第1話:正義の味方、始めました
気になる点はあると思いますが、少しでも見ていただけたら嬉しいです。
「私、正義の味方になりたいな」
そう思って何年経ったのだろう───私は正義の味方、言わばヒーローに憧れていた。
誰だって何かに憧れを抱いて生きるが、そんな理想を叶えられる人はあまり多くないし、叶えるとしても現実的な理想だ。しかも私みたいな突拍子もない幼稚な夢が実現するなんて有り得ない話だった。
でも、もし───ある日突然、そのチャンスが巡ってきたら、あなたならどうする?
それはある日の事、私はスマホの目覚ましで起きた。
ボサボサ頭にまだ寝足りないような冴えない顔をしていると、部屋をノックする音と同時に母親が来た。
「ミカ、目覚ましを鳴らしているなら起きなさい。もう朝食はできてるけど、顔を洗ってそのボサボサ頭を梳かしなさい」
私は無気力そうに『はーい』と言って、母は部屋から出て行った。
そして身支度を整えた後、私は制服姿で下の階に降り、ダイニングに入り、椅子に座った。
今日の朝食はいつも通り、食パンに目玉焼き、そして昨日残っていたレタスに味噌汁だ。そして隣に座っている兄や私の斜めに座っている父親はご飯を食べている。
「和也、ミカを送って行ってくれないか?」
父親が私を気遣ってくれたのか、送迎を兄に頼むが、私は遠慮した。
「お父さん、私は大丈夫だよ」
「別に送って行っても良いよ、警察署に行くついでだけど」
兄からそう言われて、私は少し考えた後、その提案に乗る。甘えかもしれないが、甘えたい年頃なんだ。
そして自宅から出て、私は兄の乗るセダンの後部座席に座った。
「忘れ物は?」
「ない」
車が出発し、私は窓から見える景色をぼんやりと眺めていた。
秋津市───東北地方のある県にあり、私はそこに住んでいる。とは言っても田舎で、都会らしさは中心部に少しある程度・・・遊べるレジャー施設もあまり無い、辺鄙な所だ。
そんな事を考えながら、私は運転している兄を見る。彼は刑事で、私よりも積極的で様々な事を卒なくこなす男だ。しかも同じく正義の味方を志していたにも関わらず、私よりも現実的に実現させた。
車からはラジオが流れ、ニュースなどの話が出てきた。
「・・・次のニュースは、冬間市で起こった事件です」
正義感が強いのか、私の兄は暗いニュースでもラジオを聴いている。そんな私はスマホで憧れのヒーローについて調べていた。
好きなヒーローは多いがその中でも特に憧れを抱くのは"キャプテン・サンダーボルト"と言うアメリカのスーパーヒーローだ。
彼は私が生まれる前から活躍していたヒーローで、高速で動き、自分の指を避雷針のように扱って落雷を操る事ができる人物だ。
現在は引退したのかも知れないし、何処かで亡くなってしまったのかもしれない───とにかく誰にも彼の行方を知ることはできなかった。
それから少し経ち、車が学校より少し離れた場所に着き、そこから降りる。学校で降りると同じ学校の生徒に注目されそうで恥ずかしいしね。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「別に良いよ」
兄は私を送迎した後、彼は自分の勤め先に向かった。
私は学校に着き、教室に入った後自分の席に座った。周りには自分のクラスメイトがそれぞれ思い思いに朝礼前の時間をくつろいでいた。
私の席は、教卓から見て右側1列目の3番目───そう、窓からの風景を眺める事ができる最高の席だ。
私は街の風景を眺めながら物思いに耽る。学校の建っている場所が市の中心部で、外には解体予定のビルが見えていた。
2020年に日本でオリンピックが無事に開催されて、だいぶ景気が良くなったおかげか、秋津市では中心部から都市を拡大する計画を立てているようだが・・・それはいつになるのか、今でも分からなかった。
私が小学生の頃───ある爆発事故に巻き込まれるものの、奇跡的に生きていた。
映画みたいな話だけど本当だからね。信じろとは強制しないけど。
まぁ、非現実的な出来事というのはそれぐらいで、あとは今まで普通通り、どこにでもよくいるただの一般市民として今まで生きていた。
朝礼の時間が来て、クラスメイトはそれぞれ自分の席に座る。そして、担任の教師が教卓に立ち、クラスの委員長が挨拶をした。
「起立、気をつけ、礼」
「おはようございます」
いつも通り挨拶をし、先生が出席を取る。これもいつも通りのことで、名前を呼ばれた人は『はい』と言って、次の人の名前が呼ばれる、その繰り返しだ。
そして、私の順番が来た。
「立花未可矢」
「はい」
そう、立花未可矢が私だ。しかも平凡な方の自分で、マスクの奥にいる自分。
朝礼が終わり、また学校生活が始まる。今の私は高校2年生になったばかりだ。
今日の時限が全て終わり、やっと帰れるようになる。私はこの学校が終わる時が1番好きだ。
「ミーカっ」
私の背中をポンと叩き、あだ名で呼ぶのは私の同級生である"真壁橙子"だ。
彼女は中学校からの友達で、明るく陽気な人物───こんなにも陰気な私を親友と言ってくれたが、彼女の真意は分からなかった私は、自分から接しようとは思わなかった。
「どうしたの?」
「どうしたのって、私と帰らない?」
「他の友達は?」
「もーっ、冷たいんだから。今日はあなたと帰りたいの」
橙子は、そう言いながら私に両手を合わせて『お願い』と口パクで伝える。私はまんざらてもないように『良いよ』と言うと、彼女はとても喜んでいた───正直なところ、私も誘われて嬉しかった。
その後、私は橙子と一緒に駅前のゲームセンターに行ったり、彼女が欲しい化粧品店にも行った。
当然、彼女から化粧を勧められたが、私は気が乗らなかったので遠慮する。彼女も人の限度が分かるのか、笑いながら勧めるのを中断した。
「今日はありがとね、また明日」
「うん、また明日」
私は橙子を家の前まで送り、その後自分の家に帰って行った。
『ただいま』と言って帰って来た私は、風呂に入って今日の疲れを癒した後に夕食を食べた。
夕食時の食卓に兄の姿はない。まぁ、何か忙しいのか、サビ残なんだろうと私は思った。
こんな事はいつも通りのことで、最初は親も私も心配したものの、今はもう慣れてしまった。
夕食を終え、部屋に戻った私はベッドに倒れ込み、柔らかいクッションに1日の疲れを癒してもらう。そして、毛布を自分にかけた後、スマホを見ながら寝落ちした。
だが、眠りが浅かったのか夢を見る。その夢は昔起きた出来事で、昔と言っても小学生ぐらいの出来事だった。
私が小学5年生の頃、秋津市郊外にある"未来科学センター"という所に見学しに行った時の事だ。突然、火災警報が建物内に鳴り響き、外へ避難する羽目になった。
運が悪いというべきか・・・私はその時トイレにいて、お手洗いを済ませた後、逃げようとしたら謎の爆風に巻き込まれて───気絶していた。
その後は担任の先生と警備員に助けられて救急車で搬送されたけど、幸い命に別状は無かったし、体への異常も"その時は"無かった。
「夢・・・か」
夢から覚めた私は、また1日が始まる事に対して鬱々しく思っていた。
そしてまた1日を終え、生徒達はそれぞれ帰路についた。
今日の帰りは私1人で、橙子が誘わないって事は、彼女は別のクラスメイトと帰ったようだ。
家に帰る途中、ある小学生と会う。その子の名前は"大村武雄"という小太りの男の子で、私の近所に住んでいる知り合いだ。
「ミカお姉ちゃんだ」
彼は私を見つけると、手を振って近づいた。
「武雄くんも1人なの?」
「そうだよ」
「じゃあ私と一緒だね」
最初はご近所付き合いの一環としてこの子と遊んでいたが、彼もヒーロー好きだという事で意気投合し始めた。
私達は話をする為に、近くの廃墟に行く。その廃墟は元々鉄工所だった場所で、私達からすればある意味ここは秘密基地みたいなものだ。
そこで私達はヒーロー談議に花を咲かせることにした。
武雄くんは小学生という歳でありながらキャプテン・サンダーボルトの活躍を知っている侮れない子供だ。
「それでねー、キャプテン・サンダーボルトはヴィラン達を倒しにー」
しかし、楽しい時間はあっという間で30分ぐらい話したら家に帰している。武雄くんが親に怒られてしまうから、私はそれを危惧していた。
私も家に帰り、またいつも通りのことをして寝る。しかし、今日はなぜか違った。
夜中、急に目が覚めると、体が熱い───しかも燃えるように熱い。そして追い討ちをかけるように頭が割れる位痛い・・・息遣いも荒くなり呼吸も段々と乱れ始めてきた。
「あ、あぁ・・・」
あまりの痛みと苦しみ悶絶して涙目になる。インフルエンザでも熱中症の季節でもないのにどうして・・・とにかく何とかしないと───そう思いながらも身体や視界のふらつきに耐え切れず倒れ込み、意識を失った。
そして朝になり、母親が起こしに来た。
「ミカ、そんな所にいたら風邪引くわよ?」
私はゆっくり起き上がり、今の状態に驚く。なんと昨日の苦しみが治まっていたのだ。
私は自分の状態を昨日と照らし合わせながら整理する。何故かは知らないが頭痛も体の熱さも引いている───まるで、昨日の体調不良が嘘のように感じる程、今はとても生き生きしていた。
ただ、そんな自分の状態が気持ち悪く思いながらも、私は学校に向かった。
学校に来たのはいいものの、いつもより教室が五月蝿い。黒板も白チョークで書いた跡が粉まで綿密に見える。人の汗臭い匂いや鼻を刺激する化粧の匂いが私の嗅覚を狂わせた。
気が狂わないように耐えてはいるが、結局耐えきれず頻繁にトイレに行っては吐きそうになっていた。
それから体育の授業の時、ある事が起きた。
この時の体育はドッジボールで私は好きじゃないし苦手───まぁ、体育全般苦手なんだけど。
とにかく、運動神経の悪い私は時計を見て早く過ぎて欲しいと祈っていたその時───
「ミカ、前───!」
同じチームだった橙子が叫び、私は我に返るがもう手遅れ・・・ボールは私の顔面に向かって近づいていた。
しかし、私は知らない内にボールを掴んでいた・・・しかも視線外したままで。
その光景に対して他のクラスメイトが驚き、沈黙した雰囲気が流れる───私は受け取ったボールを見て我に返ると、それに驚いてボールを落とした。
「嘘だろ、あの未可矢が・・・?」
「流石に奇跡なんじゃ・・・」
色んなところで噂が聞こえる中、先生も我に返ったのか、手に持っていたブザーを鳴らして私はアウトになった。
それもそのはず、キャッチしたのは良いものの、ボールをそのまま落としてしまったからだ。
それから体育が終わり、先生は私に言った。
「立花、お前凄いな・・・」
しかし、褒められても私には見覚えがないし、単なる偶然だと私は否定した。
それからまた1日が終わり、心を覆う靄が晴れないまま帰路につく。橙子からは今日の様子について心配されたが、私は大丈夫そうに誤魔化してそのまま1人で帰った。
本当は大丈夫じゃない・・・今朝から様子がおかしい自分自身が普通な訳がない、そう考えると何故だか不気味さを感じていた。
帰路についている途中、私は武雄くんと会うが、正直言って、今の私からすると会いたくなかった。
「お姉ちゃん・・・?」
彼は私を見ながら心配したような表情をしている。それほど顔色でも悪いんだろうか、とにかく何とかしないといけなかった。
だが、ここで変な事を言って武雄くんを傷つけたくない・・・冷たくするなんてもっての外だった。
そこで私が思いついた事、それは馬鹿げた子供騙しだった。
「あっ、あそこに人影が!!」
子供騙しとは言え、こんな事で子供が騙される訳がない───そんな時、意外な事が起こってしまった。
私が指を指そうと左腕を挙げた瞬間、その腕からリング状の光線が出て、近くの電灯に当たると、電球部分から火花が散って割れた。
「えっ・・・」
私はその現象に唖然としている───もうどんな表情をすれば良いのか分からないぐらい困惑していた。
「お姉ちゃん、まずあそこに行こう・・・」
私は彼に引っ張られながらその場を後にした。
私たちはいつもの廃墟で状況を整理することにした。
まず先程の光線───あれはどう見ても私の腕から放たれたものだ・・・しかも光線を出したら何故かスッキリした。
「お姉ちゃんって、スーパーヒーローだったの?」
彼は口元を緩ませて私を見上げながら言う。その目は憧れや興奮を隠せていない程キラキラ輝いており、ヒーローショーで好きなヒーローに会ったような感じだ。
「いや、どうなんだろうなぁ・・・」
子供に近寄られるだけでこんなに恥ずかしくなるだろうか、私は目の前の少年から目を逸らしながらはぐらかした。
実際いつからこの能力があったのか分からないし、絶対に生まれた時はあり得ない。だとしたら有り得るのは───爆発事故があった時だ。
それなら何故、今になってその影響が出たのかは本当によく分からなかった。
「コスチュームとか無いの?」
能力の発現について考えている私を尻目に、彼が訊いた。
「コスチュームか・・・」
コスチュームなんて持ってない、だがそれである事を思いついた。
それから明日になり、私は武雄くんと待ち合わせて自分の能力を試すことにした。
まずはあの光線の出し方から始まる。家から集めてきた空き缶を的に光線を出そうとするが中々出なかった。
あれは偶然だったのか───いや、そんな筈は無い・・・出す手段がある筈だと思い、いろいろ考えてみた。
「技名を言ったら出るとか?」
「それかなぁ?」
私は彼の提案について考えてみる。あの光線はリング状に発射された───となるなら思いつく名前がひとつ。
「・・・"サウンドブラスト"」
「カッコいいねそれ!!」
「でしょー?」
ただ光線の名前を決めても中々出なかった為、この日は中止することにした。
それからある日のこと、私はコスチュームを考える事にする。頭の中で思いついたものを絵に描いては没にし、考えては首を横に振った。
そしてしばらく経ってからついにデザインが決まる。あとは材料を注文して待つだけだ。
材料が届いた後は衣装製作だ。通販で買った薄いマフラーにヒートテックのような上下のタイツ、手袋にブーツ───それにフロントジッパー付きの競泳水着を組み合わせてコスチュームを作り出した。
コスチュームには元がどこで作られた物なのか分からないようにスプレーで塗装し、服を縫ったりしてやっと完成した。
衣装は塗装が乾くまで少し時間がかかる為、顔を隠す為のマスクを作る事にした。
まず、鉢巻を自分の目に巻き付けて武雄くんにマジックペンで印を付けて貰う。そして印を付けた所を自分の目より少し大きく切り取り、これでマスクが出来上がった。
「なんか足りないような・・・」
「お姉ちゃん、これどう?」
マスクについて物足りなさを抱いている私に彼はゴーグルを渡す。そのゴーグルはバイク用で、恐らく彼の姉が使っていた物かもしれないから、私は再度確認した。
「本当にいいの?」
「うん。うちのお姉ちゃん、ヘルメットだから」
一応訊いてはみたが、彼は万遍の笑みで承諾してくれたので私は喜んで使うことにした。
後日、コスチュームの塗装が乾いたので試着する事にする。勿論、長いブロンドのウィッグも付けた。
何というべきか───こんなに恥ずかしいとは思わなかった・・・寧ろ良い歳して何やってるんだろう私。
「うわぁ・・・」
鏡の前に立つ私はどう見ても変質者だ・・・こんな姿で街を歩くなんて職質も良いところだ。
「まっ、いっかぁ・・・」
今からやり直す気にもなれず、私は自分で作ったダサいコスチュームのまま活動しようと決意した。
それからというもの、私はラジオやニュースに目や耳を通し傾けながら、自分の能力について結論を出した。
私の能力、それは体内エネルギーを操る能力で、あの時出た高熱は、その能力が発現する前兆だったのだ。
それが、恐らく能力を得た理由───いや、根本的に能力を得たのは小学生の頃に遭遇したあの事故だと思うが。
とにかく、私の能力はエネルギー弾を身体から放出するもので、そのオマケに身体能力とか五感も強化され、空も飛べそうな感じも何故かあった・・・これは願望だけど。
その後、私は武雄くんに自分のコスチュームを見せた。
「・・・す、凄い、カッコいいよ!」
彼は怪訝そうに目を細めてから急に笑顔でそう言う。だが、言い方がぎこちないし、絶対気遣わせている・・・
「〔分かるよ、絶対『このコスチュームダサい』って言いたかったよね・・・〕」
私はその気遣いに同情し、心を痛めながらも彼に感謝した。
そして、私のヒーロー活動が始まった。
最初はゴミ拾いや飼い猫探しから始めたが、評判はあまり良くならず、寧ろコスプレじゃない方が良い気もした。
でもそんな事でやめたら、コスチュームを作った意味が完全に無くなるので、私はそんな屈辱に耐えながら活動を続けた。
そしてある夜のこと、私がため息をつきながら歩いていると、ニット帽にサングラス、それにマスクを付けた明らかに怪しい人物が1名、コンビニの中に入って行った。
私は横目にコンビニの中を窓から覗くと、その人物はやはり包丁を取り出して店員を怒鳴りながら脅していた。
「〔これは───来てる〕」
最低な事に、私はこの状況に対して喜んでいる───私が活躍できる好機だ。
そうと分かった私は店内に入り、声を上げる。
「やめなさい!!」
店員も強盗も私の方を振り向き、唖然としている。強盗の方はどんな表情をしているか分からないが、絶対にそうだ。
「死にたくねぇなら帰れコスプレ"野郎"!!」
や、野郎!? 私ちゃんとした女の子なんだけど・・・まぁ良いか。
「お、脅しなんて通用しない!」
強盗からの警告に対して狼狽える私は涙目になりながらも威勢良く言った。
「〔あちゃー・・・こういうの苦手なんだよ私・・・〕」
こうして大声で怒鳴られるのが嫌いだという事を再認識した私だが、今は正義の味方───負けてはいられなかった。
しかし、強盗の方を見ると、彼は痺れを切らしたのか私へ包丁を向けて走ってきた。
だが、相手が私に近づく瞬間───何故か周りの光景が遅く見える・・・私の第六感がそうさせているのだろうか、私は左に避けた。
左に避けた私は転びそうになる強盗の背後を取り、腕を組んで仁王立ちした。
体勢を立て直した強盗が振り向くとそこに私がいる。驚いた強盗は一目散に逃げようとするが私は逃さなかった。
私は逃げる強盗に向かって腕を向け、サウンドブラストを放とうとした。
ただ、私がしたいのは犯罪者の私刑じゃなくて、懲悪だ。
殺しはヒーローの掟に反する行為・・・そう思った私は出来るだけ威力がそうならないよう祈りながら放った。
腕から出てきたエネルギー光線は強盗の背中に命中し、彼はすぐ倒れた。
ただ、まさかちゃんと出るとは思わなくて焦った私は、すぐに強盗の脈を確認する。だが、彼は生きており、私は自分の能力を制御できるようになったと喜んだ。
その後、警察が来てその強盗は捕まえられ、私は遠くでその光景を見届けた後、その場から去って行った。
そして次の日、新聞やニュースには私の事で話題となった。
見出しはなんと『コンビニ強盗逮捕、撃退したのは謎のヒーロー!?』と言うもので、監視カメラに私は映っていた。
それを見て、私ん家の茶の間は騒々しくなるが、私は味を占めたようにニコニコ笑っていた。
それからと言うもの、私はヒーロー活動に勤しむ。休日はやる事もなく家でだらけているだけだから、こうして社会貢献している方が自分としても周りからしても良いだろう。
恐喝や窃盗、更には煽り運転や暴走運転も阻止し、火事や水難事故からも人助けをした。
それか、徐々に評判は上がっていき、ある日取材班が人助けを終えた私に突撃取材をしてきた。
ヒーローになったのはいつ頃なのか、どうして人助けをするのか、と色々聞かれたが私は少しはぐらかしながらも答えていった。
「最後にあなたのお名前を教えてください」
現場にいたアナウンサーが私へ最後に質問をする。確かに、名前までは考えていなかった。
私は少し考えたが、ある名前を思いついて口元を緩めながら言った。
「私の名前は───"レディブラスト"です」
私は自信を持った満遍の笑みでそう名乗った。
しかし、この時はまだ知らなかったのだが、この秋津市には少しずつ魔の手が伸びていた。
この後、漫画に出るようなヴィランと私が戦うことになるとは夢にも思わなかっただろう・・・。
ここまで見て頂き、ありがとうございました。次回も見ていただけると嬉しいです。