#07-22 第一回クラン会議、はじまりはじまり~
髪と体を洗ってさっぱりしたところで、身だしなみをきちんと整えてから舞依と一緒にトランクの外へ出る。
「みんなお待たせ~……っていう程、時間は経ってないのか。ともあれ改めて、久しぶり、元気だった?」
「本当に久しぶり、怜那も元気そうでよかったわ。まあ、あんまり心配はしてなかったけどね?」
「えー? もう酷いなぁ。私は皆のこと心配してたのに」
「はーい、ダウトー。途中から忘れて全力で寄り道してたんでしょう?」
「ソ、ソンナコトハナイヨー」
「まあまあ、鈴音さん。たぶん怜那は怜那なりに急いでくれたんだと思いますよ。それで許してあげましょう」
「怜那なりには、ね。舞依がそう言うなら、私は別に構わないんだけど」
「もー、そんな事ばっか言う二人は、こうだ~!」
わーって感じで纏めてギューッとすると、二人とも笑いながらギューッと返してくれる。
「もう、なに~」「ふふっ、怜那ったら」
ああ、やっぱりみんなと一緒は楽しい!
――と、視界に秀と久利栖の姿がある。忘れてたわけじゃあないんです。単に優先順位の問題で――って地味にひどい言い種だ(笑)。
「あ、秀と久利栖も久しぶりー。元気そーだねー」
「ぞんざいっ!? ちょ、怜那さーん。感動の再会やねんから、もうちょい俺らの扱いも丁寧に……」
「あはは。まあでも、あそこに混じってハグするのはちょっとね。ともかく、怜那さんも無事で何より」
一頻り再会を喜んだところで改めまして。舞依の腰に手を回して寄り添ってと。
「今日から私と舞依は恋人同士でーす。今後はそのつもりでよろしく!」
そう発表と同時に舞依のほっぺにチュッとキスをする。
「うん、まあ知ってた」「今更感はあるかもね」「せやな、驚きは無いわな」
「えぇー……」
もうちょっとこう驚きとか祝福とかさぁ……、無いの、そういうの? 別に芸能人が籍を入れた時の記者会見みたいにとは言わないけど、その“オチを知ってるお笑いのネタ”を見る時みたいな反応はないと思う。ぶーぶー。
不満げな私とは対照的に、舞依は楽しそうにクスクス笑っている。――まあ、舞依が楽しそうならいいか。
「驚きは無いけど、祝福はしてるわ。良かったわね、二人とも」
「ああ、おめでとう」「リアル百合ップルやな!」
立ち話も何なので、テントの中へ。今までで一番大きなサイズにしたテントは、存在感もしくは違和感があり過ぎでちょっと笑っちゃったよ。今までは一人用サイズで十分だったからね。
人数分の椅子は無かったけど、舞依たちがクッションとかラグとかを持ってたからそれを並べてちゃぶ台を置いて、お茶を用意っと。
駄弁る時はお菓子だよね、ってことで異世界に持ち込んでた、ビ〇コに板チョコにブロック栄養食をバラバラと。――塩気のあるお菓子も持ち込んでおけばよかったかな~。
並べられた菓子類と綺麗なカップなんかに驚く舞依たちに、神様の手で神器化したトランクの機能をざっと説明しつつ、無人島に流れ着いてから大峡谷地帯を抜けるまでの経緯をざっくりと話した。
コダンさんたちヒッチハイカーを乗せた話は、今はちょっと後回し。ややこしい話になりそうだからね。
「――と、まあそんな感じかな」
「「「「…………」」」」
いや、リアクションプリーズ!
「いや~、僕らも結構密度の濃い日々を過ごしてきたつもりだけど、怜那さんと比べるとただの日常系四コマ漫画だったね」
「っちゅうか、やっぱ怜那さんは色々おかしいで。鈴木や増田さんらと顔合わせたないっちゅうんは……、まあ分かるにしてもや。農村エリアをぐるっと回るとか、連中を雇っとる貴族のテリトリーを避けるとか、やりようはあるやん?」
「まあ少なくとも、街を迂回して未開地を突っ切ろうなんて考えないでしょうね、“普通”は。舞依もそう思うでしょ?」
「えーっと……」
あ、ちょっと舞依まで。ススーッとさり気なく目をそらさないで!
「で、でも、鈴木君たちと顔を合わせたくないっていう気持ちは分かるよ。ずっと意識されてたからね、怜那は」
「意識されてたのは舞依と秀でしょ?」
「「「「えっ!?」」」」
「えっ?」
…………
ど、どうも認識に齟齬があるみたいだね。まあでも、いっか。彼らとは今後も接点を持たないようにすればいいだけだしね。
さておき話を戻すと。
私だって何も考え無しに未開地踏破ルートを選んだわけじゃあない。いつでもどこでも快適で絶対的な安全圏を確保できる、トランクがあったからこそだから。食料も十分すぎる程確保してたし、なんなら家庭果樹園もあるしね。
そういうわけで十分な勝算のもと、最短コースを選んだのですよ。
と、至極論理的に弁明――じゃなくて説明したっていうのに、なんですか? そのビミョ~に納得して無いような表情は。
え? トランクが無くてもそのルートを選んだんじゃって?
うーん……、それはどうかな? いくら私でも、魔物がわんさと生息する未開の山の中で、普通のテントでキャンプをする気にはなれないよ。たぶんね。
「あ、そうだ。トランクと言えば、秀の調味料類も増やしておいたから。醤油、味噌、味醂、カレー粉、バルサミコ酢にオリーブオイルも。預かっておいて良かったね。あと家庭果樹園で収穫したトマトとかアボカドとかも沢山あるよ。トマトってこっちじゃ滅多に売ってないんでしょ?」
トマトが沢山と聞いて、秀が目を輝かせる。トマトはそのまま食べるだけじゃなくて、ジュースにペーストにケチャップにと色々応用できるからね。
「さっき鉢植えで見たけど、やっぱりトマトだったか! 調味料もだけど、本当に有り難いよ。いやー、ケチャップにトマトソース……アラビアータなんかもいいね。いろいろ研究しないと! 楽しみだなー、腕が鳴るね!」
おおっ!? 秀がめっちゃハイテンションだ。っていうか、たぶんやるとは思ってたけど、ケチャップとか自分で作る気なんだ。
相変わらず秀の食への拘りは凄いね。将来は会員制の料亭――それこそ“異世界美食クラブ”とか作ったりしてね。




