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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第八章 王都にまつわるエトセトラ>
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#08-30 閑話 王都、某所にて……(前編)




 その分厚い扉を開くと、やや薄暗い照明に照らされる、バーカウンターといくつかのテーブル席が見える。今日の客はテーブル席に一組のみか。


この場所は一見ショットバーのようであり、実際バーとしても利用できるのだが、本来の用途は別だ。


 何重ものセキュリティーの奥に存在し、会員制で身元の確かな者しか入ることができず、物理的・魔力的に完全な防音となっている。またテーブル席には特殊な付与魔法が施されており、同じテーブルに着いている者以外には決して会話が漏れない。


 つまりは密談を交わすのに最適な場所という事だ。当然、たまたまここで居合わせたとしても、決して互いに声をかけることも無ければ、外でここでの話をすることもない。


 私は――今はドゥカーと名乗っておこう。王都のバンラント商会の護衛を纏める立場にある。


 取り敢えずカウンター席に着き、馴染みのマスターと他愛ない世間話をする。


 話の合間にマスターの視線が先日貰ったマントに注がれる。やはり気になるのか。流石に目聡い。


 何しろ中級クラス以上の魔物の革製で、留め具には魔法発動体が使用されている。その上特殊な付与までされている。


 これならば総合的な防御性能なら、軍の小隊長が身に付ける防具に匹敵する。性能的に魔法防御に偏ってはいるが、十分な防御力と言えるだろう。


 これを“飾り”と言い切るとは……。その上、古着を譲るかのような気楽さで、無償で提供するなど。しかも四人分だ。


 まったく、有難いことではあるのだが。


 ああ、そうだなマスター。些か面倒な状況だ。が、頭痛の種はそれとは別件だ。


「まあ端的に言えば、常識外れの人物と知り合ってしまった(・・・・)というところだな」


「あなたがそこまで言う御仁とは。一度お目にかかってみたいものですね」


「引き合わせてみたいとも思うが……、この話はまたの機会に。連れが来たようだ」


 テーブル席を一つ使うことを断り、グラスワインを二つ頼んでおく。


「大事無いか、コダン?」「隊長こそ、ご無事で何よりです」


 テーブル席に着き、コダンにこちらの状況を説明する。


 お嬢様お二方は元気にしておられるが、護衛で残ったのは私とエイシャの二人のみ。三人の護衛が王都に入ってから殉職した。


 彼らが死んだことにコダンは動揺したようだ。長い間同僚として肩を並べていたからな。互いの実力もよく分かっているだろう。無理もない。


 襲撃犯は数こそいたものの、実力はさほどでもなかった。が、馬車の足を止められてしまい、こちらが防戦主体になったところで強力な魔物を召喚されてしまったのだ。その上、どうやら理性を失くし凶暴化させるような薬も使ったらしい。


「それじゃあ自爆じゃないですか」


 その通り。恐らく襲撃犯にも詳細は知らされていなかったのだろう。何しろ真っ先に食われたのは、召喚時に最も近くに居た襲撃犯側の人間だからな。


 薬の効果なのか近くの森から魔物の群れも現れ、その後は乱戦模様になった。辛うじて召喚された魔物と襲撃犯を始末した時には私とエイシャだけになってしまっていた。


「まったく、不甲斐ない限りだ」


「そんなことは。むしろこっちが自爆で騎獣をやられるなんて失態を犯さなきゃ、追いつけたはずですから。申し訳ないです」


 届いたグラスワインを掲げて献杯する。


 今は無理だが、いずれは必ず正式に弔おう。多少間を置くことになるかもしれないが、幸いにも鎮魂の儀は行って貰えた。彼らがアンデッドになる心配が無い点は、本当に有り難いことだな。


「しかし、その状況でよくぞご無事で。やっぱり隊長の名はダテじゃあないですね」


 コダンが敢えて軽い口調で言う。確かに今は後悔してる時ではないな。


「いや、正直我らだけなら危なかっただろう。偶然居合わせた者が加勢してくれたのだ」


「……大丈夫なんですか? タイミングが良過ぎでしょう?」


「その時はそれどころじゃなかったというのもあるが、どうやらその心配はなさそうだ。……しかしコダン。タイミングが良いというのであれば、お前たちのヒッチハイクも大概だと思うがな?」


「ぐっ!?」


 目を見開いたコダンが咽る。ハハッ、まあ、驚くだろうな。


「まさか、隊長たちを助けたのはレイナ殿なんですか?」


「いや、レイナ殿の仲間の方だな。その後すぐに合流して、彼女とも先日顔を合わせたが」


「なるほど。しかし、レイナ殿は仲間と無事合流出来たんですね。それは何よりだ」


 コダンがホッと一息つく。


 ほう。ただヒッチハイクで馬車に乗せてもらっただけという感じではないな。予想していたよりも肩入れしているらしい。


「そう言えば、レイナ殿の仲間は噂になっていたという屋台のあるじだったぞ。ハンバーガーとやらを頂いたが絶品だった。まあ上品な料理とは言い難いから、正式な晩餐で出すことは無理だが、それだけに()の者は味わえないということだから、面白い話だな」


「隊長、その話、シェットが食べに行くまで黙っておいた方が良いですよ。絶対恨まれますから」


 おお、目が本気だな。それほどか。……屋台は店仕舞いするという話は、知らせない方が良さそうだな。まあいずれ“きっちんかー”とやらを始めるそうだから、大丈夫だろうが。








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