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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第七章 再会はトラブルとセットで>
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#07-11 これがテンプレ展開というもの




 現場に駆け付けた私たちは、まず牽制にオオカミの群れに多数の魔法を放ちます。精度は気にせずに打った魔法ですが、二~三体は斃せたようです。


 群れが混乱している隙に秀くんと久利栖くんが一気に距離を詰め、馬車を護衛している二人とオオカミの間に滑り込みました。


「お主たちは……?」


「細かい事は後で。助太刀します」


「済まない、助かる。が、我らよりも馬車を……」


「そっちも問題無しや」


 秀くんたちよりもほんの少し遅れて――魔力で身体能力を強化すればスピード自体は出せます。直線限定ですけれど――到着した私は、馬車全体を覆うように防御結界を張ります。


 念の為に二人に解毒の魔法を軽くかけると女性の方に手応えがあったので、出力を上げて毒を抜きます。――かなり強い毒だったようですね。悪意と殺意に眉を顰めてしまいました。


「ありがとうございます。助かりました」


「こちらは任せて下さい。オオカミの方に注力を」


 馬車の護りを気にする必要がなくなり、戦力も増えたことで戦況は一気に好転しました。


 連携して波状攻撃を仕掛けてくる十数体ものオオカミの群れは、王都の中に居る魔物としては最強クラスで、普段の私たちだと厄介な魔物ですが、今は前衛が二人多い状態です。秀くんと久利栖くん、そして馬車を護っていた二人がそれぞれ二人一組で戦い、回り込もうとするオオカミは鈴音さんと私が牽制をするという形で、確実に仕留めていきます。


程なくしてオオカミの群れは全滅しました。


 ちなみに戦闘中、馬車の護りには私がずっと付いていましたが、護衛の二人は馬車から一定の距離以上離れようとはしませんでした。信頼関係が無いのはお互い様ですからね。護衛としては当然でしょう。


「さて、オオカミは片付きましたが……、一体何があったんでしょうか?」


「説明したいところなのだが……、一刻も早く、この場を離れた方がいい。魔物を引き寄せ、好戦的にさせる薬が……、撒かれているのだ」


「そんなものが?」「そういうカラクリかいな」


 考えてみると、オオカミとの戦闘も少々様子が変でした。通常、魔物たちは戦況が圧倒的に不利になるとは撤退を試みます。特に群れとの戦いだと、直接戦闘に参加していない個体は速やかに離脱してしまいます。仲間よりも自身の生存本能を優先するのです。


 今回のように一体残らず全滅するような戦闘になることは、普通有り得ないのです。


「私たちのことは、構いません。馬車の……、お嬢様たちを……」


「助け出して、欲しい……」


 そう言い残すと、二人は意識を失いました。


「ちょ、おっちゃん!? ねーちゃんも!」


「……大丈夫、意識を失っただけみたいだ。気力で戦い続けてたんだろうね」


 見たところ二人とも致命傷は無さそうです。沢山ある怪我は、魔法で治療してしまいます。


「……これで大丈夫でしょう。ただ魔力と疲労が回復するまでは、お二人とも目が覚めないと思いますけれど」


「必死だったのねぇ……。それだけ馬車の中の人が大事ってことよね」


「だろうね。中を確認したいところだけど……、女性みたいだから鈴音と舞依さんでお願いできるかな?」


「……こんな時でも気遣いを忘れんとは、秀は紳士やなぁ。……ほんなら俺は他の生存者がおらんか確認して来るわ。望みは薄い思うけど、一応な」


「頼む。僕は周囲の警戒をしておく」


 私と鈴音さんは横倒しになった馬車によじ登り、念の為に扉をノックして呼びかけました。――が、当然の如く返事はありません。


 アイコンタクトを取ってから扉を開き、中を覗き込みます。薄暗い車内には、シンプルなドレスに身を包んだ少女が二人、折り重なるように倒れていました。


「あなたたち大丈夫? 聞こえるー?」


 声かけは救助の基本ですからね。無駄だろうとは思ってもちゃんとやります。――やはり返事はありませんね。ただ魔力の反応はありますから、生きているのは確かです。衝撃と恐怖で気を失ったのでしょう。


「中の様子はどうかなー?」


「要救助者が二名、意識は無し、見たところ外傷は無いわ。二人とも小学二~三年くらいの女の子ね。それにしても顔がそっくり。双子かしら?」


「もしかしたら頭を打っているかもしれません。念の為、治癒魔法を掛けておきます」


「分かった。それが済んだら、二人を一旦馬車から出そう。鈴音と舞依さんでできるかな?」


 どうでしょうか? 魔法で強化すれば子供を持ち上げること自体は容易でしょうが、馬車の横幅――横倒しになっているので、現状では高さですね――が一六〇センチくらいあるので、持ち上げて、上で受け取るとなると……。


「……できなくはないと思うけど、ちょっと大変そう。っていうか、久利栖のマフラーを使えばいいんじゃない?」


「あっ……、そうか。そういう使い方もできるか」


 私が馬車の中に入り、二人に治癒魔法を掛けてから無理のない姿勢に寝かせていると、久利栖くんが戻って来ました。


「ほんじゃ舞依さん、お嬢ちゃんをお姫様抱っこしてくれるか?」


「分かりましたー」


 私が女の子を抱き上げると、久利栖くんがそこへスルスルとマフラーを伸ばしてきて、グルグル巻きにします。そしてそのまま馬車の外へとゆっくり引き上げていきます。


 普段は武器を持たせたり盾代わりにしたりと、主に戦闘時に使用しているマフラーですけれど、このような使い方もできるのですね。女神様から頂いたアイテムだけあって優れモノです。




 それにしてもこの状況って……








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