#08-14 突入してみた
「情報ではこの辺り……の、はずなんだけどね」
「この世か……ンンッ! この国の壁の外側っちゅうのは、どこも似たような景色やからなぁ」
女神様から聞いたダンジョンのある付近には、魔物を追い払うくらいはしたけど、それ以外は特に何事もなく到着~。
それにしても絶妙な場所だね。西の外周市を出てすぐに街道を離れて南に移動して、どの街道からも外壁からも微妙に遠い位置。それでいてまばらに木々や灌木があるくらいで、採取できそうな物も討伐対象になりそうな魔物もいない。
要するに誰からも見向きされてない、ただの背景的な領域って感じかな。だからこそ、このダンジョンは誰にも発見されなかったんだろう。
え? 入り口が分かるのかって? うん、普通に分かる。ソナー型探知魔法が通り抜ける際に、不自然に揺らぐポイントがあるからね。分かった上で目に魔力を込めて見れば、陽炎のような空間の歪みを見つけられる。
魔力適性の一番高い舞依なら分かるんじゃないかな?
空中歩行でちょっと浮いて後ろから舞依に頬を寄せ、右手は肩に、左手を伸ばしてダンジョンの入り口の方を指差す。
「舞依、魔力を目に込めて……、あの……辺りを見て?」
「うん。……えーっと、何か見える?」
「ハッキリ見えるんじゃなくて、陽炎みたいに空間が揺らいでる。視覚よりも魔力の方に集中して?」
「魔力? んー……、あっ、うん、うっすらとだけど分かる。入り口というほどはっきりした形ではないみたいだけど……」
入り口も分かったから、早速突入しよう! 騎獣は魔法で眠らせて、馬車ごとトランクに収納したら時間を止めてっと。
じゃあ、皆は私の後についてきてね。え? 心の準備? ちょっとナニ、今更怖気づいてんの。結局入る以外の選択肢は無いんだから、シャキッとしなさい。
では、いざダンジョンへ!
空間の歪みを抜けると、そこはさっきまでの風景と全く変わらない場所だった。
――なるほどね、これは案外厄介かも。全く気付かないで入っちゃったら、ダンジョンだって気付かない限り、脱出のしようがない。それで仮に行方不明だと騒ぎになっても、入り口が分からなければ神隠しと変わらない。
「これは……、本当にダンジョンの中なのかな?」
「うん、間違いないね」
「怜那さん、なんぞ根拠はあるん?」
「あるよ。よく見ててね」
火属性の魔力弾を真上に放つと、見えなくなる前に何かにぶつかって弾け飛んだ。
「見た目は外と変わらないけど、空間が魔力的に区切られてるね。セオリー通りならボスを斃せば次のエリアに行けるんじゃない?」
「分かった。ところで、入って来た扉はそのままあるのかな?」
「うん。だから帰るだけなら、いつでも大丈夫」
「全然大丈夫じゃないわ、怜那。何か目印でもないと、その扉自体が分からないんだから」
あっ、そうか。それじゃあ何か目印でも立てておこうか。扉の両脇に、土魔法で柱でも立てておけばいいか。分かり易いように、電柱くらいのを立てておこう。ニョキニョキっとね。これでオッケー。
さてさて、帰り道も確保したところで、この世界のダンジョンについておさらいしておこうか。
この世界では一般的に、ダンジョンは“異界”ないし“異空間”と考えられている。魔力や瘴気が集中し過ぎたり何らかの異常によって、空間が歪んでそれが定在化したものである――と、されている。
ダンジョンには大きく分けて構造物型とフィールド型の二種類があって、前者は洞窟や建物などが媒体となったもので、フィールド型は空間そのものがダンジョン化したもの。中身はかなり違うけど、特定の入り口からしか入れない点は共通している。
例えば一軒家がダンジョン化したとして、ドアや窓や勝手口と開口部は沢山あるけど、出入り口以外からはどうやっても入ることが出来ない。ちなみにドアが出入り口になるとは限らない。二階の窓とか煙突なんて場合もあるのかな? ちょっと笑えるね。
構造物型のダンジョンは、媒体となった構造物を模した内部構造になっている。あ、もちろん広さは全然違うけどね。だから洞窟なら壁は岩だし、廃坑ならところどころに崩落防止の柱と梁みたいなのがあったり、お屋敷なら壁紙とか建具が共通してたり――とかね。
一方、フィールド型のダンジョンは、風景をそのまま写し取ったような感じになる。ただある程度見える範囲が決まってるみたい。今居るこのダンジョンだと、位置的にまだ王都の外壁が見えるはずなんだけど、空気遠近法の彼方へ霞んで消えちゃってる。不自然なほどきれいさっぱりと。
構造物型・フィールド型ともに階層やエリアで区切られていて、それぞれのボスを斃すと再出現するまで次のエリアへの移動が可能になる。なお、エリア間の移動は階段・扉・魔法陣の三種類が代表的。
お次はダンジョンに出る魔物について。あ、普通の動物は出現しないよ。
基本は外に出る魔物と同じように、斃せば死体が残るし、解体すればお肉や素材も取れる。違うのは丸一日くらい放置すると、死体や解体した残骸なんかは丸ごと消えてしまうところ。
死体が腐ったり白骨化したりすることはなく、またアンデッド化するってこともない。アンデッドが居ないってわけじゃあ無くて、いる場合は最初からアンデッドとして出現する。
――と、まあこの辺りが一般的に知られているダンジョンの特徴ね。




