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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第八章 王都にまつわるエトセトラ>
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#08-31 閑話 王都、某所にて……(後編)




 チーズと二杯目のワインをマスターに頼む。


「レイナ殿も料理は出来るようでしたから、もしかしたら仲間とどこかで一旗揚げようとしてたのかもしれませんね。……ああ、そう言えばこっちはメロンをご馳走になりましたよ」


「……あの高級品をか?」


「ええ、中でもアレは一級品ですね。初めて食べましたよ。しかも野営の焚火を囲んでですよ? もう、何の笑い話なのかって」


 その上、騎獣ペットのカーバンクルにご褒美に上げてた? あの賢そうな、というか妙に人間臭いカーバンクルにか。それはなかなかシュールな光景だな。


「旅の途中で採集したって言ってましたし、嘘は感じられなかったので本当だとは思うんですが。あの常識の無さは……、もう訳が分かりません」


「そういう意味ではレイナ殿の仲間も近いものがあるな」


 こちらを完全に信用しているわけでもないのに、基本的にお人好しで親切だ。バンラント商会という肩書が偽りであることなど百も承知で、それでも敢えて触れては来ない。


 また高い料理の技術に商売の手腕もあるというのに、稼ぐことに――というか、あまり金銭に執着が無いように見える。


 ――まあ彼らの実力があれば、どんな状況でもやっていけるのだろうが。


 妙な話、我々などよりもよほど謎めいた――率直に言えば怪しい集団だ。


「……実は、少々気になることがありまして。外周市の宿に泊まる時、レイナ殿の素性を証明できなくて手間取ったんですが、レイナ殿がフロントに何か(・・)を見せたら、その後はすんなりだったんです」


「ほお? 何を見せたのかは分からなかったのか?」


「こちらからは見えないようにしていましたし、追及できるような状況でもありませんでしたからね。ただ、あの態度の急変からすると、ただの身分証ってことはないでしょう。恐らく、あの宿に関わる貴族の関係者であることを証明する物だったんじゃないかと」


 なるほど。で、どこに泊まったのだ? ふむ、南の外周市のあの宿か。確か出資者の中には――


「ミクワィア商会か」


「ええ、そうなんですよ」


「……考えてみると、レイナ殿のお仲間がやっていた南西地区の屋台街を今仕切っているのも、ミクワィア商会だったな」


 これはまさか、そういう事なのだろうか?


 ワインを一口飲み、考えを纏める。


 …………


 うーむ。一応、蓋然性の高い推論は出来るのだが……。


「何を考えてるのか、当ててみましょうか?」


「うん?」


「レイナ殿とお仲間はミクワィア子爵の手の者で、お嬢様方に近づき御守りすると同時に政敵を排除する工作員なんじゃないかと。つまり、()子爵がお嬢様のどちらかを本気で推す覚悟を決めたってことです」


「……うむ。我らが助けられた時に戦いぶりを見たが、あの者たちの強さは桁外れだ。レイナ殿に至っては、私でも実力を推し量れない」


「隊長でも、ですか」


「彼女からは底知れない何かを感じるな。畏怖……と、言い換えてもいいかもしれん」


「それほど、ですか。……ま、話を戻しましょう。ミクワィア子爵が彼女らとどこでどうやって知り合ったのかは分かりませんが、あの力があれば戦力的には申し分ないと考えても不思議じゃあない、ですよね?」


「そうだな。加えて屋台街での評判もある。地味に思えるかもしれんが、食文化の発展は国にとって大きな利となる。今や相当な盛り上がりと聞くし、一つの実績と言えるだろう」


「ですね。レイナ殿のお仲間が先行して王都で基盤を作っておく。レイナ殿は手元に残しておいて、奥の手にするつもりだったとかですかね。で、何らかの手段で我々が王都を発ったことを察知してレイナ殿を送り込んだが、襲撃の方が早かった。善後策として二手に分かれた我々を、レイナ殿とお仲間でそれぞれ手助けした。素性は明かさずに」


 ふむ、私とほぼ同じ推測を立てていたようだな。


「そう考えれば辻褄は合うな」


「ええ、辻褄は合う……んですがねぇ」


 そして、私と同様疑問を感じていたようだ。


 我らが王都を発った情報をどうやって知り得たかなど不明な点はいくつかあるが、この推論ならば現在の状況を概ね説明できる。できるのだが――


「俺にはどうにも、レイナ殿にそんな裏があるようには見えないんですよねぇ……。ってか、そんな裏があったりしたら、俺は本格的に女性不審になりそうですよ」


 ど、どうしたのだ。何か女性の恐ろしさを目の当たりにでもしたのか? それとも以前交際していた女性の裏の顔を、今になって知ってしまったのか?


 うん? レイナ殿に女の強かさを教えられて? それ以来、女性の笑顔には、裏に打算があるように思えて怖い? ふむ、な、なるほど。いや、しかし、それは考えても仕方があるまい。


 結局のところ、それが打算であろうと笑顔は笑顔なのだ。それを向けられるだけの価値が、自分にはあると思うしかないのだ。そもそも地位であろうが財産であろうが、己を構成する要素であり魅力の一つなのだから、打算かそうでないかなど区別する必要は無いのだ。


 ――お、おいコダン、纏う空気が重いぞ。なに? 私の言葉がダメ押しになった。そのようなつもりはなかったのだがな……、うーむ。


 ああ、グラスが空だな。もう一杯いこう。なに、たまには息抜きも必要だからな。気にすることはない。


「ともあれ、私も同意見だ。彼女たちは再会できたことを心から喜んでいるように見えた。あれが演技とは到底思えん。しかしそうなると……」


「この状況が全部偶然ってことになるんですが……」


 それはそれで信じられないのだがな。都合の良いことが多すぎて、何者かが筋書きを書いていたという方が、むしろ納得できるくらいだ。


「いずれにせよ、彼女らのお陰で最悪の事態は回避できた。向こうの実働部隊の幾つかも潰した。状況は悪くない」


「ですね。頭痛の種は、ありますが」


「ははっ、まったくだ」


 互いの現状は把握できた。今後の手順について詰めていくこととしよう。








次回から九章となります。双子ちゃん関連の問題が解決する――予定です。


面白い、続きが気になるなど思って頂けましたら、評価・いいね・ブックマークなどして下さると作者のモチベーションが上がります!


では引き続き、よろしくお願いします。

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