#00-01 プロローグ
久しぶりの投稿です。
どうぞよろしくお願いします。
ちゃぷん―― ちゃぷん――
水の音が聞こえる。ゆらりと揺れる感覚と……、それにこれは潮の香り?
夢でも見ているのかな……?
そう思ったところで、いつの間にか眠ってたことに気付く。
ええと……、そう、今日は二泊三日の校外学習の初日で、夜明け前にクラスで一つのバスに乗り込んで、目的地のキャンプ場に向かうところだったんだ。ちょっと眠かったけど、隣の舞依とお喋りしてたらそんなのはすぐに吹き飛んだ。
あれ? 舞依とお喋りしてたのに寝落ちした? 私が?
早起きして眠かったのはそうだけど、うーん…………
違う、そうじゃない。確か……バスが山に入って目的地まであと一時間くらいって時になって、突然凄い揺れがバスを襲って……っ!!
「舞依! みんな!?」
思い出した瞬間に一気に目が覚めた。ガバッと身を起こして周囲を見回す。
「…………」
へー。人間って驚き過ぎると本当に絶句するのか。貴重な経験だね。
――な~んて、どうでもいいことを考えてしまうくらいには混乱してる。
私たちの乗ったバスは間違いなく何かの災害に巻き込まれた。それを確信させるだけの衝撃だったし、七五三掛の家系の体質を考えれば間違いないはず。
幸いなことに体に異常はない。目が覚めたばかりなのに頭もスッキリしてるし、体調も万全――を、通り越してなんだかすこぶる調子が良い。というか、良過ぎて違和感があるくらいでちょっと気持ち悪い。なんだろう、コレ?
ま、それも気になるけど、もっと問題なのはこの状況の方だよね。
改めて周囲をぐるりと見渡す。
見える範囲内に友達もそれ以外の人の姿もない。私たちが乗ってたバスや、その残骸らしきものも無い。
というか、何も無い! 道路も、山肌も、森も、何も!
見渡す限りの大海原!
――あ、割と近いところに島が一つ見えたから、見渡す限りはちょっと言い過ぎだった。それはさておき。
海ってどういうこと? 百歩譲って仮に衝撃でバスから放り出されて、奇跡的に無傷で済んだとしても、あの山のどこかではあるはず。
それともなに? どう見ても海――潮の香りがするからね――だけど、日本の山奥に知られざるカスピ海並みの塩湖があったとでも? いやいや、有り得ないから。
「なんなの、これ……」
図太いとか、心臓に毛が生えてるとか、イイ性格をしてるとか友達に言われることがあるし、自分でもちょっとは――あくまでもちょっとね――そういう面があるかもとは思うけど、大海原にポツンと一人で漂流っていうのは流石に途方に暮れる。
漂流? そういえば、私は一体何に乗って漂流してるんだろう?
そうだ、先ずは現状が安全なのかを確認しないと。今まで海にばっかり気を取られてて、全く気が回ってなかった。反省、反省。
さて、少しは冷静さを取り戻したところで視線を下に向ける。
え~…………っと。
これは一応、筏かな? うん、少なくともボートではない。それから筏とは言っても丸太とか竹とかをロープで繋いだものじゃなくて、表面がつるりとした樹脂製でかなり丈夫そう。ちなみに色は暗めのグレー。
まあ、今にも沈みそうって感じではないからその点は良かったけど……
コンコン
表面を軽く叩いてみる。
この感触……。やっぱりコレって私のトランクだよね? 二メートル四方くらいあるけど。真ん中らへんに見慣れたハンドルもあるし。
まあ確かに? 私愛用のトランクは結構ハイスペックで、軽くてすごく丈夫だし、いざって時には浮き輪代わりになるくらいの密閉性があるってカタログには載ってたよ?
だけどまさか巨大化して筏になるとは知らなかった。こんな隠し機能があったなんて。
「って、そんなわけないでしょ!」
ビシッ!
右手が空しく空を切り、ツッコミが潮風に流されていく……
――コホン。間違った。こういうのは久利栖の担当で私じゃあない。えーっと、まだ冷静になり切れてないのかな。うん。
あ、ハンドルのところに何かがある。本――じゃなくて冊子かな。薄っぺらいから。
筏がどのくらい安定してるのか不安だから膝立ちでヨチヨチと移動して、冊子らしきものを手に取る。この状況の手掛かりになるような物ならいいんだけど。
「……まさか、そう来たか」
ホチキス止めされた手作り感のある冊子の表紙には、
<異世界転移のしおり>
と、書かれていた。
――いやいや。修学旅行じゃないんだから。
本日はこの後、15時と18時に投稿します。
その後は当面(=ストックのある内)毎日12時に投稿予定です。
本当はタイトルに「だけ」を付けたかったんですが……(笑)