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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第八章 王都にまつわるエトセトラ>
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#08-02 世界樹(っぽい精霊樹です)




 人影も走る馬車も殆どない、王都のメインストリートを走る馬車の上から空を見上げると、今日は大きな月が一つだけ出ていて満月だった。


 こちらの世界は空が広い。空気が綺麗なこと、高層ビルが無いこと、電柱とか電線とかの邪魔なものがないこと。そういった理由で、凄く広く感じる。


 だから夜は星と月がとてもよく見える。メインストリートは街灯があるけど、日本のそれよりも低くて光も柔らかいから、王都の真ん中でも十分に星空を楽しめる。


 うん、月が綺麗だね。


 チラリと視線を隣に向けると、舞依も夜空を見上げていた。月明りと街灯の光に、ほんのりと照らされる横顔はどこか神秘的で――


「月よりも舞依の方が綺麗だね」


 舞依は一瞬キョトンとした後で、くすくすと笑いだした。


「こういう時は、月が綺麗ですね……って言うものじゃないの?」


 まあね~。でもそういうある種のオマージュって、言っても伝わるか伝わらないか分からない、くらいじゃないとダメだと思うんだ。そのフレーズはもう広く知れ渡っちゃってもはやネタと化してるから、とてもじゃないけど本気では使えないね。


 それに私は、ちゃんと「愛してる」って言うよ。


「……言えるようになったものね」


「うん。ちゃんと言葉で伝えられることが嬉しい」


「怜那」「舞依」


 引き寄せられるようにお互いの顔が近づいて行き――


 ドンドンドンッ!


 お尻の下――というか馬車の天井から伝わってくる衝撃に、現実に引き戻された。


 目を開けるとドアップの舞依と見つめ合う格好になって、思わず同時に吹き出してしまった。


 っていうか、馬車モードの時って内側からの衝撃が外に伝わるの? ちょっと驚き。これは新しい発見だね! 外からどんな攻撃をされたって小動こゆるぎもしないけど、逆は違うのか。たぶんテントでもそうなんだろうね。


 アレかな。出入りのできる人が衝撃だけを(・・・・・)外に出したっていう理屈なのかな。


 そういう考察はさておき。


「近づいて来たね」


「うん。近づいてみて改めて思うけど、大きいね……」




 広場への門の前で馬車を降り、そこからは歩きで精霊樹へ向かう。


 ちなみに神殿にせよ城にせよ夜になれば門が閉まり、一般人の出入りは出来なくなるけど、精霊樹の広場は何時でも誰にでも解放されている。なぜなら精霊樹とは神様の依代であって、人が支配して良いものでは無いから。――まあ手入れは人の手でされてるんだけどね。


「マーリンネの精霊樹を見た時は案外ショボ……ンンッ! あ、あー、可愛らしい思うたけど、王都のはスケールが違うな!」


 久利栖の苦しい言い換えに舞依たちが苦笑してる。っていうか、やっぱりアレは誰でも思うよね、意外とショボいなって。私たち転移してきた者に限った話だろうけど。


 でも! 王都の精霊樹は違う。それはもう見上げる程大きい、堂々たる大樹だ。


 大雑把な目測だと東京タワーの半分ほど――つまり一六〇メートルくらいはあるかな? ってところだと思う。この大きさになると目測はあんまり当てにならないけど、とにかくとんでもなく大きい。


「こんくらいやったら、世界樹を名乗っても良さそうや」


「大きさ的にはそんな感じだけど、他の国の首都にある精霊樹もこれと同じくらいだとすると“世界樹”って言うのは……どうなんだろう?」


「あー……、せやな。世界に唯一じゃあないもんを世界樹ゆうのは変か。残念やなぁ~」


「そうだね。ちょっと残念かな」


 うん? なぁに、舞依? 二人はなんであんなに残念そうにしてるのかって?


 よく分かんないけど、世界樹ってファンタジーでは有名なものだし、凄く重要な場所スポットなんでしょ? そういうゲームとか漫画とかで見てたものと、全く同じではないけどよく似た存在を見ることに浪漫を感じるんじゃない? 疑似的な聖地巡礼って感じかな。


 私は……、もちろんワクワクしてるよ。でも世界樹云々っていうんじゃなくて、こんな大きな木を見るのが初めてだからかな。たぶん向こうに居ても、世界一の大木を見たら同じくらい感動すると思うよ。


 そんな雑談をしながらてくてくと歩き、精霊樹の根元に到着。


 視界一杯に一本の木の幹が見えるっていうのは圧巻だね!


 それに近づくと神々しさというか、自然と畏敬の念を覚えるというか――雰囲気に圧倒される。


「日本人的に言うと、これだけ立派な樹だと注連縄しめなわが欲しいところかも」


「怜那が言うと、そうした方が良いのかもって思えて来るね」


「別に今の七五三掛家ウチは神職ってわけじゃあないんだけどね。……まあ実際にやろうと思ったら、注連縄を作るところからえらいことになりそうだけど」


「ぶっとい幹やからなぁ~。寄付を募るために賽銭箱を設置せな」


「そう言えば賽銭箱とかコインを投げ込む泉とか、そういった類のものは無いのね」


「それはこの広場というか精霊樹が、神殿にも領主にも……、ああ、ここだと王家か。そのどちらにも厳密には所属して無いから、らしいよ。ちなみに神殿には社務所みたいなところがあって、寄付もそこで受け付けてる」


 よく知ってたね。ふんふん、なるほど。マーリンネの精霊樹を見に行った時疑問に感じて、帰りがけに神殿に立ち寄った際に巫女さんに質問したと。


 ちなみに巫女さんってどんな衣装だったの? 可愛かった?


「コメントは差し控えさせて頂きます(スン)」


 沈黙は金。さすが秀は隙が無いね! ところで鈴音さーん、私にまでプレッシャーを飛ばすのは止めて欲しいんですけどー。


「……コホン。さて、じゃあお祈りしようか」








ちょっとだけ補足を。


馬車の天井を内側から叩いたのは鈴音です。

何故分かったのかというと、ラブコメの波動を感じたから……ではなく、馬車モードでは外と中で話が出来るように音が伝わる窓を設定していたからです。なおカーバンクルに馬車を牽いてもらうようになってからそう設定したままでした。

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