういう高級店で出されるような、舌の肥えた玄人が高く評価をするような料理ね」


「それを屋台で出しちゃダメなの?」


「ダメじゃないよ。でも使ってる食材とか調味料とかの関係でどうしても原価が高くなっちゃうし、高いと買った方もやっぱりじっくり味わいたくなるでしょ? あんまり屋台向きとは言えないよね」


 舞依は舌が肥えてるし、ちゃんと正しい(・・・)料理も教わってる。その上で、これはたぶん私の影響なんだろうけど、家庭的なホッとする味付けとか、手早くちょっと大雑把でもちゃんと美味しい料理とかも作れるでしょ。


 たぶん秀は、拘りつつコストダウンを考える際に、舞依のそういう感覚を頼りにしたんだと思うよ。鈴音と久利栖は、割と庶民舌(笑)だけど料理がダメだからね。アドバイザーとしては数段落ちる。


 メニュー開発では出番が無い鈴音と久利栖も、販売の方では大活躍だったでしょ? 鈴音のテキパキとした手際の良さと、久利栖のコミュ力はバカにできないからね。メニューがどんなに良くても、お客さんを呼び込めないんじゃあブームにはならない。


「――だから、秀の力は大きいけど、やっぱり皆の力だと思うよ」


「そっか。ありがとう、怜那」


「うん。あー、でもなぁー、できれば私もその段階で参加したかったなぁー」


「ふふっ。これからは一緒でしょ?」


「そうなんだけどさ。なんていうか最初の手探り状態って、文化祭の準備段階みたいでワクワクしない?」


「うん、そうだった! 大変は大変だったけど、そういう面白さはあったかも」


「だよねー。……まあ、本当に残念なのは、その想い出を舞依と共有できなかったことなんだけど、ね?」


 私の言葉に、舞依が擽ったそうにはにかむ。うん、可愛い。









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