#07-23 キッチンカー≠キャンピングカー(※トランクなら兼用できます)
私の話は取り敢えずこんなとこかな。面倒な話は残ってるけど、それはちょっと後回し。
で、次は舞依たちの方の話ね。
シェットさんから仕入れた噂を元に南西地区の屋台街を目指して来たけど、ここで鉢合わせたってことは、私の推理――とも言えない、ただの勘かな?――は正しかったってことだよね。
「それで皆はたぶん屋台をやって生活してたんだよね? ブームの火付け役になったっていう至高の屋台って、結局皆の事だったの?」
「「「「……(スン)」」」」
あ、あれ、どうしちゃったの? 表情がどっか行っちゃってるよ。
テシテシ フルフル
え? なに、違うって何が? あ、そうか至高の屋台じゃないよ。究極……でもなくて、伝説? いや、なんか違うな。確か神出鬼没の屋台だとかなんとか――
「ゴメンゴメン、間違えた。幻の屋台だったよ」
さっき異世界美食クラブがどうのって考えてたから、そっちに引っ張られちゃったみたいだね。あはは。
「ま、まあ僕らが自称してるわけじゃないけど、そう言われてるみたいだね」
苦笑しつつ秀がそう答えると、舞依たち三人は同時に溜息を吐いた。ま、気持ちは分かる。他人が付けた大仰な称号なんて、当人からしたら恥ずかしいだけだからね。
なるほどね、相変わらず秀は順序だてて説明するのが上手だ。舞依と鈴音が所々で補足を加えたけど、それは女子目線の話で、大筋は秀の説明で十分だった。え? 久利栖はって? 時々ちゃちゃを入れてたよ(笑)。
それにしてもキッチンカーかぁ。前にチラッと思ったけど、本当にそんなことを考えてたんだね。
「それで怜那はどう思う? クランの方針には賛成?」
「それはもちろん! 面白そうじゃない、キッチンカー。世界中を巡って色んな食材を狩ったり採取したりして、秀がそこじゃないと作れない絶品料理を作って、私たちがそれを食べる! もう最高!」
「いやいや、自分らで食べたらあかんやろ!」
「間違えた。私たちは売り子をする。もちろん賄は食べるけど。久利栖だって食べるでしょ?」
「そらまあ。……っちゅうか、怜那さんはキッチンカーって聞いた瞬間、世界に話が飛ぶんやなぁ」
「え? お店を構えるんじゃなくて、わざわざ移動できるキッチンカーを選択するんだから、旅をするのは既定路線じゃないの?」
そんなことは当たり前――って、あれ? 反応が芳しくない。
ふんふん、なるほど。キッチンカーは基本的に移動可能な簡易店舗みたいなもので、大抵は自宅のガレージと営業許可を取った場所とを往復するものだと。少なくとも旅をするものじゃあない。それはキャンピングカー?
あ~、そっか、これは私の勘違いだね。なんとなくキャンピングカーっていうかトレーラーハウスみたいなのを想像してたよ。前に何かの雑誌の記事で、キッチンカーに改造する話を読んだからかな。
「うーん、でもせっかく異世界に来たんだから、あちこち行ってみたくない? いくら広いって言っても、王都だけじゃあつまらないよ」
「まあ怜那さんが旅をしたがるだろうっていうのは僕らも想像してたし、僕も王都……っていうかこの国以外を見てみたいとは思ってるんだよね。ただキッチンカーで旅をするのは……」
「それならいっそ、最初からキャンピングカーみたいなのを作っちゃうとか?」
「面白そうやけど、あんまり重くなりすぎると騎獣で引っぱれんやろう。乗り心地はサスペンションを開発すればマシになるやろうけど、結局動力がネックや」
ついでにもう一つ思い違いがあった。皆は割と現実的に、馬車を改造してキッチンカーの車体を作って、騎獣で牽かせることを考えてるんだね。この世界の常識的にはそれが普通なんだろうけど――
「怜那、何か解決策でもあるの?」
「うん、バッチリ。キッチンカーを丸ごとトランクに収納すれば万事オッケー!」
「えっ!?」「はあ?」「ナンノコッチャ?」
「っていうか、もっと手っ取り早い方法もあるよ。ちょっと一旦外に出よっか」
ちゃぶ台とかを纏めて収納して、皆を促して外に出る。
一応、周囲の安全確認をしてっと。うん、問題無し。
「馬車モード」
トランクがニュニュッと巨大化して馬車モードに変形する。ただいつもの軽四倫サイズじゃあなくて、ハイ〇ースサイズね。
「当面はこれでいけるでしょ。秀が自分好みの拘りキッチンカーが欲しいなら、それはおいおい作っても良いし、それにしたってトランクに収納しちゃえばいいから旅をするのに問題は無いしね」
「ナ、ナンジャコリャー!」
「はいはい、そういうのは良いから、中に入るよ。外は寒いしね」
「ちょお待ってや、怜那さ~ん。芸人殺しのリアクションスルーはともかく、や。なんやの、コレは? 説明が足らん過ぎのんちゃうか!?」
「さっき言ったじゃない。トランクにはいろんなモードに変形する機能があるって。あと、なんでもいくらでも収納できるって言った……よね?」
おかしいな、説明したはずなのに?
首を傾げてると、舞依が私のローブの袖をチョンチョンと引っ張った。
「怜那、あのね。確かに説明は聞いてたけど、こんなに大きくなるなんて思ってなかったし、実際に見たときの衝撃はまた別だよ?」
「そういうもの?」
「そういうもの、です」
舞依が先生っぽい口調で断言する。うん、そういう舞依も可愛い。
さておき。みんなもこっちを見てウンウンって頷いてるし、きっとそうなんだろう。
考えてみれば、私の場合はいろんな機能が徐々に解放されて行ったから、トランクのトンデモ加減に徐々に慣れていったからね。いきなりあれこれ見せられたら驚くのもしょうがない。――楽器モードを見たらきっと笑うんだろうな~。
ま、なんにしても使える物は利用しない手は無いでしょ。まあ、トランクは私の物――っていうか、もはや私の一部ではあるけど、私だってクランの一員。トランクをクランの活動に使うことに何の問題があろうか。――いや、無い!(反語)




