#01-10 錬金術 寄り道(ワイン造り)編
感想頂きました。ありがとうございます!
ワインの造り方は単純で、基本的に葡萄を潰して放置するだけでいい。
葡萄の表面に酵母が自然に付着するからなんだとか。だから酵母を加えずに作るなら洗わずに潰す。足で踏む必要は――特にありません(笑)。
もうちょっと詳しく説明すると発酵にも二段階あって、最初はアルコール発酵。なおこの段階で、酸化防止剤として亜硫酸塩を加える。それが終わったら果汁を絞って、リンゴ酸を乳酸に変化させる二次発酵をさせる。
割と詳しい理由は、以前夏休みに家族旅行をした時に、ホテルの傍にあったワイナリーの見学会に参加したことがあるから。まあ母さんと父さんは、見学よりも試飲が目当てだったみたいだけど。
で、ちょうど良いからこの時聞いた話を元にあれこれ調べて自家製ワインを作り、夏休みの自由研究にしてしまった。酒税法に引っかからない範囲のものだけど、先生方の間で物議を醸したそうな。醸造酒だけに……なんて。
…………
あれ? そう言えば、あの時提出したワインってどうなったんだっけ?
確か先生方の間で少し問題になってるから、担任の先生に預かってもいいかっていわれて……そのまま? 提出したのは全体の半分くらいだったし、完成品を味見して満足しちゃったから、すっかり忘れてた。
その後担任の方からワインについては触れてこなかったし……
飲んだのかな? やっぱり飲んだんだよね、先生方で。
別にいいんだけどさ~。だったら「問題になってる」とか「預かる」とか言わずに、素直に「味見したいんだけど?」って言ってくれればいいのに。ねぇ?
ま、面子とか世間体とかあるんでしょうけどね、きっと。
自由研究の話はさておき。そんなわけで私は大雑把になら、ワインの作り方を知ってるのです。細かい部分は錬金術を使ってイイ感じに仕上げましょう。
さてさて、では早速ワインづくりを始めよう。
まずは保存用瓶を用意して、念の為に魔法で出した熱湯で消毒、同じく魔法で乾燥。そこにたくさん確保しておいたピロールを洗わずに投入。蓋を手で抑えつつ、内部に風魔法(つむじ風)を使って荒く粉砕&攪拌。これで下準備はOK。
お次は錬成陣の上に瓶を配置。えーっと、確か二酸化炭素が発生するはずだから、蓋はちょっとずらしてっと。
この錬成陣では天然酵母による発酵を促進。酸化はしないように。ついでにゆっくりかき混ぜるようなイメージで錬金術を行う。
ここから二本に枝分かれした線を二つの錬成陣に伸ばして、果汁と搾りかすに分離させる。それぞれの円に保存用瓶と適当な器を配置と。
で、果汁の方はさらにリンゴ酸を乳酸に変化させるようなイメージで錬金術を。
最後に全体を大きく囲んでっと。錬成陣はこれで良し。
実のところ私は、酵母による発酵が科学(化学)的にどういう現象で、何がどういう風に変化するのかをちゃんと理解しているわけじゃあない。プロセスの概要を知っているだけなんだよね。
でも錬金術ではプロセスを漠然とでもイメージしているかどうかが、成功率や品質を大きく左右する。
だからきっと上手くいくんじゃないかな。――と期待を込めて。
美味しいワインにな~れっ!
錬成陣がピカッと光り、錬金術そのものは発動した。
完成品の方の保存用瓶には果汁が、搾りかすの器の方には皮や種らしき赤紫色の塊がある。
成功した……のかな?
熟成させるためにワインボトル――は無いから広口ボトルに移し替えてトランクに一旦収納する。今回は広口ボトル一本と八割くらいが出来た。
スロットの温度を一三度――確かこのくらいが良かったはず――に設定。
時間加速――をする前に、スロットの中って空気とか光とかどうなってるのかな?
ん? オプション項目? 詳細設定? ああ、日光の有無や、空気の濃度、湿度なんかもコントロールできると。――トランクに農園を作れるね。デフォルトだとトランクのある場所の環境に連動するのか。
いまさら突っ込んだりしないよ? 時間すらコントロールできるんだから、その程度のことで、ね。
日光はオフ。湿度を八〇%。酸素濃度を下げれば酸化防止になるかな? ちょっと下げておこう。
時間加速は上限が一万倍。凄いと驚くべきか、完全に停止できるのにそんなものかと拍子抜けすべきか微妙なところだね。とりあえず両方とも一万倍に設定。ボトルいっぱいにワインが入ってる方は、加速時間で一年後になったら時間が止まるようにタイマーを設定しておく。いや、タイマー機能もあったんだって。
八割の方は一か月くらいで飲んでみようかな。えーっと、六〇×二四×三〇だから……四万と三二〇〇分(スマホで計算)か。四分ちょっとだと……、音楽一曲分くらいかな。
ちょうど良いから、いつも寝る前にやってる特殊スロットを使ったアイテム増殖をやっておこう。
といっても複雑なことは何も無い。増やしたいものを取り出して、その一部だけを特殊スロットに戻し、それ以外は一般スロットに入れるだけ。例えばペットボトル飲料ならラベルを剥がして特殊スロットに戻して、ボトルは一般スロットへ。これで次の日には特殊スロットに復活してる。
まあ飲み物とかはどうでもいいんだけど、舞依たちと合流した時の為に、化粧水とかシャンプーとかは沢山増やしておきたいんだよね。――あと生理用品も。
調味料と保存食も増やしている。余分にあっても困らないし、いざという時の換金用としてね。
今は衣類も増やしてはいるけど、これに関してはほどほどで止めてもいいかな。あんまり増やしても使い道が無いし。
ちなみに一度スマホを充電するつもりで特殊スロットに戻したら、こっちで撮ってた写真データが無くなってることに次の日気付いた。そりゃそうだよね。こっちの世界に来た時の状態に戻るなら、データ類も元通りになっちゃうわけで。それ以来、スマホは自動復元の設定をオフにしている。
まあ壊れた時はメモリーカードを抜いてから特殊スロットに戻せばいいからね。ちなみに充電はソーラーパネル付きのモバイルバッテリーがあるから大丈夫。
っと、もう十分時間が経ってるね。では試飲をしてみましょう。
実はちゃんとお酒を飲むのは、(当たり前だけど)これが初めてなんだよね。自由研究の時は味見をしたくらいだし、あれはほんのりお酒っぽい“ワインもどき”だったしね。
未成年? いえいえ、ここは日本ではありません。というか地球ですらない。
ちなみにしおり情報によると、こっちの世界的には飲酒を年齢で制限する法律の類は無い。水が不足しがちな地域では、ワインを長期保存できる水代わりにしてたりもするんだとか。
というわけで、私がワインを飲んでも何も問題は無いのです!
テーブル代わりの調理台と切り株椅子を出して、ワインとワイングラスを用意する。
ボトルからグラスへワインを注ぐ。
「わー、綺麗な色……」
グラスに揺れるワインは透き通った深いピンク色で、赤とロゼの中間くらいの色合いをしていた。作り方は赤ワインと同じにしたけど、多分葡萄よりも果実が大きくて皮や種の比率が少ないからじゃないかな。
それでは、いただきます……
グラスを傾けて一口含む。さすがに初めてのお酒だからね。一気にゴキュゴキュとはいかないよ?
香りは葡萄とベリー系がミックスされたような感じ。甘味はほんのり微かに。まろやかな酸味と、色味から想像するよりもしっかりとした苦みや渋みがある。うん、比較的飲みやすいフルボディの赤ワインだ。
――なんてね。ちょっとマンガの真似をしてみました(笑)。
感想はそんな感じ。ただ地球産のワインをちゃんと飲んだことが無いから、比較評価が出来ないんだよね。
でも結構美味しいワインが出来たんじゃないかな。ああ、もしかしたら錬金術で作ったから、私好みの味になったっていう可能性もあるか。
ちなみに自家製なんちゃってワインよりも格段に高いアルコールを感じる。なんだかふわふわポカポカしてくるような?
うん、折角だからもっと飲もう。
おつまみは……、ビターチョコとビ〇コかな。チーズ――は無いから、ブロック栄養食のチーズ味で代用。
ワイングラスを傾けつつ、時々おつまみを口に放り込む。
音楽が足りない。雰囲気的にJ-POPよりも大人っぽいのがいいから、鈴音に借りたジャズなんかを掛けてみる。――ちなみに普段はほとんど聞きません。
外の景色は砂浜と海、星空。邪魔にならない程度に聞こえるジャズ。そして美味しいワイン。
ふふ、大人の時間……って感じね。
…………
あっはっは。ちょっと酔ってるのかも?
ふと見上げると、今日は月が二つ出ていた。この世界には大きな月が一つと、小さい月が二つあるってしおりには載っていた。
異世界なんだなぁ……
日本にいる家族の事が不意に思い起こされ、慌ててその気持ちに蓋をした。
今は良くない。そういうのは皆と合流してからにすると決めている。
この状況でホームシックとか人恋しさとかを感じ始めたら、際限なく不安が募っていくからね。今はまだ、テンション高く異世界を楽しんでいないと。
そういう意味ではこっちの世界での趣味としてお酒はいいかも。色んな材料でお酒を造って飲むなんて、日本じゃあ出来ないことだからね。
うん、美味しい。もういっぱ~い!
念の為に補足を。
この世界での異世界転移は、元の世界に帰還できない一方通行のものです。従って考え方としては、主人公たちは旅行ではなく移住したことになります。なので、日本での法律に縛られる必要はなく、飲酒も問題ありません。
言うまでも無いことですが、日本では高校生がお酒を飲んではいけません!
お酒は二十歳から!




