第7話:白き影の暗殺者
注意
今回の話で、人によっては不快に思われる描写もあるので注意してください。
どうして人は互いを憎むんだろう───私がドラマか何かで聞いた台詞だ。
国同士の溝って簡単に埋まるわけでは無いし、その国風や国民性によっても違う。正直なところ、私が今回戦った相手はその台詞を連想させるような出来事だった。
私は学校で橙子と話していた───とは言っても、彼女の方が結構話してて、私は聞き手に回る事が多い。正直言って、私のような陰キャでも付き合ってくれる彼女には頭を下げるばかりだ。
ちなみに今日の会話はどんなものかと言うと、ある国のドラマやアイドルについてで、私はあまり興味はなかったものの、別に苦ではなかった。
しかし、私達が話している時にある声が聞こえた。
「───、死ね!!」
それは教室の一箇所から聞こえて、そこには一人のクラスメイトがある国について暴言を言っていたのだ。
彼の名前や外見については個人の尊重もあるから言わないんだけど、ぶっちゃけ私は彼について胸糞悪い人だと思っている・・・そんな事言うのはヒーロー失格かもしれないけど。
そのクラスメイトは結構変わってる男子で、悪く言ってしまうと危ない人だ。
そんな感じの事があってか、その日の下校中はとても気まずかった。
特に気まずいのは橙子が少しイラッとしている事で、それでも彼女は私を帰りに誘ったのだから正直この時間がとんでもなく辛かった。
「何なのアイツ・・・」
「何だろうね・・・」
正直なところ、差別なんてある意味当たり前なのかもしれないし、私もその国の全てが好きとは言えなかった。
私達が住んでいる国とあちらの国は過去の歴史もあってか仲が悪い。確かにニュースやネットでの知識でしか無いから、直接会えば印象もガラリと変わるだろうなぁ・・・
そんな事を思いながら歩いていると、ある声が微かに私の耳へと入った。
その声は叫び声───と言えばいいのか、とにかくそれは男の叫び声だった。
私は用事を思い出したように橙子へ別れを告げ、彼女は怒りが冷めてそんな私に困惑していた。
路地裏でコスチュームに着替え、リュックは盗まれなさそうな場所に隠す。これで準備万端だ。
私は叫び声によく耳を澄ませてその方向を割り出した。
その場所に行くと、そこに居たのは尻込みしている太った眼鏡の男と、その前に立つ白い格好をした人物だった。
よく見ると、手には刃物を持っており、完全に殺す気だ。
私はすぐに浮遊して急接近するが、その人物はその場から走って逃げていく。それでも私は追いかけた。
本当はもっと速く飛べば追い付けると思うが───この時は7月で暑いから、どんどん私のエネルギーを奪っていく・・・これ言い訳じゃないから、本当だから。
相手は路地裏に逃げ、そのまま住宅街の方へ入っていく。私の追跡を逃げる時に、障害物があるものの、相手はアクロバティックに飛び越えたりして避けている───俗にいうパルクール状態だ。
ただ、その動きにうっとりする場合ではない。何故ならアイツが逃げてしまうから。しかも、こんな夏場に長袖フードなんて絶対只者じゃないでしょ。
迷宮のような住宅街に入り、私は辺りを見渡すが、どこにもいない。撒かれたかな、と思いつつも諦めることができない私は耳を澄ませるが───うるさっ!!
今が夏場ってことは蝉の鳴き声・・・それが私の耳を刺激する。私は澄ませるのをやめて帰ろうとした。
しかし、その先に何か白い影───『えっ、くねくね!?』って思った人、冗談やめてよね・・・私もこの時思って鳥肌立ったけど、正体は"奴"だ。
舐めプなのか、私もそうかもしれないけど・・・とにかく私は気合いを入れて急接近を試みるが、奴が構えると同時に"何か"が飛んで来た。
その"何か"を避けようとするが───運悪くそれが右頬を擦った。
切られた痛みが右頬に走り、私は悲鳴を上げて地面に降りる。その頬に触れると、血が出ていた。
刃物で切られた痛みが私にとって中々に辛く、しかも今までノーダメージが多かったせいか、涙目になる。だって痛いんだもん。
私の近くには血の付いたナイフが落ちており、それは両刃で掴む部分の穴には、紐───じゃなくてロープがきつく巻かれていた。
そのナイフを取ろうとするが、すぐそれは奴の手元を引き寄せられた。
自分の武器を取った奴は、私に近づくや否や、湾曲したナイフを両手に装備した。
そして、涙目になって睨みつける私を蹴り倒してしゃがみ込むと、何かを言う。声からして男なのは間違いなかった。
「너는 누구야?」
私はどう見ても日本語じゃないその言葉に驚きを隠せない。今までの敵は日本語通じていたのに、急に別の言語はきついって。
全然何言われてるのか分からない私は、先程の傷を付けられたせいか、完全に恐怖していた。
「글쎄, 좋아, 방해한다면여자일지라도 너도 죽일거야.」
その人物はナイフを私の首に近づけ、私は狼狽えた。
「待って、やめ───」
「나쁘지 않다」
私を殺そうとしたその時、何処からか悲鳴と犬の鳴き声が聴こえると、奴は舌打ちをして何処かへ走り去っていった。
危機が去ったものの、私は暑さと痛さで倒れており、流れる汗が傷に入ってしみる。本当に泣きそう、リストカットだけは絶対やるなって、この傷が教えてくれているような感じだ。多分私には耐えられない。
それからしばらくして、私はふらふらのまま彷徨うとすぐ家に行き着いた。
どうやら先ほどの住宅街、追跡に夢中だったから分からなかったけど、私の家に近い町内だった。
まぁ、それは良いとして・・・泣きながら家に帰ろうとした私を誰かが捕まえてそのままバンに乗せられた。
私は傷をつけられて恐怖したのか、錯乱状態になっていた。
「やめて、殺さないで!!」
「落ち着け"未可矢"!!」
自分の名前を呼ばれ、私は正気に戻るが、その後口に酸素マスクを付けられて意識を失った。
その後、私が目覚めるとそこは病室のようで、またベッドに眠っていたようだ。
「ここは───」
「目が覚めたか?」
そう言われてビクッと来た私は咄嗟に腕をベッドから出して声の主に構えると、その主は藤堂さんだった。
「おい・・・落ち着け」
彼は両手を上げて、私の腕を下げるようジェスチャーする。完全に私は恐怖していたようだった。
恐る恐る私は腕を下げ、緊張を解く。頬の傷は眠っていた最中に瘡蓋まで治ったようで、そこにはガーゼが貼られていた。
「何があった?」
彼からそう言われ、私は事の経緯を話す。白いジャンバーを着て顔をフードで隠した謎の人物がナイフで人を襲っていた所を目撃した私がそいつを追跡するが、途中で迎撃された───まで伝えるが、一番重要そうな"日本語以外の言葉"で話していた事を最後まで伝えた。
「───日本語以外の言葉、か」
「はい・・・私には全く分からなくて、とにかく英語では無かったと思います」
彼はそれを聴いて『うーん』と考えた後、私にこう言った。
「とにかく、この件は君のマスクに搭載されている"ログ"を確認して調査しよう・・・傷は痛むか?」
彼の気遣いに、私は『痛くない』と言った後、表情を暗くして謝った。
「すみません・・・あの時、私が取り押さえる事が出来れば───倒すことができれば・・・!」
痛みの恐怖に負けてしまい、取り逃した事で私の中では不安と悔しさが滲み出てしまった。
「未可矢───」
そんな中、ある人物がこちらに悠々と入ってきた。
「・・・あ、お邪魔したかしら?」
その女性はそう言うが、私は誤魔化すように首を横に振った。
彼女は私のリアクションに安心するが、藤堂さんは気まずそうにしていた。
彼女の名は"竜田美津子"、ミステリアスな女医さんとは彼女の事で、ワンレングスって言う髪型をした綺麗なお姉さん・・・何だけど、ちょっと怖い。
彼女は私に傷の具合を訊き、大丈夫だと告げて彼女は再び安心した。
「良かった、今まで注射針を打つことすら出来なかった貴女が傷を付けられて心配だったけど、"内面はまだ"だろうけど外見的な傷が治ったようだし、"採血できた"事も嬉しいわ」
それを言われて私はドン引きする。確かに図星を突かれた事もそうだが、何よりも"やっと採血できた"と嬉しそうにしているのだから普通に怖い。隣の藤堂さんも引き気味の表情してるし。
「あっ、ちなみに貴女の血はカレンちゃん達が今調べていると思うから、やっと貴女の身体のメカニズムについて知る事ができるわね!」
「はい、そうですね・・・あはは」
怖すぎて非戦闘系のヴィランじゃないかと疑ってしまうが、大丈夫。ちゃんとした味方です。
その後、私は家に帰してもらい、隠した荷物も回収。その後は親に怒られそうになったが、何故か疲れていた私は、そのままベッドに直行して寝た。
そして翌朝、私は普通に学校へ行く前にガーゼを取って傷を確認する。もう傷は完治したようで、跡も目立たずに済みそうだった。
学校に入り、橙子から私の表情が暗い事を指摘されるが、すぐ誤魔化す。やはりあるクラスメイトは声高らかにある国を罵倒していた。
人間は自分の見たいものしか見ない───私にとって正直どうでも良い話ではあるが、この時の自分は、白いジャンバーの人物が悪い奴であって欲しいと願っていた。
そして休みの日、私が張り込みをしていると兄に出くわした。
ただ、運良く私には気づいていないようで一安心だったが・・・この時、兄が聞き込みしている相手に対して見覚えがあった。
その人物はザ・ボマーに命を奪われた木下巡査の奥さんで、兄は申し訳なさそうに家へと入れてもらっていた。
気になる所だし、私の知る限り、兄は下心を持つような人間では無いと思うが───とにかくこのまま様子を見てみようと張り込んだ。
それから数十分に渡り、やっと出てくる。その間私は"スウェット"と言うスポーツドリンクを飲んでこの暑い夏を乗り切っていた。
木下家から出た兄が何処かへ帰ろうとしていたので、私が彼の背後に付いて話しかけた。
「ビハインドユー」
耳元で囁いたまではいいものの───予想に反して彼は驚くどころか私の胸倉を掴んで一本背負いした。
不意に投げ飛ばされた私は、受身する暇なく地面に叩きつけられた。
「痛ったぁ・・・」
「誰だ・・・って、お前かよ!!」
彼は相当私に驚いていたが、むしろ驚くべきは私だよ・・・声出さず無言で一本背負いは怖いってば。
私は立ち上がってコスチュームについた砂埃を払った後、本題に入った。
「どうしてわざわざあの人の家の中に?」
「ああ、その事か・・・」
彼は周りを確認した後、私について来るよう耳打ちした。
彼について行った私は、一緒に公園のベンチに座って話をするが、彼の口からは驚くべき言葉が出た。
「・・・木下は警察学校時代の友達で、アイツの奥さん───華は元々韓国から来たんだ」
「えっ、そうだったの?」
「まぁ、2人が結婚するまでに色々あってやっと結ばれたと思ったのにな・・・」
「相当、大変だったんだ・・・」
「まぁな、日本と韓国ってあんまり仲良くないから、特に華の両親は特にヤバかったらしくて───」
そう言いかけるが、話が脱線していた事に気付いた彼は我に返って話を変えた。
「話が脱線した。それで何だが・・・実は彼女が"ストーカー被害"に遭ってるんだ?」
「ストーカー? 美人さんだから?」
「それとは違う。なんて言えばいいのか・・・とにかくヤバい奴かもしれないんだ。しかも"2人"いる」
彼はストーカーだと言われている2人の詳細を言う。1人は誰か分からないものの、木下家に殺害予告やヘイトスピーチ的な物を送りつける人物で、もう1人はなんと───白いジャンバーの人物だった。
この時の私は『マジかよ』と思ってしまう。白いジャンバーの人物はどう見ても、ストーカーの類じゃないでしょあの身のこなし。
まだまだ情報を聞き出そうと思った矢先、私に通信が入る。どうやら本部のようだ。
ため息を吐きながらも、私は名残惜しそうに彼へ別れを告げた。
そして本部へと行き───私は会議室である映像を見ている。それは白いジャンバーの人物に迎え撃たれた時の映像で、私視点で映っていた。
その映像を停止させ、スーツ姿の若い男女が解説を始める。男性の方は"岸田正司"という頼りなさそうな感じの人で、女性の方は"世良美咲"というしっかりした感じの人だ。
「───このように、レディブラストを襲った人物の声や言語を解読した結果、"韓国人"である事が分かりました」
「韓国からの犯罪者とか?」
「まぁそれが近いね。ただ、ちょっと"ヤバい情報"を小耳に挟んで」
「勿体ぶらずに言ってくれ」
腕を組んでいた藤堂さんが急かすと、岸田さんは一呼吸置いて言った。
「───奴の正体は"白影"です」
その言葉を聞いた私は首を傾げていたが、藤堂さんは深く考えるように唸った。
「・・・しかし、白影の組織は韓国の支部が独断で壊滅させたと聞くが?」
「そこが不思議なんですよね・・・恐らく、残党がいたのかもしれないですね」
その会話に置いてきぼりを食らっている私は手を挙げて質問した。
「私よく分からないんですけど、白影って何ですか?」
それを聞いて、美咲さんは解説を始める。ペクヨンとは、韓国語で"白い影"と呼ばれているらしく、ある暗殺者の組織名でもあった。
構成されているメンバー、即ち暗殺者達は白い服を着ており、向こうの国では恐怖でしか無かったそう・・・まぁそれを向こうのI.S.M.A.が軍や警察と結託して壊滅させたようだ。
話が終わり、今回のヴィランが決まった私の戦意は高まるが、その前にカレンさんに呼び止められた。
どうやら私の血液を調べた結果が出たようで、私は固唾を飲んで聴いた。
私の能力、それは本当にエネルギーを操る能力で、それだけ聞くとチートっぽいが残念・・・これ自分の身体だけです。
確かに能力に目覚めてから、滅茶苦茶食べるようになったし、何より太らない。何故ならヒーロー活動をしている時に出す技などで放出されるからだ。
だが、この能力は自分のエネルギーを消耗する為か、消耗し過ぎると超人的な能力が一時的に使えなくなったり無くなったりする為、そうなると身体に傷が出来やすくなるようだ。
簡単に言えば、疲れると弱体化するって事。後はそれぞれの考察に任せるよ。
自分の体の仕組みもわかった事だし、夜中に私がまた現場へ行くと───案の定、奴がいた。
私はこっそり近づいて背後を取るものの、白影は私に平刃ナイフを投擲した。
だが初戦時とは違い、今の私にはエネルギーが有り余っている。多分余裕だろうと高を括っていたが───実際は違った。
投擲されたものを避けた私はサウンドブラストを撃とうとするが、敵が腕を引くと私の後頭部に何かが当たった。
痛くはないんだけど、当たったものに気を取られてしまった私はすぐに距離を詰められた。
その事に気付いて私は腕を構えるが、奴は屈んで回避した後、私の足を払うように蹴り飛ばされて、私は転けた。
そのまま地面に転けたものの、腕を構えてサウンドブラストを放つが、その腕を蹴り飛ばされたせいで、光線は暗闇の空に飛んでしまった。
「방해하지 마라.───おい、お前」
白影は私の腕を踏みながら言う。しかも途中で急に日本語になったし、喋れるんだ・・・
「俺の邪魔をするな、と何度も言った筈だ。死にたいのか?」
「邪魔って・・・あなたの"ストーカー活動"を邪魔しなきゃ、苦しむ人が居るんだよ」
私がそう言うと、奴は眉間に青筋を立てながら言葉を返した。
「"お前が邪魔するせい"で死ぬ人がいたらどうする?」
その言葉を言われて木下巡査の死を思い出した私だが、認めたくないのか、二度も言われたくないのか、私はキレてしまった。
「いい加減分かってる!!」
私は奴の足を振り払った後、感情に身を任せて敵を攻める。ただ、近接戦が苦手な私にとってはそれが敗因となった。
案の定、エネルギーの消耗が激しくなり、疲労で躓いてしまった隙に、後ろに回り込んだ白影はロープで首を絞めた。
呼吸ができず、体内のエネルギーが循環されないような感覚を覚える。このままでは死ぬと思って抵抗するものの、結局叶わずに意識を失った。
───それからしばらくして、私が目覚めると、私はどこかの建物にいた。
拘束されているわけじゃないから本部のように思ったが・・・どう見ても今いる場所が居間に感じた。
「ここは・・・」
だがここで私は自分の顔にマスクがない事に気付き、焦った。
「〔ヤバい、バレちゃったよ・・・〕」
一巻の終わりだと焦っていた私の前に、ある人物が来た。
そう、私を家に入れたのは木下華さんで、私は戸惑いと焦りを見せた。
「ごめんなさい・・・でも、あなたの正体は秘密にするわ。約束する」
違う、そこじゃない。私は正体がバレた事よりも、彼女の旦那さんを見殺しにしてしまった事をどう思っているか気になっていた。
「あの・・・」
私は震える声で深々と頭を下げた。
「すみません・・・」
彼女は何故、私が謝るのか不思議そうにしたが、何かを察したように顔を俯かせて言った。
「貴女は、罪を感じているのね・・・」
「本当に、申し訳ありません───」
私がいくら謝っても、彼女の旦那さんが戻ってくる事はない・・・それは分かっている。だけど、こうして面と向き合うと、どうすればいいか分からなかった。
緊張と怯えにより感情が昂ってしまい、私は泣いてしまった。
そんな私に、彼女は背中に触れて寄り添うように話した。
「・・・あの時を貴女は見殺しにしたと思うけど、貴女のせいではないわ」
「でも・・・」
「彼、貴女がテレビでインタビューを受けてた時に言ってたのよ。『秋津市にヒーローが現れて誇りに思う』って」
「確かに、和也さんは貴女を嫌っていたけど・・・それでも、浩二は貴女を信じていたわ」
「でも、私は彼を見殺しに・・・」
「見殺しにしたなんて思ってないわ。だから貴女は責めなくていいの。それに・・・"仇を取ってくれた"から」
「私、仇なんて・・・」
「多分、貴女の言う仇は人殺しの方だと思うけど違うわ。そんな事、あの人も望んでないし・・・」
初めて別の国の人と話したが・・・私の印象は逆転していた。
ネットやニュースで見ると、私達の国を嫌っているようにも感じたが、こうして直接会って話してみると、国柄や人種なんて関係なかったんだと思えた。
ちなみにこの時はもう朝───まぁ休みの日だったから良かったものの、学校だったらマジでヤバかった。
その後、私は華さんの手料理を食べる。その時に私は本名を名乗ると、彼女は驚いていた。
「立花未可矢・・・? もしかして、和也さんの妹さん?」
「はい」
「そうだったのね・・・! ちなみにお兄さんは貴女の活動を知ってるの?」
「いいえ、兄どころか家族には秘密にしています」
ちなみにこの後、兄が何をしていたかについて訊くと、どうやら彼は被害の話もしたが、ちゃんと仏壇の前で拝んだようだった。
私もちゃんと木下巡査を拝んだ後、彼の奥さんから被害の話を訊いた。
「・・・すみません。不快な話をするかもしれませんが、ストーカー被害に遭っていると兄から聞いて」
私がそう話すと、彼女は表情を暗くさせて話を始めた。
どうやらテレビに出た直後、彼女を特定したのかは分からないが、ある手紙が来るようになってしまったようで、その内容が特に酷かった。
胸糞が悪くなるぐらいに酷く恐ろしい───書いている内容は簡単な罵倒から、人間性を否定する言葉、それに『お前の夫は死んで当然だった』などと、何をどうしたらそんな事を思いつくのか分からなかった。
これを送った人が相当恨みがあるとか・・・なんてそんな感じではない。これは完全に犯罪だ。
被害に心当たりがあるのか訊くものの、彼女は首を横に振り、身を震わせた。
「・・・確かに、私達の国は貴女達の国を嫌っているからこうなって当然かもしれません」
「ただ、それでもこれは酷すぎる・・・」
この時私は絶対にこの犯人を捕まえようと決意したが、そうなると白影は何なのか気になった。
「・・・お訊きしたいのですが、白いジャンバーの人物に見覚えはありますか?」
しかし、その質問に対しては不思議そうな表情を私に向けた。
「それは分かりませんね・・・近所の知り合いから聞いて気付いたので」
「実はその人、華さんと同じ国の言葉使ってて・・・不快な事言ってすみません」
そんな話をしていると、マスクの方から着信音が鳴り、私はマスクを被った。
「すみません、ちょっと電話が・・・」
「大丈夫ですよ」
私は彼女に感謝して通信を開くと、藤堂さんからだった。
「あっ、今ちょっと取り込み中で・・・」
『未可矢・・・お前に"訓練"を実施したいんだが、いいか?』
彼は訓練について言い、気になった私は了解して通信を切った。
「すみません、ちょっと用事が・・・助けて頂きありがとうございました。ただ、私の正体については秘密で・・・」
彼女は『はい』と言って私は安心するが、歩き出そうと振り向いた瞬間、後ろに子供がいた。
幼稚園児ぐらいの歳で、当たり前だけど私より小さい。しかもテディベアを抱きかかえてるのが可愛い。
「こ、こんにちは・・・」
彼女に手を振って挨拶すると、私を指差して言った。
「ママ、れでーぶらすとだよ!」
「ふふっ、そうね」
どうやら私は幼女にも認知されているようだ、やったね。
私は帰る前に、彼女と連絡先を交換する。何かあった時に駆け付ける事が出来る・・・自信は無いけど。
その後、私が本部に戻ると早速訓練が始まったのだが───私の相手、というより教官はどういう事か、ある人物だった。
「改めて紹介しよう。お前に近接戦闘を教える"シェイパー"だ」
そう、何と私と戦ったヴィランの1人で、別の人物になりすます事ができる暗殺者だ。
青白い肌───というよりは青い肌に近く、髪はブロンドの美しさと不気味さの両方を持っている女性だ。
「その姿もお得意の擬態?」
「いいえ、これが"私"」
どうやらその言葉は本当のようだったが、何を考えているのか、この時の私は喧嘩腰になっていた。
「暗殺しかけておいて教官って・・・藤堂さん騙されてません?」
「"温室育ち"でヒーローしてる貴女を鍛えろと指示があったのでね」
私は"温室育ち"と言われてカチンと来る。確かにここで『古い世代』だの『老害』だの言えば良かったんだけど、感情的になり過ぎていたせいか、考えがそこまで行き届かなかった。
サウンドブラストを撃とうとする私を藤堂さんが宥め、彼女の事を咎めた。
最悪な雰囲気の中で訓練が始まり、一騎討ちならシェイパーよりも優位性が取れる・・・筈だった。
この時、私の着ていたコスチュームは謂わばレプリカで、素材に関しても簡単なものしか使っていない。その為か、普段のと比べると攻撃を吸収しなかった。
シェイパーは棒やヌンチャクなどの武器を使用する。銃を使わない分、楽だと私は思っていたが、彼女は近接戦にも秀でていた。
宙を飛ぼうが、地上でサウンドブラストを撃とうが無理で、完全に動きを読まれているかの如く私は倒された。
「そんな体たらくで正義の味方が務まるとでも?」
彼女は私が倒れる度、煽る様に言った。
「チヤホヤされる為に戦ってるなら、そんなヒーロー活動やめた方が良いわ」
その言葉を最後に限界を迎えた私は、戦うのを中断すると、マスクを床に投げつけて、部屋から出て行った。
その後私はロッカールームでいろんな感情が込み上げながら泣いていた。
普通ならスポ根みたいに何糞でトレーニングすれば良かったのかもしれないが・・・煽り方が心にグサグサと刺さり過ぎて辛いんだよね。
そんな時に、こちらにある人物が近づいて来る。それはI.S.M.A.の人では無くてシェイパーだった。
何を考えているのか、彼女はそのままの姿で来る。また煽るんだろうな・・・と思っていたが私の予想は外れた。
「・・・何しに来たの?」
「貴女を連れ戻しに」
「あなたなんかに連れ戻してほしくない」
そう言われた彼女は、私を煽るかのように藤堂さんや衣莉奈さんの姿へと変わって、トレーニングへ戻るようにそれぞれの口調で言った。
そんな彼女の行為に私は再びキレてしまった。
「どんだけ私を怒らせさせれば気が済むの!?」
私がそう言うと、彼女は溜め息を吐きながら隣へと座った。
「ちょっと隣失礼するよ」
不機嫌な私を尻目に彼女は座るが、私は少し距離を取って顔を向けなかった。
「・・・私が嫌い?」
そう言われるけどその通りだよ。今は嫌いじゃないけど、分かりきっている事をわざと言ってるのほんとやめてほしい。
私達が無言になっていると、先に彼女が口を開く。どうやら身の上話のようだ。
「・・・貴女と同じぐらいの歳に、私は叔父から暗殺術を学んだ」
「・・・家族は?」
「居ないわ、もうね」
「そうなんだ・・・聞いてすみません」
「いや、私の事を化け物扱いしてたから正直どうでも良かった」
そんな話を聞いて気まずくなった私は話題を変える為に彼女の名前について言った。
「"シェイパー"って何の意味?」
「"シェイプシフター"って言えば解る?』
彼女が言ったその名前は、海外に伝わる妖怪の事で、色々な姿に変身する能力を持つ。だからその妖怪に似た能力を持つ彼女は、その名前を省略して名乗っているのだろう・・・まぁ、この時の私は知らなかったが。
そんな話をしながらも、私達の険悪なムードは無くなっていき、その後は訓練を再開した。
今度は彼女も煽らずに戦い、私も何とかサウンドブラスト以外の攻撃手段を身に付けようとした。
近接戦の訓練を始めて一週間───私は様々な格闘を覚え・・・じゃ無くて身につける。正直、ちゃんと習得したとは言い難い。
しかし、その訓練時にある事件が発生する。それは休憩に入った時だった。
私は何気無くスマホを覗くと、そこには華さんからの着信があり、私は焦って掛け直した。
「・・・もしもし、どうかしたんですか!?」
『未可矢さん、あの・・・ちょっとお話したい事が』
彼女の話を詳しく聞き、私は驚く。何故かって、彼女の子供が不審者に襲われたのを白影が救ったからだ。
「それで、何かされましたか?」
『いいえ、ただ・・・貴女に対して"戦いを申し込みたい"と』
「場所について何か言ってましたか?」
彼女に訊き、私は場所と時刻をメモする。そして藤堂さん達にもこの話を伝えた。
その時、彼は私に驚いていたが、報連相は大事だからね。ドヤ顔晒してる場合じゃないけど。
そしてその日は来て、私は所定の場所へ向かった。
3時30分───私は秋津城跡地に現存している門の下で待っていた。
そもそも秋津城とは・・・なーんて、解説するべきなんだろうけど、話が脱線しちゃうからね。
私が待っていると、そこに奴は来た。
門の両脇にあるライトの光に照らされる私と、暗闇の中でも若干判る白い暗殺者───どうやら真正面から来たようで、私を奇襲する気はないようだ。
白影は私に近づくと、彼は分かりやすく日本語で話してくれた。
「・・・来たか」
「ええ、あなたが呼んだらしいから」
私の言葉に彼は鼻で笑った。
「何かおかしい?」
「いや、素直に来るとは思わなくてな。それとも"馬鹿"なのか・・・」
馬鹿と言われてイラッとは来るが、ここは抑えて冷静に質問した。
「で、あなたはどうして木下家をストーカーするのかしら?」
「俺じゃない」
「他人のせいにしようったって無駄だよ」
「まだ分からないのか、お前が俺を阻止する事で、あの親子が命を落とすんだぞ?」
「じゃあどうして私にあの手紙を?」
「それは───お前を分からせる為だ。お前みたいな、その能力に頼りっきりの奴には、痛い思いした方が良さそうだ」
「そうしたいのに悪いけど───前とは違うから」
「ほぅ? じゃあやるか、레이디 블라스트!!」
彼はその言葉を最後に戦闘を始める。最初に相手は再びナイフハープーン・・・じゃなかった、ロープ付きのナイフを投げ飛ばすが、私はそれを避けてハンドルを掴んだ。
白影は動揺した表情見せずこちらを睨んでおり、私は不敵に笑いながらロープを掴んで勢いよく真上に上げた。
ロープを掴まれ、彼は宙に浮かぶが、それでも冷静にナイフを投擲した。
私はそれをサウンドブラストで撃ち落とし、一撃喰らわせる為にこちらへ引き寄せた。
急激に引き寄せられ、相手は行動する暇なく私に急接近し、私は拳を彼の顔面に当てようとした。
しかし、相手は機転を利かせるように私の顎を足のつま先で蹴り上げて、そのせいでロープを手放した。
痛ったぁ・・・なんて言う余裕も無く、私は口元を抑える。多分この時涙目になってた。
幸いにも舌噛んだ訳じゃないから血は出なかったけど、顎痛い・・・
「どうした、もう終わりか?」
彼は右手に軍用ナイフを持って私に接近して刺そうとするが、それを止めて腹部を蹴った。
彼は後ろに進んでよろけるが、すぐに立ち直ってナイフを逆手に持った。
ナイフによる斬撃を避けながら防戦に徹した後、私はナイフを持った手に手刀を当てて落とさせるが、次に両刃付きナイフを持って攻撃を再開した。
私は避けながらも攻撃をするものの、彼は周りを回るように避けていく。そして背後に回り込まれた後、片膝を跪かされた。
そう、私の身体にロープが巻き付いており、私は身動きを取れない状態にされていたのだ。
ナイフを首に向けられ、彼は『勝負あったな』と言うが、私は自分の後頭部を勢いよく相手の顔にぶつけた。
彼は悶えるような声を出してよろけると、その隙を私は見逃さず、後ろを振り向いてサマーソルトキックを彼に仕掛けた。
しかし、彼はそれでも後ろにバク転して回避すると、口に付けたマスクを下げた。
口を切ったのか、彼は口の周りが血だらけになっており、それを手で拭って母国語で悪態をついた。
「・・・チッ、やるな」
悪態をついた後に私を認めるような言葉を言う。喜びたいところなんだけど、油断を誘っていると思って臨戦態勢を取った。
先程激しい動きをしたせいか拘束は解かれており、正直サウンドブラストを撃ってもいいのだが・・・この時の私は訓練した事で調子に乗っていたのか、新技を披露したいのか、とにかく近接戦で決着をつけたかった。
「どうした、あの技を使わないのか?」
挑発するようにあの技の使用を訊くが、多分サウンドブラストの事だろう。
「使えば貴方を早く倒しちゃうからね」
「よく言うぜ・・・その軽口、叩けないようにしてやるぜ!」
彼はこちらに走って向かってきた後に両手に持っている湾曲したナイフをクロス状に振るが、私は宙にジャンプして背後に回り込んだ。
しかし、彼も想定していたのか、回し蹴りを繰り出して私は両腕でガードした。
相手の攻撃を受け流し、新技を披露したいがいつやればいいのか分からず、私は疲弊するばかりだった。
「───何にこだわってるのか分からんが、早めに俺を倒さないとヤバいんじゃないか?」
確かに正論なんだけど、"訓練で身につけた技"を披露したい私はサウンドブラストを撃つのに躊躇っていた。
我慢の限界だった私は、少し助走をつけて相手に向かって走った後、彼の頭に両足を巻き付けてそのまま投げつけた。
その攻撃を受けても彼は立ち上がるが、それが決着の決め手になった。
彼がこちらを振り向く直前に急接近した私は、殴る方の腕にエネルギーを溜め込む。それは、腕から拳に伝わり、相手の腹部へとそれを叩き込んだ。
白影は回避する暇なく腹部に私の拳を喰らい、口からは血と唾液が混ざったようなものが彼の口から出てきた。
チャージ───それが私の新技で、訓練の時に編み出した技だ。名前がダサいって言うのはやめてね。
この技はサウンドブラストとは違い、拳や腕に溜め込んでそれを対象に叩き込む技で、放出するわけではないからあまり疲労もしない、これからも使う技だ。
勝負有りだと分かったのか、私達のいる所が急に照らされ、周りからはI.S.M.A.の捜査官や実動隊が現れて白影を取り囲んだ。
「・・・仕組んでいたのか」
そうだ・・・なんて言いたいけど、実は此処までやるとは思っていなかった。
「まぁ、貴方には此処で大人しく・・・」
「───アイツは野放しにする気か?」
私はその言葉に思考停止するが、そこに藤堂さんが現れた。
「いや、お前が暗殺したい奴ならもう捕まえた」
彼が言ったその言葉に対して、白影はその場に座り込んで笑い始める。その笑い声は自分のした事が無意味だったという自嘲なのか───今でも分からなかった。
その後、彼はI.S.M.A.の方で一時的に留置する事になった。
彼は日本に来て、一度も人を殺してはいないようだが、過去の経歴などから見逃せないと言う事で、依頼主の安全と引き換えに彼自身は"テラーゲート刑務所"へと収監される予定だ。
シェイパーも彼と同じく入所するようだが、I.S.M.A.に協力した事で、懲役は短くなるようだった。
なら、ストーカーの事件の真相はというと、それはとても悍ましい話だった。
まず、白影はそもそも木下家をストーカーするのが目的ではなく、真のストーカー犯を見つけることが目的だった。
それが私と彼が初めて遭遇した時にいた小太りの男───彼はその後、兄に確保され、違法改造したモデルガンや華さんに送る為の手紙などを所持していた事が決め手となった。
容疑についてはすんなり認めたものの、彼は『正義は果たされた、人外は出ていけ』と過激な発言をして行動を正当化し、ネット上では彼を"英雄"として扱う者もいた。
恐らく彼の言う"正義は果たされた"とは、木下巡査が亡くなった事を示しているようで、だからこそ彼は勝ち誇ったように言ったのだろう・・・それが特に胸糞の悪さを増長させた。
それから夏休みに入り───私はある人と秋津城跡地で待ち合わせしていた。
その彼とは白影の事で、彼に本名はない。偽名はあるが、これでいいと言った。
彼は『刑務所に入る前に"アイツ"と話がしたい』と言ったようで、"アイツ"とは私の事だ。
一応許可は降り、ドローンによる監視付きではあるものの、私達は気にしなかった。
私は門の前を通り過ぎようとしていたアイス売りのお婆さんに"バラヘラ"と言うコーンアイスを2個買って、彼の元へと戻った。
お婆さんはレディブラストを見慣れているのか、あまり驚かずに『いつもありがとね』と言ってくれて、私は嬉しかった。
「はいこれ」
「おう、ありがとよ」
彼はフードを外して素顔を晒しているが、どう見ても俳優になれそうな顔立ちしてる。数年前に秋津市を訪れた俳優さんみたいだ。
「お、これ美味いな!!」
「でしょ? これ地元の名産だから」
私は誇らしくそう言う。今の彼は暗殺者というより、気前の良さそうな兄ちゃんだ。
「留置されてた気分は?」
「意外と悪くねぇ、多分あの胸糞野郎が捕まったからなのか、あの組織がちゃんと飯をくれたからなのか・・・」
それを言われて、私は思わぬ事を口に出してしまった。
「・・・貴方の名前って、元は組織名だったんでしょ?」
「そうだが?」
「恨んでないの? 支部は違うけど組織としては同じだし」
「───正直、俺はあんな所潰されて当然だと思っているから恨んでも、喜んでもいないな」
「そうだったんだ・・・」
「でもよ、俺のこの名は一生名乗り続けるぜ。この名前、結構気に入ってるしな」
彼は笑いながらそう言った後、視界の向こうにある池を見ながら表情を暗くした。
「俺、実は孤児でな。その中でも捨て子なんだよ」
彼は捨て子としてある孤児院で育てられる。そこが白影の所在地で、彼等は様々な暗殺依頼をこなす為に日々訓練していた。
様々な言語を学ぶ理由は、殺す時に"勘違いを引き起こさせる"為だと言い、それで様々な言語を学んでいたようだ。
しかし、他文化はおろか、自国の文化すらあまり教えて貰えず、ただひたすらに人を殺す為の機械として訓練を続けていたそうだった。
「俺の国じゃあ、兵役につくのがお約束だったようだが・・・俺達のような捨て子は幼い時から暗殺者としての役に就くしかなかった」
現実的とは言えないものの、私はその言葉にどう反応すれば良いのか分からなかった。
「・・・なら、どうして秋津市に?」
私からの質問に、彼は少し考えてから答えた。
「・・・あんまり言っちゃいけないんだが、依頼したのは"あの母親の両親"だ」
「あの母親って・・・まさか華さんのこと?」
「ああ、多分親には言ったんだろう。殺されるかもしれないって。そしたら俺に依頼が回ってきたってわけさ」
「そうだったんだ・・・」
「まぁ、"誰かさん"のせいで計画はパーになっちまったけどな」
彼の言う『誰かさん』とは私の事で、それが心に刺さった。
「ごめん・・・でも、私ヒーローだから」
「・・・あんまり言いたくないけど、お前は、いや───お前達は"甘過ぎる"」
彼はそのまま話を続けた。
「お前は、あのニュースを見たか?」
「まぁ・・・良いものではなかったけど」
「あれは俺の国でも、いや、どの国でも起こっている。別の国の奴を見て痛ぶり、そしてそれを『正義は果たされた』と声高らかに宣言するような奴らがな・・・」
「やっぱりそうなんだ・・・」
「だが、お前達ヒーローはそんな奴等でも生け捕りにしようとする。それが俺には理解できん」
「私だって、貴方がどうしてそう言うのか・・・」
「分からなくていい」
「それ、答えになってないよ」
「まぁ、このままヒーロー続けていくなら、明確な悪役だけじゃなくて、"守らないといけない大衆"にも気をつけろよ」
「・・・意味分かんない」
「あと、バラヘラってアイスご馳走さん」
そう言って彼は立ち上がった。
「あ、ちょっと・・・」
「안녕히 계세요, 레이디 블라스트」
彼は韓国語で別れを告げた後、私はひとり草原に座っていた。
彼の言った事は私との価値観を違いを物語っていた。
ヒーローだから生け捕りにしようとする私と、暗殺者だからこそ、殺してしまった方が良いと思う彼・・・確かに彼の言う事には間違いもあるが、同時に正しさも感じてしまった。
それでも、私は、私は自分の信条を貫きたい───それが自分勝手な考えであっても、私は・・・後悔したくないんだ。
これからレディブラストの話が不安で不快なものになっていくかもしれないので気をつけてください。