#07-20 告白
白い空間の中に漂いながら、舞依と目を合わせてゆっくり口づける。
最初は唇の柔らかさを確かめるように、ゆっくりと、優しく甘く。
一度離れたら、次は何度も啄むように、短いキスをチュッチュッとわざと音を立てて繰り返す。
そうして舞依の目がトロンとしてきたら、また長く触れ合わせる。チョンチョンと唇を舌先でノックすると扉が開くから、中に侵入して、お互いに絡み合って、溶け合ってしまうような深く長いキスをする。
これが私と舞依のキスの作法。
久しぶりの舞依の味を堪能しながら、抱き締めている手をすすっと動かしてちょっと悪戯をする。形ばかりの小さな抵抗の声はそのまま飲み込んじゃう。
今までは友達で人目を気にしなきゃいけなかったから、余程条件が揃わないとここまでは出来なかったからね。
おっと、そろそろ舞依が限界かな。
唇を離すと、荒い息を吐く舞依がちょっと頬を膨らませてジトッと睨むから、チュッと軽いキスをしてご機嫌を取る。
話したいことは沢山あるけど、まず最初に言わないといけないことがある。
気持ちと表情を整えて、真剣に舞依の瞳を見つめる。
「好きだよ、舞依。愛してる。私の恋人になってくれる?」
花が綻ぶように、微笑んだ舞依が頷く。
「私も怜那の事が好き。愛しています。あなたの恋人にして下さい」
そっと瞳を閉じる舞依に口づける。
もうずっと前から、私たちはお互いの気持ちを知っていた。だからこの告白は、つまるところただの儀式に過ぎないんだろう。
でもあの日、舞依に嘘を吐くことを強いてしまったのだから、やっぱりここから始めなくちゃいけない。
――考えてみると、嘘を吐かせた挙句に、異世界にまで連れて来るなんて、我ながらなんて身勝手なんだろうね。しかも救いようのないことに、身勝手さを自覚しつつもこうなったことに全く罪悪感が無いんだよね。
罪悪感が無いことに罪悪感を抱くっていう妙なことを考えてると、不意に舞依がクスクスと笑った。
「どうしたの?」
「え? うー……んとね、もしかしたら私、告白と同時にプロポーズされるかもと思ってたみたい。それに気が付いて、なんかおかしくなっちゃったの」
あー、なるほどね。
「実は一足飛びに『結婚して下さい』って言っちゃおうかとも思ったんだけどね。でもせっかくだから段階を踏みたいじゃない? 恋人としてちゃんと付き合って、デートも沢山して、で、プロポーズする時にはちゃんと指輪も用意してってね」
「そっか。……うん、そうね。だったらとびっきり素敵なプロポーズを期待してるね、怜那」
「わ! ハードル上げて来るね」
「そのくらいは要求しても、罰は当たらないと思わない?」
――うん、そうだね。その通りだ。
「舞依、巻き込んじゃってごめん。舞依とのことをどうにかしようと考えてはいたけど、まさか異世界に来るなんて思ってなかった」
「ううん、それはいいの。ベストだったとは言わないけれど、この結果は私の望みでもあるから。……それに怜那は後悔してないでしょう?」
「全く後悔して無いところに、自分のひどさを再確認したところだよ」
「なぁに、それ。……でも、私も後悔はしていない」
きっぱりと言い切る舞依の瞳に、思わず見惚れてしまう。
普段は控えめであまり自己主張はしなくても、こんな風にいざという時には芯の強さを発揮する。そういうところが大好きなんだ。
舞依が私の両手を取って、絡めるように恋人繋ぎをする。
「怜那は私を巻き込んだって言ったけれど、この結果を引き当ててしまったのは私とのことがあったからよね? だったら私も巻き込んだ側よ。自分一人の所為なんて、寂しいことは言わないで。一緒に、背負うから」
「うん。二人で一緒に、だね」
私たちは両手を繋いだまま、誓いのキスをした。
長い長いキスの後。顔を離した舞依がキョロキョロと周囲を見回してる。感情の奔流が収まって冷静になったら、不意に今のこの状況が気になり始めたんだろう。
「ここはね~、私のトランクの中なんだよ」
舞依がパチクリとゆっくり瞬きをする。うん、可愛い。
「この中に居れば邪魔は入らないし、外から中の様子は絶対に分からない。ちなみに出ようと思えばすぐに外に出られるんだけど、今の舞依は私が捕まえちゃってるからそれも無理。……と、いうわけで」
舞依の目がキョトキョトと勢いよく泳ぎ出す。ふふっ、舞依は水泳も苦手なのにね――なんて(笑)。
「あ、あの、怜那?」
「ず~っと、舞依が足りない禁欲生活を送ってた私に、ギュッとしてスリスリだなんて散々煽ったんだから、責任は取って貰うよ(キュピーン★)」
「で、でもほら、外で皆を待たせてるから――」
「大丈夫! ココの時間を最大限に加速したから、じゅ~~ぶんイチャイチャしても外ではほんのちょっとしか時間は進まないよ。ほら」
一旦ウィンドウを開いて外の様子を見せると、鈴音たちがほぼ止まって見えた。
「これ、外の様子? 本当なんだ……」
「分かった? さ、もう観念しなさーい」
ささっと手早く服を脱がせていく。冬は着ているものが多い分、少しずつ剥いていく楽しみがあるよね。
「ま……、待って、怜那。その……」
「も~、往生際が悪いよ?」
「じゃなくって……」
舞依は私の腰に両手を回してぴとりとくっつくと、耳元に顔を寄せて――
「ちょっとなら、その……、前の時よりすごくしてくれても、いいから……」
「~~~~っ!!」
だから、なんでそう煽るかなぁ~。
後悔しても知らないからね、舞依?




