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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第八章 王都にまつわるエトセトラ>
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#08-22 私たちだって、まだまだ子供




「――って言っても、納得できるわけが無いよね。ちゃんと全部説明するから。でもその前に聴かせて。アンリちゃん、もしかして今回の件で護衛に死者が出たのは、自分のせいだって思ってる?」


 アンリちゃんは息を飲んでくしゃりと顔を歪めると、俯いて小さな声で「うん」と言った。


 そっか、やっぱりね。


 私には聞いた話を繋ぎ合わせて状況を想像するしかないけど、アンリちゃんたちは王都を出る時点からずっと緊張しっぱなしだったに違いない。秀たちに拾われたことで、それが良い意味での興奮に上書き――すり替わった、がより正確かな――されていたんだろう。


 変な話だけど、私たち以外に誰もいないダンジョンに来たことで、張り詰めていた気が緩んだんだと思う。それで今まで顔を合わせていた人たちの姿が無いことに改めて気が付いた。――そんなところじゃないかな。


「お嬢様、それは違います。責めを負うべきは襲撃者と、彼らの背後に居る者です。お嬢様ではありません。死を悼むのは良いことですが、ご自身を責める必要はどこにも無いのです」


 そう、エイシャさんの言うことは正しい。


 勘違いしがちだけど、誰が悪いのかって言えばそれは襲撃者に決まっている。原因が十中八九お家騒動的な何かである以上、子供であるアンリちゃんとロッティちゃんが責任を感じるのは違うよね。そんな状況にしてしまった大人の責任だ。


 当事者であると同時に、巻き込まれてる被害者でもある。そんな微妙で辛い立ち位置なんだろう。


「でも、そう簡単に割り切れないよね」


 俯いたままのアンリちゃんが頷いた。


「アンリちゃん自身がもっと動けていれば、護られるだけじゃなくて戦える事ができれば。そんな風に思った?」


「うん」


「そっか……」


 場がシンと静まり返り、吹き抜ける風が草や木々の枝を揺らすさわさわとした音だけが聞こえる。


 情けない限りだけど、かけるべき言葉が見つからない。エイシャさんの理屈も分かるし、アンリちゃんがどうしてそう考えたのかも分かるから。


 人生経験に裏打ちされた、含蓄のあるアドバイスでもできればいいんだけどね。こういう時、私たちもまだまだ子供なんだなって思い知らされる。


「それでも……、ダメ、ですか?」


 う~ん……、そんな縋るようにお願いされちゃったら、ついうっかり「いいよ」って言いたくなっちゃうけど。


 エイシャさんからは視線でプレッシャーが飛んで来てるし、ロッティちゃんは不安そうにキョトキョトしてる。


 …………


 仕方ない。あえて感情的な部分は無視して、あくまでもロジックの話をすることにしよう。冷静に、理詰めにね。現実を突きつけるわけだから残酷かもだけど、感情の部分を納得させるのは、私には無理そう。


「うん、それでもやっぱり教えられない。まず、私側の理由からね。今はこうして一緒に居るけど、これから先ずっとそうってわけじゃないよね」


 私たちは旅に出たいと思ってるし、女神様からの依頼の件もある。この場に留まり続けることはできない。当然、稽古は中途半端になってしまうだろうし、そういういい加減な事はしたくない。


「あとこれはあんまり言いたくないんだけど、私の剣術……っていうか、剣術込みの戦い方ってかなり我流で、人に教えられるものじゃないんだよね。っていうか、アンリちゃんやロッティちゃんには使って欲しくない」


「「「あ~……」」」「?」


 実感のこもった声だねー。特に私との模擬戦経験が一番多い秀ね。基本、組手は見てるだけの人だった舞依はピンときてない。アンリちゃんたちも大体舞依と同じ反応かな。


「これは見てもらった方が早いかな。秀、お願い」


 セイバーを一本放り投げると、秀はパシッと受け取って立ち上がり――大きく溜息を吐いた。ちょっとー、やる気が削がれるその反応はよしてよ。


「まあ……、これは僕がやるしかないのか……」


「秀、その……、ガンバッテネ(棒読み)」「骨は拾ったるでー」


 皆からは少し離れて秀と対峙し、セイバーを起動する。


 久利栖の合図で模擬戦が始まる。と同時に踏み込み、喉元に突きを放つ。


「うおっ! くっ、まだまだ!」


 逸らして避けた首を追いかけるように斜め横に振り下ろすと、秀は体勢を崩しながらも後退しつつセイバーで打ち払った。やるね。


「か……、片手平突き。新選組かいな……」


 体勢を崩したところに袈裟懸けに振り下ろす――けど、コレはフェイント。セイバーを左手に持ち替えてさらに踏み込み、鳩尾に肘を入れてその流れで顎に掌底――はギリ躱されたか。


 牽制に振り下ろされたセイバーを打ち払って蹴りを入れる。――浅い。逆に反動を利用して距離を取られた。仕切り直しだね。


 ――そんな攻防を繰り返すこと数分。素手の突きや蹴りは何発か良いのが入ったけど、セイバーのクリーンヒットは無い。


 お互いまだ息は上がってない。秀も日本あっちに居た頃より数段腕を上げてるね。身体能力が大きく上がったお陰で、イメージ通りの動きが出来るようになった感じだ。


 これ以上は千日手かな。秀との模擬戦は久しぶりで楽しいけど、目的は果たしただろう。


 アイコンタクトを取り、お互いにセイバーを収めて礼をした。









怜那と秀の実力に関して少し補足を。


元の世界では、剣術のみなら秀の方が有利、体術込みならほぼ互角、何でもアリになると怜那がかなり有利、という感じです。

異世界に来てからは、怜那の基礎能力が大幅に向上し、秀の体格的なアドバンテージを余裕でひっくり返せるようになったので、剣術のみでも怜那が負けることはほぼほぼありません。

ただセイバーを使った模擬戦の場合は有効打一撃で勝敗が決まるので、百戦百勝とはいかないでしょう。

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