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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第八章 王都にまつわるエトセトラ>
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#08-09 鑑定orネット検索




 トランクの新機能はスロットの機能が拡張されたって感じかな。トランクに収納した物の名称や性質なんかが分かるようになった。見た目は変化しないからちょっと地味なバージョンアップだけど、使える機能だね。


「異世界モノの定番、鑑定能力やな!」


「ぶっぶー。鑑定機能ではありませーん!」


「はぁ!? 何が違うんよ?」


 似てはいるんだけどちょっと違う。ゲームとか漫画とかで言う鑑定って、例えば他人のレベルとかスキルが分かったり、能力値が分かったりとかでしょ? あとは物を鑑定するとレア度が分かったり値段が分かったり、人工物なら誰が作ったか分かったりとかかな。


 この機能はそこまで万能じゃあない。


 まずモノの値段やレア度の類は分からない。内容の説明に“稀少な”って言う表現はあるかもだけど、イコール価値のあるモノとは限らない。数が少なくたって、どーでもいいものはいくらでもあるからね。


 それから例えば人間や騎獣ペットを収納したとしても、名称は“人間(ヒト族)”や“カーバンクル”とだけ表示される。つまり固有名詞は分からない。あと能力値だとか所有スキルだとかは分からない。ああ、各種(・・)サイズも分からない。


「……なんや、えらい不便っちゅうか、中途半端やんな?」


「いやいやそんなことはないさ。まだまだこの世界の常識に疎い僕らにとっては有難いものだし、これから研究・開発しようと思ってる醤油の酵母なんかの、普通は目に見えないものの判別もつくんじゃないかな」


 うん。そういうのはたぶんオッケー。


 あとは人の手による加工品だと、何時ごろ作られたものなのかとか、原材料とかは分かる。美術品なんかだと、作者が広く名が知られている場合は、作者名も分かるみたい。


「なんか曖昧ね。……それってどのくらいのレベルなの? 地球で言うとダヴィンチ、ルノアール、モネ、ピカソくらいの巨匠ならたぶん誰でも知ってるだろうけど、私は現代美術の、特に抽象系の作家の名前なんて、たとえ売れっ子だとしても殆ど知らないわよ?」


「うーん、その辺は本当に曖昧なんだけど、作家が死後だと比較的判定が緩くなるみたい」


「巨匠と呼ばれる芸術家アーティストは、亡くなった後で評価されることが多いのは事実だけれど……、そういうこと?」


「と言うよりも、もっと単純に死んだ後なら名前が確定するから、かな」


「え?」「どゆこと?」「うん?」「ナンノコッチャ?」


 ほら、アーティストのペンネームとか雅号って、人によってはコロコロ変えたりするでしょ。骨董品の鑑定番組でも「この時代の彼は○○と名乗っていてどーたらこーたら」とかやってるじゃない。


 こっちの世界だと、貴族はさておき庶民の戸籍管理はザル――というか、もはやワク――だし、名前が厳密に管理されてないんだよね。例えばアーティストだったら、パトロンの意向で名前を変えるなんてことも普通にありそう。


 ――とまあ、そんな感じだから生きている間は、名前って普遍的な情報じゃあないんだよね。


 恐らくだけどこの機能って、スロットに入ってる物の情報を精霊樹からダウンロードしてるってことなんだと思う。つまりどっちかと言えばネット検索に近い。


 で、精霊樹のアーカイブって、秀と久利栖が好きそうな表現をするなら、いわゆるアカシックレコードに近いんだけど――


「アカシックレコード、キターー!!」「集合的無意識か!!」


「だーかーらー、“近い”って言ってるでしょ! そう興奮しないの。別に私がアーカーシャに接続できるようになったとかじゃないんだから」


「「…………(しゅん)」」


 まったく、予想通りの反応をしてくれちゃって。え? なに、舞依? ああ、アカシックレコードの事? 私も聞きかじった程度で、そんなに詳しく無いからね。久利栖に訊けばそれはもう膨大な蘊蓄と共に詳細に――それは止めておく? うん、それが賢明。


 さておき。推測の続きね。


 精霊樹アーカイブには色んな情報が記録されてるわけだけど、基本的には土地神としての引継ぎ用のデータだから、ありとあらゆることに関して微に入り細を穿つってレベルである必要は無い。だからしょっちゅう変動する値や流動的な情報は記録されていないんだと思う。


 変な表現になるけど、死んでしまったらその人の持っていた情報はその時点で確定する。それ以降は決して変化しない。普遍的な情報になるから、記録として残る。――ってことなんじゃないかな?


 まあもっと単純に、私(のトランク)にはアクセスできる情報のレベルに制限があるってことなのかもしれないけどね。


 事実がどうあれ、トランクがますます使えるようになったことは間違いない。タイミング的に精霊樹に触れたことで機能が解放されたんだと思う。


「怜那さん、話を聞いて気になった点があるんだけど……、精霊樹には土地神(・・・)に必要な情報が記録されてるって言ったよね?」


「さっすが! 秀はそういう重要なポイントは外さないよねー」


「それはありがとう。ってことはやっぱり、これから新しい街に行く度に、怜那さんは精霊樹に触れなきゃいけないと……」


「「「えっ!?」」」


「ああ、そこまでじゃないから安心して」


 どうやら国の首都にある一番大きい精霊樹が、国内の街にある精霊樹の情報も統括してるみたい。だから首都の精霊樹に触れればそれでオッケー。


「オッケーやないで!? いっちゃんヤバイことするって言ってるようなもんやろ?」


「大丈夫だってば。神様はそんな些細な事で怒ったりしないよ。たぶんね」


「僕らが心配してるのは、神様じゃなくて神殿とか王城の方なんだけどね……」


 うん、まあそうね。知ってた。


 やっぱり夜中にこっそりやるしかない、かな。それはそれでちょっと面白そうだよね?


 …………


 おっかしいな~? 誰からも返事が無いんですけどー。








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