#08-05 女神クエスト受注(ゲーム的表現)
「怜那、私は一緒に行くからね」
「ありがとう、舞依」
「一人にしたら怜那は何をしちゃうか分からないもの。私が付いていないとね」
「えー、なにそれー」
テシテシ ピシッ!
ハイハイ、そんなに勢い良く手を挙げて主張しなくても、ついてくるのは分かったから。
あっ、ちょっと舞依、そんな微笑んで優しくナデナデなんてしないで。こいつはすーぐに調子に乗るんだから。目を細めてゴロゴロ――って、キミはまたそんな可愛い猫みたいな反応をして。
ってか、そういう動物のリアクションも覚えるんだね。感心……は、感心だけど、相変わらず学習能力の方向性がおかしい。ま、それこそがカーバンクルクオリティ(笑)。
「私たちも一緒に行くわよ。舞依一人に任せたら、肝心なところで怜那に押し切られそうだもの。不安だわ」
「まあ舞依さんで無理な時に、僕らにそれが出来るのかっていう問題はあるけど、そういう議論はさておき。やっぱり一人旅だと何かと不便なことはあるだろうからね。それに僕らはクランなんだから」
「せやな。女神様からの依頼で呪われた大地に向かう……。こんなクエスト、参加しなかったらウソやで」
うん、やっぱり仲間は良いものだね。ちょ~っと、私の認識について話し合いが必要な気もするけど――それは後で。
依頼は全員で引き受けることに決定!
で、詳しい話を女神様に訊ねてみたんだけど、例によってあんまり詳しい情報を教えることはできないんだとか。そりゃあないぜ、ベイベー(ちょっとニヒルに)。
まああんまり神様が人間に干渉し過ぎたら、碌な事にならなそうっていうのは分かるけどね。そういう物語は結構あるし。
『そういう側面もありますが、今回の場合はもっと単純に管轄の違いというところが大きいのです』
「管轄っちゅうと……、例えば神奈川県警が警視庁に『うちの縄張りで勝手されちゃあ困るよ』ってクレームをつける、みたいな感じやと?」
『それは分かり易い例えですね』
「……マジですかい」
久利栖的にはボケのつもりだったのかな? まさかの肯定に驚愕してる。
こっちの神様はいわゆる土地神的な存在で、例えば太陽神とか海洋神とかみたいに“何か”を象徴しているのではなく、基本的にはどの神も満遍なく権能を持っている。ただ力の大きさや、統べている土地の性質によって得意分野に差異あるって感じらしい。
つまり王都の女神様は立場的に、件の大陸に関する情報をペラペラ開示することが出来ない――知らないわけでは無い――ってこと。転移装置の破壊は神々の総意だけど、私たちに直接干渉(依頼)できるのは王都の女神様だけっていうんだから、面倒な話だね。
首尾よく呪われた大陸(久利栖命名)に上陸できたら、その時点で向こうの神様がフォローしてくれる予定らしい。
――ということは、そこまでは私たちが自力で到達しなきゃいけないってことなのか。馬車と気球を駆使すればどうにかなるだろうけど、気球はスピードが出せないし時間がかかりそうだね。依頼の期限はどの程度なのかな?
『それほど急を要する話ではありません。そうですね、来年以内に達成して頂ければ問題無いでしょう』
丸一年か。意外と余裕があるスケジュールで安心したよ。
えっと? 私たちが召喚された時に魔力が大量に消費されたから、当面は誤作動が起きる心配はないと。なるほど。
『引き受けてくれて、有難く思います。達成後にあちらの神から何か報酬を渡す予定ですが、私からもお礼として、何かを差し上げたいと思います。……とは言っても我々の制約上、知りたいことを教えることくらいしかできませんが』
「知りたい情報、ですか。少し、相談させてください」
『ええ、どうぞ好きなだけ』
欲しい情報……かぁ~。何かある?
情報、情報ねえ。――っていうか、みんなと合流した今となっては意外と無いんだよね。この世界に来た当初とかノウアイラを出た直後とかなら、皆の居場所だとか、ルート上にいるクラスメイトだとか、こっちの世界特有の危険な土地だとか、いろいろ知りたいことはあったんだけどなー。
皆は何かある? だよね~。皆も結構、状況を楽しんじゃうタイプだからね。変に種明かしをされちゃうより、自分で知っていくのが楽しいんでしょ。
え? 私が言うな? って、どういうこと?
それは私に振り回されてたからだと。どうせ振り回されるんなら、いっそ楽しんでしまった方が気は楽だから? ある意味、諦めの境地……って、それは酷くない!?
――しまった、藪蛇だったね。秀を見習って沈黙すべきだった。
ま、まあ、私の話はさておき。
うーん、情報かあ。生活の基本、衣食住は問題無い。どんな過酷な状況下でもトランクさえあれば何時でも快適だからね。改めて神様には感謝です。
ま、強いて言うなら――食かなぁ。食べ物に関してはちょっとね。素材は素晴らしいんだけど、調味料とか発酵食品とかが足りないから物足りなさがある。秀から預かった調味料が無かったら、かな~り不満な食生活だったことと思う。
もっとも、それももう大丈夫! 秀と舞依がいるからね! 二人が居ればスイーツだってバッチリ! 今度、無人島産フルーツ山盛りのタルトを作って貰おう。じゅるり。




