#01-09 錬金術 基本編
錬金術とは、錬成陣と呼ばれる魔法陣の中に配置したものを変化させる技術である。変化には分解、合成、変異がある。触媒と呼ばれる素材を錬成陣に用いることで、変化を促進させることができる。
――ってことらしい。以上、しおり情報でした。
錬成陣については問題ない。術式を仕込んで錬金術の成功率や素材との相性を高めることができて、その辺に流派の違いとか特色が出るらしいんだけど、本当に必要なのは領域を区切ってその中を魔力で満たすことらしい。
極論すれば、〇を一つ書くだけでも大丈夫ってこと。ただし、イメージで使う魔法と同じで燃費はとても悪い。
これは余談だけど、触媒の選び方や使い方にも流派の違いが現れて、有用な合成の成功率や品質を向上させる触媒は、大抵秘伝とされていて門外不出なんだとか。
ま、何も非金属を金属に変えるだとか、鉄を金に変化させるとかそんな大それたことをやりたいわけじゃあ無い。私の目的はトランクで増やしたナイフを合成して短剣を作る事と、皮を鞣して革にすることだ。あと分解で魔物の解体が出来たら楽だな~、って考えてるくらい。
それじゃあ実験開始!
はい。いろいろ試してみました。大体のコツは掴んだかな?
ただこれまでの魔法と違って、全部が成功したわけじゃないんだよね。傾向を自分なりに分析してみたところ、どうやら複数工程を一気にやろうとすると過程のイメージが不足して失敗するみたい。
例えば、砂を石に合成、石と石を合成して大きな石にする、魔物の骨を変形させて包丁にする、なんかは一度も失敗しなかった。ちなみに包丁は柄まで真っ白なセラミック包丁(風)になった。切れ味も良いし、なかなかの優れモノです。
一方、ウサギを肉・内臓・骨・皮・血に解体(分解)する、砂からガラスを生成する、皮を鞣して革にする、とかは成功率が低かった。
あ、これは余談だけどファンタジーものでよく見る、いわゆる魔石っていうものはウサギの中に無かった。
ただ一般的に魔物は体のどこかに魔法発動体を備えている。トナカイの角なんかがそれね。金属のようでもありクリスタルのようでもある不思議な質感で、これが魔石に相当するって感じかな。
触媒についてもちょっと実験してみた。森で集めたアレコレを適当に突っ込んだだけなんだけど、たぶんこれって素材や術者の異なる性質の魔力を馴染ませる役割があるんだと思う。フィルターとか変換機とかそんな感じ?
で、更に検証。
砂をガラスになる成分(珪砂、ソーダ灰、石灰石。珪砂以外はあるか分からないけど)とそれ以外に分解(分別)、その後でガラスを生成する。これは確実に成功した。
皮から余分なもの(肉、脂、毛など)を除去(分解)、その後で革に鞣す。皮が腐敗しないようにコラーゲンを結合させる……だったかな? そんなイメージでやったら、これも成功した。
やっぱり工程数を減らして段階を経て錬金術を行えば、成功率が上がるね。でもやっぱり手間がかかる。それから一度に行って成功したものよりも、若干品質が落ちるような気がする。同じ素材を合成して品質を向上させることもできたけど、当然量は減っちゃう。
あと触媒を使う場合はそれも余分に必要になる。触媒は錬金術の素材そのものにはならないけど、触媒としての役割を果たす際に魔力が抜けちゃって使い物にならなくなるんだよね。完全に消耗品。
うーん、複数工程を一回の術で出来ない物かな?
…………
ああ、プログラムのフローチャートみたいな感じの魔法陣にしたらどうかな? 一つの<元素材>から枝分かれした線で<分離素材>と<不要素材>に繋げて、<分離素材>と<追加素材>を線で繋げて合成した<完成品>に繋げるって感じで。
よし、取り敢えず分解だけの解体でやってみよう。血抜き、皮を剥ぐ、内臓を取り出す、肉と骨に分ける。
なんかすごく斜めったフローチャートになっちゃったね。……あ、分解を続ける素材を全部左にしたからか。失敗失敗。
ま、実験だからこのままでいっか。
――あれ、失敗? いや、そもそも錬金術が発動してない?
そうか……、これだと一つの魔法“陣”として成立してないのか。だったらこれ全体を線で囲めば……、うん、これでOK。偏った形の魔法陣になったけど、まあ良し。
では、改めて発動!
「よしっ、成功!」
品質も良いみたいだし、綺麗に解体できてる。お肉が元の形をある程度留めているから、かな~り不気味だけど成功には違いない。
問題点はこの方法だと魔法陣が大きくなるから、必要な魔力量が跳ね上がるっていうことかな。まあ私は魔力が無駄に多いみたいだから別にいいんだけどね。
よし、じゃあまずは本命の短剣を作ったら、他にもいろいろ作るとしよう。
ちょうど砂はいくらでもあるし魔物の骨も余ってるから、ガラスとセラミックもどきの食器類とカトラリーなんかをね。
あはは、ちょっと調子に乗ってしまったかもしれない。食器類を作り始めたらあれこれ欲しくなって、片っ端から作っちゃったんだよね。
その成果はというと――
短剣が一本
ナイフ・フォーク・スプーン・箸(セラミック)が五セット
マグカップ・スープ皿・茶碗・どんぶり(セラミック)が一つずつ
コップ・ワイングラス(ガラス)が五脚ずつ
デキャンタ・ピッチャー・大きめの鉢(ガラス)が一つずつ
広口ボトルと蓋(ガラス)を一〇セット
大きな保存用瓶と蓋(ガラス)を二セット
とまあ、こんな感じ。
カトラリーとか皿なんかはともかく、ワイングラスは必要なかったよね。しかもそこから連想してデキャンタとか作ってるし。
大きめの鉢は素麺を入れるのにちょうど良さそうな大きさで、切子っぽく模様を入れた力作です。色は付いてないけど結構綺麗にできたんじゃないかな、うん。
広口ボトルは一リットルくらい入る大きさで、飲み物の保存用に作ってみた。とりあえず、あとでトマトジュースを作ろう。保存用瓶はそれよりもさらに大きくて、梅酒とかを作るアレね。パッキンが無いから密閉性はイマイチだけど、基本トランクに入れておくから問題ないはず。
梅酒……、お酒か。
そういえばこっちの世界固有のピロールっていう果物を見つけたんだけど、ライチくらいの大きさで、房にはならないけど葡萄そっくりの果実だった。ちなみにこれも冬以外は割と年中生ってるらしい。
で、葡萄そっくりってとこから想像できる通り、このピロールはワインの原料になる。
…………
こっちでは酒税法なんて関係ないし……ね。
作ってみちゃう? ワイン。




