第5話:レディブラスト暗殺依頼
雑になって申し訳ありません。少しでも見ていただけると嬉しいです。
正義の味方には危険が付き物だ。特に厄介なのが擬態する敵で、日常生活を脅かす程凶悪だ。そんな相手に私が戦った話をしよう・・・
ある日のこと、スマホでは時々心無い情報が流れてくる事がある。そう、風評被害だ。
『レディブラスト、被害を出しながらも勝利』
この記事はまだ良い、問題は次だ。
『後始末をしないヒーロー、尻拭いされる警察官達』
『自己中心的なヒーロー、今の世代が影響か』
本当に最低な記事ばかりだった。私は人の生活を脅かすヴィランと戦っているのに、ネットの奴らと来たら、自分達は野次を飛ばすだけで何もして無いじゃん。
しかし、この時の私は自分の中にある独善的な考え方に気付けなかった───最も、今でも気付いてないのかもしれない。
「ミーカっ、元気?」
後ろから抱きついてきたのは橙子だ。彼女もマダムヴァイパーの毒にやられたが、今は大丈夫そうだった。
「私は元気だよ」
本当は批判とかで元気じゃないけど、私は誤魔化す様に元気な素振りをした。
そう、私が今ヒーロー活動をしているのは他の人から強制的にやらされているからじゃない───自分の意志なのだ。
家に帰ってから私は、夕食を食べた後すぐにコスチュームに着替えて、夜の世界へと繰り出した。
食後の運動・・・になっているかは分からないけど私は飛行能力を駆使してパトロールをする。この能力、やっぱり便利過ぎる。
正直なところ、この町で犯罪行為が起きる事自体あまり無かった。それどころか、私がこうやって活動しているせいで、犯罪率が上がっているような気がする・・・そんなジレンマを抱えながら私は、ビルの屋上で冷たい風に当たっていた。
そんな時、私の耳へ誰かが助けを求める声が聞こえる。風が運んできた微かな声───それを私は聴き取り、すぐ現場へ向かった。
場所は人気のない公園で、そこでは一人のサラリーマンが尻餅をついて、何人かの不良に囲まれていた。
私は見事に着地し、最初に挨拶をした。
「寄ってたかって何やってんの?」
私の声に気付いた不良達は、一斉にこちらを見た。
「あぁ? 邪魔すんのか?」
一人がそう言うと、もう一人が何かに気付いて彼に言った。
「コイツ、レディブラストだよ・・・ほら、あの」
「コイツが?どうせハッタリだ。シバいてやるよ」
一人が私に殴りかかってくるが、その迫力に驚いた私はすぐに腕を構えてサウンドブラストを放つ。それはちゃんと命中して相手を吹き飛ばした。
「・・・で、次誰?」
粋がってそう言ったら、不良グループは仲間を引きずって逃げて行く。拳で勝負すべきなんだけど・・・まぁいいか。
私は尻餅をついているサラリーマンに手を差し伸べる。
「大丈夫ですか?」
男は手を取って立ち上がり感謝をした。
「ありがとう」
「別にいいんですよ。当然のことをしたまで───」
銃弾が2、3発放たれた。命中した先は・・・私の腹部だった。
「やはり、超人ではこの弾でも無理か・・・」
サラリーマンは女の声を出して言う。私の身体に風穴が開いた訳ではないものの、ある種の痛みが私を襲った。
痛みで座り込んだ私は、サウンドブラストを撃ちたかったが、その腕を蹴り飛ばされてそのまま押し倒された。
押し倒された私は脚で片腕を踏まれる。その痛みは私に悲鳴を上げさせた。
「なん・・・で・・・!?」
「残念だけど、"貴女を殺せ"との依頼なの。これが仕事だから、恨まないでね」
私に銃を向けて撃とうとするが、犬の吠える声を聴いてすぐ撤退する。私は追いかけようとするが、体が思い通りに動かずその場で倒れてしまった。
そこからどれほど時間が経ったのだろうか───私が目を覚ますと、空は夜から朝に変わろうとしていた。
呻き声を上げながら起き、私はすぐ家に戻った。
昨日の痛みのせいか途中で墜落しかけるものの、私は自分の部屋で着替えて朝風呂をした。
服を脱いだ時に気付いたのだが、弾丸の当たった腹部は青紫色に腫れており、人に見せたら勘違いされる程だ。
昨日のサラリーマンは何者だったのだろうか───私は朝食を食べながら考えていた。
恐らくあれは仮の姿・・・そうなると今回の敵は女性だろうか?
何はどうあれ、私は学校に向かう。学業疎かにするのは駄目だから仕方ないね。
普段通り学生生活を終え、普通に帰って行く。退屈だが、危険と隣り合わせのヒーロー活動とどっちが良いかなんて、この時の私には分からなくなっていた。
超人的な能力に目覚めた事での高揚感、他人より優れたものを持っているという優越感、そして───私の中にまだある万能感。
恐らくまだ無責任な部分が私の中に残っているのだろうが、そんな自分を気にしないようにしていた。
帰り道、私は膝をついているお婆さんと出会う。どうやら転んで腰を痛めてしまったようだ。
あの時と同じように手を差し伸べる私の脳裏には、ある考えが浮かんでいた。
「〔もしこのお婆さんが、変装していたら〕」
私はそう考えると震えが止まらなくなり、動悸が激しくなる。この気持ちを抑え込もうとしても抑えきれない。怖い、もしこの人が昨日のアイツだったら───
駄目だ、冷や汗が止まらないし動悸が治らない。そんな時、聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。
「ミカ、どうしたの!?」
橙子は、私の後にこの道を歩いてきたようで、変になっている私を後ろ姿だけで気付いた。
「この子、私を助けようとしたら急に・・・」
お婆さんが説明して、橙子はどちらを助けるべきか迷うが、先に彼女を助けて私の背中をさすった。
「ミカ、大丈夫?」
その後私は橙子のおかげで家に戻る事ができたが───その日以降、私は恐怖を感じてしまい、家から一歩も出る事ができなくなってしまった。
そのため学校も休んだ。親は嫌そうな声を出しており、ますます私は辛くなった。
考え過ぎ、私の中でもそれは分かっていた。だが、上手く考えを変える事ができない。いつ襲われるか分からない、ヒーロー活動も休止すべきなのかもしれない。
「───私、頑張ったよね」
ぽつんとその言葉を呟き、一人涙を零した。
自分が悪いのに、ヒーロー活動をしている以上自業自得なのに、どうして涙が出るんだろう・・・今までも怖い人達を相手にしてきたのに、急に弱気になってしまった。
スマホには橙子からのメッセージが来ているが、それを返信する気にもなれなかった。
しかし、もう一方のスマホからは何度も着信が鳴る。まるで私を呼ぶように何度も鳴り続けた。
その音にイラっときた私はそのスマホのボタンを押す。すると、珍しく電源が付いた。
不思議な事に、このスマホのメッセージを見ると、そこにはある事が書かれていた。
『君のスマホの電源を切れ、探知されるぞ』
そんなメッセージ信じる訳───あるんだよね。神にも頼りたい私は、素性のわからないメ人物の指示通り行った。
その後、私はメッセージを送る。これで返信来るといいけど。
『あなたは何者?』
メッセージはすぐ返信された。
『後で話す。今は"誰も信じるな"』
この送り主を信じていいものか分からないけど、とにかく信用できそうな気がしていた。
『じゃあどうすれば?』
『君には選択肢がある。このまま家に居て我々に任せるか、君が倒しに行くか』
二択しか選択肢が無いものの、私はこのメッセージで決意した。
私は『ありがとう』とだけ送信して、外に出る。私を狙ってるならこっちから出てやる。今の私の気分は高揚しているせいか、無敵感があった。
敵は多分、私を誘き寄せる為に何処かで隠れている・・・そう思った私は空を飛行していると───その予想は当たった。
風を切るような音が聞こえ、それを避けようとするものの、少し遅れて私に命中した。
空中で私は血を吐く。弾丸は私の片腹に命中し、堕ちそうになったが、根性で何とか耐えた。
根性・・・私の苦手な言葉なんだけど、そんな事言ってられない。私はビルの一角から一瞬見えた光を頼りに加速した。
敵の近くに来たものの、奴は屋上から身を投げ出した。
その行為に驚いた私は空中で捕まえようとしたが、敵は何らかのスイッチを押した。
スイッチが押されると、何処かで叫び声───それは別のビルで清掃員がゴンドラから落ちかけていたのだ。
ここで私は運命の選択をする───一つは目の前を落下するヴィランを捕まえることを優先させるか、それとも今にでも落ちかけている清掃員を助けるか・・・いずれにせよ、どっちも助ける事が今できない状況だ。
私は悩む───ここでヴィランを逃したり見殺しにすれば、恐らく私の中で後味の悪い結果しか残さないだろう。だからと言って、清掃員達を見捨てる事はヒーローの掟に反するし、もっと後悔する。そうなると、答えは一つだった。
方向転換し、清掃員を助ける。ゴンドラを下から支えるのはだいぶ辛いが、何とか無事に着地した。
周りの人からは拍手が起き、清掃員からも感謝されて嬉しい気持ちになったが、敵のことが気がかりですぐ戻った。
そこに戻ったのはいいものの、ヴィランがいない。ただ、地面にも血がついていないから本当に落ちた訳ではないようで安心した。
周りを見てもいない───恐らく誰かに変身して紛れ込んだようだ。
私が探していると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「あっ、レディブラスト!!」
そこにいたのは何と橙子だ。早退でもしてきたのか、制服を着たままだ。
私はもう少しで素を出しかけるが、何とか抑えて彼女に話しかけた。
「今日学校は?」
「ふふっ、今日は"午前授業"だったから」
彼女はそう言って、私の手を引っ張った。
「来て、あなたに助けて欲しい事があるの!」
「助けって・・・」
そうして来たのは路地裏だ。ここら辺で何かあったようだ。
「さっき、ここで男の人に財布を取られたの」
「どんな人だった?」
「大柄で怖い感じの───」
「・・・嘘はつかない方がいいよ」
私はそう言い、彼女は動揺する。
「な、何でそう思うの?」
「だって、今日は"午前授業"じゃないもの」
その言葉に、橙子の姿をした人物は表情を固め、煙幕を下に投げた。
逃すか、と思った私は煙の中で神経を研ぎ澄まして姿を捉えた。
ヴィランを捕まえたと思いきや、逆に身体を掴まれて投げ技をされた。
煙が晴れると、そこにいたのは───私だ。厳密に言うと、私の姿をしたヴィランだ。
私は立ち上がって戦闘態勢に入る。敵は拳銃とナイフを構えて私に攻撃を仕掛けた。
敵の銃弾を避けながら私もサウンドブラストを放つ。しかし相手もそれをすんなり回避した。
接近戦に持ち込むが、相手の方が一枚上手で私はすぐ倒された。
「貴女を殺すには、口の中に撃ち込まないといけないわね」
私の髪を引っ張り、銃を撃とうとしたが、私は相手の顔面に頭突きした。
相手は鼻血を出して苦悶の表情を浮かべ、解放された私はもう一度光線を放った。
───その後、私は気絶していたようだ。恐らく頭突きをしたせいなのか、それとも先程の光線でエネルギーが最後だったのかは分からない。ただ、一つ言える事は恐らく勝ったという事だろう。
目を覚ました私はベッドの上にいた。ただ、病院とは違うような気がしていた。
「目が覚めたようだな」
私の横で声が聞こえて、その方向を見ると、そこには大柄な男がいた。
「誰、ですか・・・?」
「俺は藤堂昭夫、レディブラスト───君の力を借りたい」
これからも不定期で続きます。