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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第七章 再会はトラブルとセットで>
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#07-08 閑話 実録、巷で噂の屋台(前編)




 王都での商売も軌道に乗り、最近の私たちには生活パターンが生まれていました。


 大体、二日かけて狩りなどで食材を調達、下拵え兼休養で一日おいて、二日間の屋台の営業をします。そして完全休養日を一日という形です。こちらの世界では一週間が六日なので、それに合わせた形ですね。


 拠点として借りている家の手入れ(リフォーム)をする時や、情報収集やクランに必要な物資の買い出しをする時などはこの予定の限りではありませんが、概ねこのスケジュールで活動をしています。


 食材を普通に仕入れることで、屋台の営業をもっと増やすことも可能です。と言いますか、営業自体もお昼から二時間ほど――商業区の人々は仕事の休憩も兼ねて昼食をちゃんと取ります――と短めで、売れ行きによってはもっと短くなることもあります。そちらももっと伸ばすことが可能です。


 収入を考えればその方がいいのですけれど、様々な事情から今の形に落ち着いています。


 端的に言えば、ちょっとやり過ぎてしまったのです。主犯は秀くんですけれど、私も含めて全員が協力していたので――同罪ですね。







 屋台街はスペースを確保して全体を統括している商会――複数の商会で共同の場合や領主の場合もあります――があり、出店するには登録が必要となります。


 登録には当然登録料が必要で、それとは別に営業する日ごとにスペースの使用料と屋台のレンタル料がかかります。日ごとの使用量が少々高めで、その代わり売り上げの何割を収めるというようなシステムはありません。


 なお、このシステムはマーリンネで調べた情報と大差ありませんでした。この世界(国)では一般的なやり方なのでしょうね。


 一方で、商会は使い捨て出来る器や簡易包装の素材を、登録業者向けに販売しています。幹の表皮が薄く剥がれる木があるそうで、器はそれを簡単に加工したものです。包装素材の方は大きな葉っぱを乾燥させたもので、紙と同じように使えます。


 器は大小・形状各種数種類あり、お弁当箱(ランチボックス)風のものもあります。軽く丈夫で短時間なら汁物を入れることも出来、とても便利なのでテイクアウト型屋台のほぼ全てで使用されています。なかなか上手い商売ですね。


 屋台は統括する商会によるランク付けがあり、ランクが上がれば広いスペースや人通りの多い場所を使えるようになります。もちろん登録料・使用料は相応に上がりますが、売り上げを伸ばすには必要な経費でしょう。


 私たちの屋台は現在、最低ランクから二度ランクを上げています。五段階なのでちょうど真ん中ですね。――その時点で意図的に営業時間(販売数)を調整して止めている状態です。







 私たちは手始めに、調理が簡単で数を出せてかつ手軽に食べられるということで、唐揚げとコロッケを出すことにしました。揚げ物で無双するのもテンプレ――なのだそうです。それはピンときませんでしたが、揚げ物の匂いは集客効果もありそうですからね。反対する理由はありません。


 秀くんが念入りに味(スパイス&ハーブ)を調整した魔物肉の唐揚げは絶品で、かなり強気な値段設定にも拘らずあっと言う間に話題になりました。一方、コロッケもサクサクでソース無しでも美味しい味付けになっていて、比較的安価なこともあり、こちらも大人気でした。


 時々バリエーションというかサプライズ的なメニューとして、フライドチキン風の骨付き肉を出したり、コロッケのひき肉マシマシバージョンを出したりもして、そういう遊び心も人気に繋がったようです。ちなみにメンチカツに関しては「まだその時ではない」そうです。


 人気が出れば当然模倣する店も出てきます。屋台では調理法を秘匿するのも難しいですからね。高温の油で調理する点が難しかったようですけれど、とある魔道具工房が揚げ物用のコンロを新たに開発したことで、屋台街に一気に揚げ物店が増えました。


 と、ここで秀くんは揚げ物というジャンルはそのままに、全く異なるものを投入しました。


 炭水化物とお砂糖と油の罪深いハーモニー。そう、ドーナッツです。用意したのは表面がザクザクとした食感のオールドファッションと、少しモチッとした生地のシュガーグレーズの二種類です。


 油で揚げるという調理法が新しいものである以上、王都の人達には揚げ物=主菜にもなる料理という図式が出来上がっていました。そこへスイーツの登場です。屋台街に衝撃が走りました。


 ちなみにドーナツは街で入手できる食材だけで完成するので、この時期は一時的に狩りはお休みしていました。その分屋台の営業時間は長めでした。


 屋台街は基本軽食の販売がメインで、スイーツの類は殆どありません。ジュースやチャイに似た甘いお茶を出す店や、フルーツを売る店があるくらいでしょうか。そこに登場したドーナツの屋台は瞬く間に話題になり、飛ぶように売れました。


 有名ドーナツチェーン店の大きなボックスがありますよね。容量的にあの二箱分くらいを纏めて購入されていく方が結構いました。流石にお一人で食べるわけでは無いと思いますが、ちょっとお腹周りが心配になる量です。


 そうこうしている内に屋台街に揚げ物が定着してきました。フィッシュフライやかき揚げのような物を独自に開発して人気を博する店も出てくる一方、コスト的に見合わないために――この世界では油が結構高いのです――元のメニューに戻る店など、悲喜交々があったと聞いています。









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